ケイトさんの影響は計り知れない。



「よう、どしたよ? 変な顔してさー」


 と、寄って来たのはテッド。


「変って、失礼な」

「んじゃ、どしたよ? 美女顔が曇ってんぞー」

「喧嘩なら安く買ってあげるよ? 丁度、外に出る手間もないし」

「いやいやいや、ちょっ、相変わらず喧嘩っ早いな! で、なんなん?」

「や、なにって言うか……新しい副部長予定の子を紹介されたんだけど……」

「おう、そんで?」

「前に、わたしに突っ掛かって来た後輩の女子生徒がいたでしょ? 十時間耐久レースをやる流れを作ったあの子……わたしのこと嫌ってたんじゃないの? って思って」

「ん~……あ~、あれか。ま、遠巻きにされてたハウウェルは知らねーだろうけどさ。実はお前、かなり部長のこと庇ってたじゃん」

「? 庇って、というか、喧嘩を代わりに買ったって感じじゃない?」


 セディーの婚約者で、行く行くは身内になってくれるケイトさんのことを、義弟として味方するのは当然のことだ。


「おう、それな。その、喧嘩代わりに買ってってやつ? で、ハウウェルは部長のファンの人達からの好感度爆上がりなワケよ」

「はい?」

「ま、元々美女同士な見た目でお似合いって意見もあって好意的な人達もいたけど、ほら? 部長に当たり強い……つか、粗暴っつの? で元々女の子に嫌われてたアホ共の鼻っ柱折ってんの見て、スカッとした女の子達も多いんだってさ。だから、ハウウェルなら部長の隣にいてもOKみたいな?」

「や、ケイトさんの婚約者はセディーなんだけど……」

「その辺りはなー、おにーさんもう卒業しちゃってるから」

「・・・よくわからないけど、ケイトさんに親切? にしていたわたしの好感度が上がっている、ということでいいの?」

「いいんじゃね? つか、あの子かー。そっかそっか、あんま怖がらせんなよー」

「うむ。留意しよう」


 まぁ、向こうからなにかをして来ない限り、わたしの方からなにかをするつもりは無い。そのスタンスは変わってないんだけどね?


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 乗馬クラブで、次年度の部長としてレザンが、据え置きの副部長としてわたし、新しい副部長として例の後輩女子生徒が紹介された。


 レザンの部長就任予定は、歓迎されている模様。というか、単にレザンに喧嘩を売る度胸のある人がいないだけなのかもしれないけど。


 ちらほらと、「ハウウェルの方が部長だと思った」という声を意外に思う。リーダーには、わたしよりもレザンの方が向いてるんだけどな?


 そして、新副部長予定の彼女については、反発の声が聞かれなかった。さすがはケイトさんが選んだ……と思ったら、「あのハウウェルに喧嘩を吹っ掛けた肝っ玉女子か」と、なぜか納得? の声が。


 わたしでなくても、男子に喧嘩を売る女子生徒は普通に度胸があると思うんだけどな? どことなく釈然としないけど、部員達には納得してもらえているようでよかった。


 まぁ、ケイトさんが六年間在籍して、実力を示し続けていたお陰で、女子生徒だからと言って舐めた態度を取るような馬鹿がいなくてなによりだとも言える。


 やっぱり、ケイトさんの影響は計り知れない。


 次年度の部長だとレザンが紹介された下りで顔を歪め、啜り泣いている女子生徒もいて・・・本当に、ケイトさんが彼女達に慕われていたことがわかる。


 レザンがケイトさんみたいになるのは・・・うん。普通に無理だと思うけど、ケイトさんが築き上げたこの雰囲気を壊したくはない。できるだけ頑張ろうと思う。


「ケイト様、ご卒業っ……おめでとう、ございます」


 と、ケイトさんは女子生徒達に囲まれて、


「ありがとうございます」


 困ったように宥めていた。


 感動の別れ、的な空気を醸しているけど、卒業まではまだ少し時間はあるし。なんだったら、明日も乗馬クラブの活動はあるからなぁ・・・と、思ったけど、三年生は自由登校になるんだった。


 自由登校の間、三年生は登校をしてもしなくていい。部活も、最後だからと熱心に活動する人もいれば、チラッと顔を出すだけで活動はしない人がいたり、挨拶をしたり、後任を決めたら役目は終わりだとばかりに一切顔を出さなくなる人もいるそうだ。


 卒業式まで会えなくなるかも? という懸念で、こんなに盛り上がっているのかもしれない。


 まだ自由登校じゃないんだけど・・・


 そっとしておこう。


 そして翌日。普通に乗馬クラブに顔を出したケイトさんに、女子生徒達は一瞬だけ気まずそうな顔をして、とっても嬉しそうに破顔していた。


 あれからケイトさんには色々なお誘いがあるようで、


「わたしがこんなに慕われていたとは、思っていませんでした」


 なんでも、今まで交流の無かった人からお茶会に誘われたり、お世話になったというお礼の手紙や品物などが沢山届くのだと、とても驚いていた。


 ケイトさんは、なるべく交流を広げるみたいです。


「わたしも今年で卒業なので・・・頑張りますからね、ネイサン様」


 と、心配そうな顔でわたしを見て、なんだかとても張り切っていました。


 なにを頑張るのでしょうか?


 そしてなぜか、ケイトさん宛の物がわたしにも届くんだけど・・・これはケイトさんへ渡してほしいという意味なのだろうか?


 まぁ、持って行きますけど。


 とりあえず、女子生徒からの物はかく、乗馬クラブ男子からの物や、『ケイト様を見守る会』からの手紙やら荷物は・・・中身を改める必要があると思う。


__________



 おまけ。


 ケイトさん的には、「義理の姉(予定)の虫除けがいなくなったらネイサン様は……」とかなり心配しているので、ケイトさん派閥の人達に、『ネイサン・ハウウェルには婚約者がいる』、『ケイト・セルビアの義理の弟だ』ということを周知させるために動いている感じですね。


 もうすっかり弟扱い。(笑)

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