とりあえず、今日の夕ごはんはお肉祭りですねっ。



「僕、そろそろ帰らなきゃいけないんだけど・・・ネイトはどうする?」


 寂しそうな顔がわたしを見詰める。


「あ、ネイトがもっとお友達と遊びたいなら、もう少し後で帰って来てもいいんだよ? そろそろ帰るってことはエリオット君に伝えて来るね」


 と、返事をする前にセディーが部屋を出て行った。エリオットのところへ向かったのだろう。


 そして、昼食の時間。


「セディック様が、おうちに帰られるそうです」


 しょんぼりとエリオットが言った。


「そうですか。では、お気を付けて」

「あー、そっか。おにーさんもお仕事がありますよね」

「……ハウウェルはどうするんだ?」

「ああ、わたしは……」

「あ、ネイトは残りたかったら残ってもいいんだからね?」

「や、どうせもう休暇もそろそろ終わるし。わたしもセディーと一緒に帰ろうかな」

「そうですか……寂しくなっちゃいますね」

「ま、どうせすぐ学校で会えるって」

「……というか、俺達も帰った方がいいのではないか?」

「・・・まだ熊を狩っていないのだが」

「まだ熊を諦めてなかったの?」

「え? 熊? ・・・熊が出るのっ!?」

「うむ。しかし、熊は森の深くに生息し、この付近では見掛けることもないのでご安心ください」


 ぎょっとするセディーに、淡々と話すレザン。


「あれ? おにーさん知らなかったんですか?」

「そんな話聞いてないよっ?」

「まぁ、セディーはここ着いてすぐに倒れたもんねぇ」

「それはっ・・・でも、そんな危険な森に入って採集してたのっ?」

「ん~……危険と言えば危険かもしれないけど、セディーも普通に散歩してたでしょ? 奥まで行かなければ、そう危険でもないって」

「それは、そうかもしれないけど・・・」

「で、わたし達は帰るけど、君達はどうするの? わたしは、帰ってから後期授業の準備するつもりだけど」

「ぁ~・・・後期授業、か」


 はぁ~と深い溜め息。


「そうですね~。皆さんそれぞれ準備がありますよね~。ギリギリまでここにいたら、戻ってからきっとバタバタしちゃいますよね・・・」


 うーんと考える表情のエリオット。


「……確かに。慌てるのは嫌だな」

「それじゃあ、帰りましょうか?」

「マジかー・・・」

「仕方ない。帰るとするか」


 と、全員が別荘を引き揚げることになった。


「んじゃ、帰る前にパーッと騒ごうぜ! な、フィールズ」

「ふぇ?」

「ふむ……まだ獲って来たジビエが残っていた筈だ」

「おおっ、ってことはあれか? 肉祭り第二弾!」

「え? 肉祭り?」

「……保存食があるなら、少し分けてもらえるとありがたいんだが」

「キアン先輩がい~っぱい作ってくれましたからねっ。もちろんです!」

「え? キアン……君?」

「ああ、セディック様は知らないでしょうが、キアンは料理が得意なのです」

「はいっ、野営ではいつも美味しいごはんを作ってくれました! 今回も、ジビエを獲ったりお料理したりと大活躍でしたからねっ」

「鹿の脚丸ままの燻製とか、ローストとか、煮込み料理とか、すっごい美味しかったんですよっ」

「・・・えっと、待って? キアン君? は、確か公子じゃなかったっけ?」

「まぁ、ほら? 言ったでしょ? キアンは半分野生児気味だって。野山に自生している動植物があれば、割とどこでも生きて行けるタイプの人間だからね。アレは」

「うむ。岩塩があれば、カエルでも蛇でも焼いて食える男です」

「か、カエルに蛇……ま、まさかネイト……た、食べたりは」

「ああ、大丈夫。今回は別にそこまで食料が逼迫ひっぱくしていたワケじゃないから、カエルやら蛇なんかのゲテモノ類は獲ってないよ」

「ま、カエルやカタツムリは高級レストランなんかで普通に食べられるものですし、そこまでショック受けることないんじゃないですか? おにーさん」

「いや、それはそうなんだけど……」

「とりあえず、今日の夕ごはんはお肉祭りですねっ」


 と、肉祭り第二弾が開催されることとなった。


 燻製、ジビエのロースト、煮込み、ステーキ、キッシュ、ラビオリ、塩釜焼き、野鳥の丸焼き、パイ包み焼き、スパイス煮込み……と、肉料理がテーブルに並ぶ並ぶ。


 しかも、今は食料配達が再開されている為、前回のときよりも料理の種類が多くて彩りも鮮やかで豪華な感じだ。


「みんな、よく食べるんだね・・・」

「若いですね……」


 セディーとライアンさんのしみじみとした呟き。


「や、セディーもライアンさんも、そんなに年変わらないでしょ」


 セディーとは三つ、ライアンさんとは二つしか離れていない。エリオットとは、プラス一才ずつだけど。


「……単に、文化系と体育会系の違いだと思います」


 こちらも少食気味のリールがぼそりと言う。


「ああ、そう、なのかな?」


 と、わたしとエリオットを見やるセディーとライアンさん。


「? なぁに? セディー」

「どうしましたか?」

「アハハっ、おにーさんもライアン先輩も騙されちゃいけませんって。この二人、こーんな美女と美少女な顔しといて、かなりの体育会系ですよ?」

「一応、騎士学校生時代よりは食事量は落ちているようですが」


 と、一番食べているレザン。


「え? 騎士学校時代って、今以上に食べてたのっ!?」

「ん~、ほら? 成長期って、やたらお腹空くでしょ。運動すると尚更ね」


 というか、騎士学校の運動量であまり食べない方が、身体を壊す。


「セディーだって、中等部時代や高等部時代には、今よりも食事量が多かったんじゃない?」

「言われてみれば……そう、なのかな?」

「うむ。そういうものです。身体作りは、栄養が大事ですからね」


 と、わちゃわちゃしながら夕食。


「ふぃー……食った食った」

「美味しかったですねっ」

「うむ。いい肉料理だった」

「……相変わらず、見てるだけで腹一杯になるような食い振りだな」

「ごちそうさまでした」


 食事が終わると、


「あの、お礼とお詫びを兼ねてと言ってはなんだけど……よかったらどうぞ」


 そう言ってセディーが出したのは、人数分のノート。


「ライアンと一緒に作ったんだ」

「それじゃあ遠慮なく、ありがとうございまーす」


 一番に手を伸ばしたテッドがノートを捲ると・・・


「ぅっ!」


 その顔が苦痛に耐えるように歪んだ。


「後期の授業に役立つと思って」


 にっこりと微笑むセディー。


「エリオット君の分はどの教科が苦手なのか判らなかったから、一年生の基礎問題と応用問題を作ったんだけど……どうかな?」

「・・・これは、一体」


 たらりと、ノートを手渡されたレザンの頬を汗が伝う。


「君達がそれぞれ苦手にしている教科の問題集。これを解けば、テストで赤点を取ることはないと思うよ? ほら、幾ら休暇中とは言っても、全然勉強しないのはさすがにまずいでしょ」

「わ~、わざわざ僕達個人個人に合わせて問題集を作ってくれたんですか? ありがとうございます、セディック様、ライアンさん!」

「……助かります。ありがとうございます、お二人共」


 にこにこ顔のエリオットに、珍しく嬉しそうな表情のリール。


「はい、ネイトの分」

「ありがとう、セディー。ライアンさんも」


 若干二名程、固まってるのがいるけど。


 翌朝には、馬車を三台に分けてフィールズ家の別荘を発った。

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