女性パートは慣れてないからステップ間違えたー。



「ああ、そうだった」

「手はこっちですっ」


 掴まれた手がぽんとエリオットの肩へ乗せられ、わたしの腰へエリオットの腕が回る。


「なんだかすっごく違和感が……」

「大丈夫ですっ、僕に合わせてください!」


 ピアノの演奏が始まり、足を踏み出そうとしてもた付く。女性パートは、踏み出す足の左右が逆だった。


「プハッ、早速ごちゃごちゃしてんのっ! リール、もっかい最初っからなー」

「わかった」


 笑われながら、また曲の出だしから始める。


 ごちゃごちゃしながらも、何度か踊ればそれなりに踊っているていにはなって来た。やっぱり、エリオットはダンスが上手いようだ。


 曲が終わると、パチパチと手を叩く音。


「綺麗だったよ、ネイト!」

「なんつーか、めっちゃ絵になるよなー」


 それはそれで、微妙な気分だ。


「さすがハウウェル先輩ですねっ。覚えが早いですっ!」

「まぁ、いつも見てる動きではあるからね」


 いつもはリードしながら女性パートの動きを見ている。見るのと実際に動くのとは、少し違うけど。


「あっさりできるようになったなー。ま、割と喧嘩っ早い中身はともかく、見た目は美女と美少女のダンスだから目の保養って感じだけど♪」

「誰が美女か、誰が」

「もちろん、ハウウェルが。つか、女の子パート踊ってんじゃん。で、次はおにーさんと踊るん?」


 というテッドの言葉で、期待に満ちたブラウンが向けられる。


「まぁ、あんまり上手くなくていいなら」

「うん♪」


 満面の笑みで頷かれてしまった。これはもう、踊るしかないか・・・


 そんな感じで、朝は散歩。午後はダンスレッスンをして――――


 最初の二日くらいは、夕方になるとうつらうつらして夜は早目に休んでいたセディーが、段々と夜も起きていられるようになって来た。


 どうやら体力が付いて来たらしい。


 このまま、散歩の習慣が付けばいいと思う。


 ダンスの方も、神経を尖らせることが無いせいか、楽しそうにして上達。そして、踊れる時間も長くなっている。ケイトさんからの課題、『二曲以上続けて踊れるようになること』が達成される日も近いだろう。


 まぁ、なんというか……わたしも、無駄に女性パートが上手くなっているけど。


「他のパートナーがいる状態でも踊りましょう!」


 そう言ってエリオットが、狩りやら薪割り、素振り、猟銃の手入れ、見回りを兼ねた走り込み……と、なんだかんだ一番この別荘を満喫している脳筋を呼んで、二組で同時に踊ることになって――――


「ふむ……フィールズ。俺も、女性パートを踊れるようになった方がいいのだろうか?」


 真面目な顔での惚けた発言に、


「プハッ! れ、レザンが女の子パートっ!? に、似合わねーっ!? ギャハハハハハっ!!」


 爆笑が響いた。


「えっと、レザン先輩は身長が高いので普通にリーダーでお願いしますねっ」

「わかった」


 と、エリオットとセディーだけでなく、レザンとも踊ることに・・・


「いやー、もうあれだな! どっからどう見ても、美男美女のカップルだな! お似合いだぜ!」


 ホールドの時点で、どこぞのアホにケラケラと笑わる。全く嬉しくない。


「ハッ! そうです、メルン先輩!」

「おう、なんだー? フィールズ」

「メルン先輩も、どなたかとカップルを組んで踊るときのために、一緒にレッスンしましょう!」

「え?」


 と、エリオットの提案でケラケラ笑ってたテッドも一緒に踊ることになった。


「マジかー……俺、本物の女の子がいいのに……」


 なんだかげんなりした顔でエリオットに引っ張られて踊るテッドは、ちょっといい気味だ。


「グレイ先輩も、ずっとピアノですけど、偶には交代して踊りませんか?」

「……いや、俺はばあ様に習って、一応は踊れるからいい」


 リールはそう言って、拒否。


「そうですか? 動きたくなったり、飽きたらちゃんと言ってくださいね?」


 なんて心配そうに言われても、ずっとピアノ係を死守している。


 ちなみにセディーは、他の人が踊っているところを見るのもレッスンのうちだとピアノは弾かせていない。


「ペアの交代ですっ」

「今度はハウウェルとかー……はぁ……」


 溜め息を吐きたいのはわたしの方だ。


 まぁ、セディーよりもテッドの方が踊れないから、『自分だけが下手じゃない』とセディーがほっとしているであろうことは言わないけど。


「あだっ、ちょっ、おまっ、なんで俺ンときだけ足踏むんだよっ!?」

「ああ、ごめん。女性パートは慣れてないからステップ間違えたー」

「棒読みだぞこのヤロー! おにーさんはもちろんだが、レザンやフィールズの足は踏まないクセに!」

「まぁ、踏もうとしても避けられるからね」

「ええっ!? ハウウェル先輩、僕の足踏もうとしてたんですかっ!?」

「ヤだな、冗談だよ? よくも笑いやがったなこの野郎……なんて、思ってないし」

「あ、なんだ、冗談ですか~」

「ヤだっ、根に持たれてたっ!?」

「でもまあ、踏まれそうになるのを上手くかわしていると、ステップが上達するのは本当」

「そうですね~。僕もレイラちゃんに足踏まれないようがんばってたら、ステップが上手くなりました!」

「え? マジ?」


 十日くらいをそうやってわちゃわちゃしながら過ごして、


「はぁ~・・・」


 セディーがどんよりとした溜め息を吐いた。


「僕、そろそろ帰らなきゃいけないんだけど・・・ネイトはどうする?」

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