ネイトは・・・花、嫌い?


 レストランの料理は――――


 食用の花のカラフルなサラダ。ブロッコリーやカリフラワーなどの、蕾の花を食べる野菜。無花果いちじくのカプレーゼ。ズッキーニの花の肉詰め。サフランの色を鮮やかに出したブイヤベース。花を裏ごしして作った、青や紫、薔薇色のソース。


 そして、デザートは食用のパンジーやマリーゴールド、薔薇などを閉じ込めた艶やかで華やかなゼリーやケーキ。苺や無花果のタルト。


 ドリンクまで、薔薇やジャスミン、ハイビスカス、ローズヒップ、カモミール、蓮、菊と花のお茶やジュースが揃っていた。


「おはなさんがいっぱいですっ」

「なんだか食べるのがもったいないくらい綺麗ですわね」

「ふふっ、お花を食べると自分も綺麗になれそうよね」

「そうですね」


 と、わいわい食事を楽しんだ。


 そして、午後は――――


「ケイトねえさま、おはなさんのめいろしたいです!」

「勿論です、行きましょう!」


 と、薔薇の垣根の迷路へ。


 にこにこと慈愛に満ちた笑顔でリヒャルトと手を繋ぐケイトさん。


「・・・ネイト、僕達も」


 二人を見て、羨ましそうな顔で手を差し出すセディー。


「や、それはさすがに」


 断ると、しょんぼりと手が下ろされた。


「えっと、セディー。代わりと言ってはなんだけど、リヒャルト君の反対側の手が空いてるよ?」

「・・・わかった」


 少し逡巡して、ケイトさんの反対側に並んだセディーがリヒャルト君と手を繋いで、三人で仲良く並んで歩き出す。


「……なんだか既に親子みたいですわね。いいのかしら?」


 と、横から悩むような声。


「いいんじゃないですか? ある意味、あの二人は息ピッタリですし。距離の詰め方って、人それぞれ千差万別、十人十色だと思いますよ」

「そうですね」


 なんて話してると、


「ハウウェル先輩、レイラちゃんと仲良くなったんですか?」

「まあ! レイラ姉様と仲良くしてくださってありがとうございます」

「よかったね、レイラちゃん」


 にこにこと笑うエリオットとルリア嬢。


「まぁ・・・一緒に怒られた仲、という感じでしょうか」

「・・・そうですわね」


 と、お互い微妙な表情で顔を見合わせる。


「エリオット、ルリア嬢。さっきはありがとうございました」

「ふふっ、どういたしましてっ」

「レイラ姉様のフォローは慣れていますから」


 と、クスクス笑う二人。


 それから、リヒャルト君とルリア嬢の行きたいところを中心に植物園をのんびりと巡って、夕方になる前に解散。


 帰りの馬車の中。


「今日は楽しかった?」

「うん」

「そう、よかった。ネイトは・・・花、嫌い?」

「? ううん、なんで?」

「ふふっ、そっか。それなら、いいんだ」

「?」

「なんでもないよ」


 と、セディーがにっこり微笑んだ。


 うちに帰って、あれこれ買ったお土産をお祖父様とおばあ様へ。


 花関連の物ばかりだったので、おばあ様は喜んでくれたけど、お祖父様は微妙な顔をしていた。


 後日、レイラ嬢やリヒャルト君とで一緒に摘んだハーブのお茶やポプリなどが届いた。どうやら、レイラ嬢はわたしにも内緒でハウウェル侯爵家の分まで手配していたようだ。


 おばあ様が喜んで、レイラ嬢へお礼状を書いていた。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 残り少ない休暇。


 ルリア嬢とリヒャルト君のダンスレッスンにかこつけたターシャおばあ様にお呼ばれして、一緒に踊りました。


 当初懸念していたような怪我や不調などはなく、むしろイキイキというかワクテカ顔で、ゆったりとスタンダードワルツを一曲踊りました。


「うふふっ、ネヴィラ様が殿方でしたら……という夢が叶ったようですわ~。ありがとうございました、ネイサン様」


 と、頬を染める顔はまるで年頃のお嬢さんのように可愛らしかったですね。いつも可愛らしいのですが、この日は特別に・・・


 他にも、リヒャルト君との約束通りにセルビア伯爵家に遊びに行ったり、ピクニックに行ったりと、予定を組んで、色々と遊び倒した感がある。 


 そんな休みもあっという間に過ぎ――――


 あと三日で後期の授業が始まります。


 まぁ、勉強の方は一応、セディーとライアンさんの作ってくれた問題集をちまちま解いていたから大丈夫だと思う。


 そろそろ学園へ向かう……と言ったら、いつものように寂しそうな顔をするセディー。


 その顔をじ~っと見詰める。


「? どうしたの? ネイト」

「ん~」


 どう、というワケではないけど・・・セディーの表情に、追い詰められているような、危ういような気配は見られない。


 キアンから、「兄が不安定に見えたら、お前の手で直接渡せ。おそらく、その方がいい」と、渡された手紙。「兄の思い詰めたような顔を見たときか……そうでなくば、お前が精神的に追い詰められたときでもいいぞ?」という言葉を思い出す。


 キアンの占い? は、結構な確率で当たる。それも、悪いことが。そのキアンが懸念するのだから、セディーになにかが起こる……のかもしれない。


 セディーに悪いことは起こってほしくない。だから、キアンからの手紙は失くさないようちゃんと保管してある。


 う~ん……寂しそうというのは、不安定とまでは言えないよね?


 わたしも、別に精神的に追い詰められているような状況じゃないし。


 だからきっと、手紙を渡すのは今じゃない。


「休みのときには帰って来るから、そんなに寂しそうな顔しないの。ね?」


 そう言うと、


「っ、ネイト~」


 泣きそうな顔でハグされた。


 よしよしと宥めながら、一応保険としてお祖父様とおばあ様にセディーの様子がおかしいと思ったら連絡してほしいと頼むことにした。学園にいるときにセディーの様子がおかしくなっても、すぐには駆け付けられないし・・・


 保険は多いに越したことはない。わたしが学園にいる間、当主教育でセディーとの接触が多いルリア嬢やケイトさんにも、頼んでおこうかな?


 キアンの言葉とセディーの様子を気にしながら、学園へ向かうことにした。


 大丈夫、だと思いたい。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 おまけ。


 ネイサン本人はもうなんとも思ってないことでも、セディーや周りが案外気にしてたりすることが多いんですよね。(*>ω<)ω<*)ギュ~ッ


 ちなみに、いちじくは漢字で無花果と書きますが、実は果実の中に花が咲く珍しいタイプの果物です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る