ふむ・・・もう、そんな時期でしたか。


 学園寮で荷解きをしたあとゆっくり過ごして、後期授業が開始。


 再会を喜ぶ声や、長期休暇中にどこどこへ行った、なになにをしたという話題があちこちから聞こえて来る。


 アホ共も元気そうでなによりだ。


 エリオット経由でルリア嬢に、セディーの様子がおかしいと思ったらわたしへ知らせてほしいこと、またわたしのお願いはセディーには内緒にしてほしいと頼んでみた。


「? セディック様のことが心配なんですね~」

「まあ・・・キアンが、セディーのことを気にしてたから」

「! なるほどです。わかりましたっ、ルリアちゃんにセディック様のことはお願いしておきます!」


 と、頼んで数日。ルリア嬢から快諾のお返事。


 ケイトさんにも同様のお願いをした。


「セディック様のご様子を、ですか……なぜですか、とお聞きしても?」

「セディーは、弟であるわたしにはあまり弱みを見せないようにしていると思うんです。なので、少し心配で」

「そうですか・・・確かに、セディック様はなかなかに貴族らしいお方ですからね。わたしにもあまり弱みを見せてくれるとは思いませんが、ネイサン様が心配するお気持ちもわかります。セディック様はどこか・・・危なっかしいところがありますものね」

「あの、このことはセディーには内緒に……」

「勿論です」

「ありがとうございます、ケイトさん」

「ふふっ、可愛い弟の頼みですもの」


 と、優しく微笑まれました。


 どうやらわたしは、ケイトさんにとって『可愛い弟』になっていたようです。リヒャルト君と同列とは思いませんが、一体いつの間に・・・? と思うのと、なんだかこう、すっごく気恥ずかしい。


 それから、乗馬クラブに勤しんだり、レザンに「鍛錬をするぞ!」と突発的に追い掛けられたり、中間テストだなんだとわいわい過ごして――――


 週末にはセディーの様子を見にうちへ帰ったりと、楽しく過ごした。


 今のところ、セディーの様子に変わりはない。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


「そろそろ、新しい部長を決めなくてはいけませんね」


 乗馬クラブの活動中、ケイトさんが呟きました。


「え? どうかしたんですか? クラブ辞めちゃったりするんですか部長!」

「ふむ・・・もう、そんな時期でしたか」

「は? なに? どゆこと?」

「や、テッド。ケイトさんは三年生だから」

「ハッ! そう言えば、卒業かっ!?」

「ふふっ、そうですね」

「うわ~、なんか実感なかったんですけど・・・部長、卒業するんですか」

「ええ。それで、次の部長はクロフト様かネイサン様にお願いしようと思っているのですが、宜しいでしょうか?」

「そうですねぇ……部長なら、わたしよりもレザンの方が向いていると思いますよ」

「そうか~? ハウウェルの方が向いてんじゃね?」

「や、ぐいぐい引っ張って行く感じはわたしにはないって」

「クロフト様は如何でしょう?」

「ふむ……俺に務まるかはわかりませんが、ハウウェルがサポートしてくれるのであれば安心だと思います」

「そうですか。では、次期部長はクロフト様へお願い致します。ネイサン様は、クロフト様のサポートとして、副部長を続けて頂きます」

「はい」

「わかりました」

「もう一人の副部長については、相手の方へ打診してみます」

「あ、質問いいですか?」

「ええ、どうぞ」

「もう一人の副部長がフィールズっだったりはしませんかー?」

「単純な乗馬技術で選ぶのでしたら、それもいいかもしれませんが・・・」

「まぁ、女子生徒と接するのが苦手・・・というか、未だに逃げ回っているようなエリオットに副部長は無理でしょ」

「あー、そっか、忘れてたわ」

「えっと、わたしの意見を言ってもいいですか?」

「ええ。なんでしょうか?」

「今年は、ケイトさんが初の女子生徒で部長を務めたのですから、次の副部長には女子生徒を入れた方がいいと思うのですが」


 三年生が次の部長を指名するのは、大体が副部長をしていた人から。つまり、二年で副部長に選ばれた人は、部長候補でもあるということ。


「ふふっ、乗馬クラブのことを考えてくださって嬉しく思いますが、それは相手の意向もあるので、強制ではありませんからね」


 にこりと微笑むケイトさん。


「そうですね。すみません」

「では、わたしはこれで」


 と、そんな話をした数日後。


「クロフト様、ネイサン様。この方が次の副部長です」


 そうケイトさんに紹介されたのは、今年度始め。ケイトさんへ勝負というか喧嘩を吹っ掛けて来た男子の先輩と十時間耐久レースをした、その勝負の大本の原因。副部長だと紹介されたときにわたしへ突っ掛かって来た後輩の女子生徒でした。


 どうやら彼女は、ケイトさんの婚約者を『ハウウェル先輩』だと聞いていて、わたしと婚約したのだと勘違いをして、副部長就任を身内贔屓だと思った模様。


 まぁ、件のレースで先輩を負かした後、最初に勝負を吹っ掛けて来た彼女と話してケイトさんはセディーの婚約者だと誤解を解いて、「日を改めて勝負をしますか?」と聞いたところ、それ以来絡まれなくなった……というか、遠巻きにされていた覚えがあるんだけど。


 一応、乗馬系の勝負を年上の男子に吹っ掛けるくらいだから、それなりに乗馬は上手い。性格も勝気で、あまり物怖じしないタイプ。


 副部長としては、そう悪くないだろう。


 ただ、部長となるにはケイトさんのように上手く立ち回れそうにはない、かな? これからの成長に期待と言ったところか。


 わたしは嫌われているだろうけど、間にレザンを挟めばやり取りはできる。まぁ、わたしが副部長なのは承知の上で副部長を引き受けていると思うから、必要最低限のやり取りはしてくれる筈だし・・・最悪、彼女との会話は全部レザンに任せるという手もある。


「その節は大変失礼を致しました。副部長に相応しくあれるよう精進しますので、宜しくお願い致します。ハウウェル様、クロフト様」


 と、瞳をきらきらさせてレザンと……わたしを見上げる彼女。


「?」


 確か、わたしは彼女に嫌われていた覚えがあるんだけど? それが、なぜこうもきらきらした視線を向けられることに?


「うむ。宜しく頼む」

「えっと、よろしくお願いします?」

「はい!」


 戸惑っている間に、上機嫌な笑顔で彼女は去ってしまった。


 どういうこと?


「問題は無さそうですね」


 安堵したようにふわりと微笑むケイトさん。


「では、近々お披露目をしましょう」

「了解しました」


 頷くレザンに、ケイトさんも行ってしまった。


「よう、どしたよ? 変な顔してさー」

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