どこから湧いて出たっ!?
雨が心配なので、セディーに手紙を出すことにした。
『長雨が降る可能性があるので、もう少し時間を置いてフィールズ家の別荘へ向かうか、呉々も天候に気を付けて出発するように。このまま雨が強くなるようだったら、参加の中止も視野にいれておいて』と、注意を促す。
「なにしてんの? ハウウェル」
「ああ、セディーに手紙」
「うっわ、さすがおにーさん大好きっ子! なになに? 二日顔見ないだけでもう寂しくなっちゃったのー?」
ニヤニヤと笑うテッドがウザい。
「ハウウェル先輩はセディック様と仲が良いんですねっ」
「ま、それは否定しないけどね・・・そこ、笑うな。雨が心配だから、気を付けるようにっていう手紙だよ。このまま天気が回復しなかったら、セディーは参加を中止した方がいいと思って」
「ええ~っ!? おにーさん来ないのかよっ!?」
「だから、それは天候次第。万が一、事故なんて起こったら大変でしょ」
「心配し過ぎじゃね?」
「もうっ、そんなこと言っちゃ駄目ですよメルン先輩。セディック様は、侯爵家の大事な跡取りなんですから。あ、もちろん、ハウウェル先輩が大事じゃないって言ってるワケではないですからねっ!?」
「はいはい。わたし達はもう、ここまで来ちゃってるからね。むしろ、今から引き返す方が大変なんだよね」
「はいっ、そうです!」
「はぁ・・・」
「なんだよ、溜め息なんかついちゃってさー」
「今からでもチェンジってできない?」
「ん? なにをチェンジよ?」
「君とリールのチェンジ」
リールはテッドと違って口数が少ない。わたしから顔を背けたり、ぼそっと失礼なことを言ったりはするけど、基本的には静かだ。昨日はのんびりできたのになぁ。
「そんなっ、ヒドいわハウウェルさん! わたしよりもあの子の方がいいって言うのねっ!? この浮気者っ!?」
「い、いきなり修羅場が始まっちゃいましたっ!? め、メルン先輩? ハウウェル先輩には将来を誓い合った婚約者さんが……」
「ぁ~、はいはい。エリオット、本気しない。テッド、君のそういうとこだからね? 全く・・・」
「なんだよもうっ、ノリ悪いな!」
と、ウルサいテッドに絡まれたり、エリオットがテッドに
そして、翌日。
相変わらず。しとしとと弱い雨が続いている中、ゆっくりと馬車が進み――――
懸念していた橋は、無事に通ることができた。
けど、やはり増水はしており、これ以上水嵩が増えると通行は厳しいとのこと。あと半日遅かったら、渡れなかったかもしれないらしく、結構ギリギリな感じで通ることができたそうだ。
雨に時間を取られ、予定よりもかなり遅れて、
「ああ~っ! や~っと着いたぜっ!?」
「……腰が痛い」
「馬車は長時間乗るとあちこち凝るからな」
「皆さん、長旅お疲れ様でした! どうぞゆっくり羽を伸ばしてくださいっ♪」
と、馬車を降りて各々身体を伸ばす。
「いらっしゃいませ、エリオット坊ちゃま。そしてご友人の皆様」
笑顔でわたし達を迎えるフィールズ家の使用人。
「うん、しばらくお世話になるねっ」
エリオットが頷いて中へ入り、部屋へと案内された。
「好きな部屋を使ってくださいね」
部屋は自分の気に入ったところを選んで、後でその部屋へと来る前に送っておいた荷物を持って来てくれるとのこと。
そうやって、別荘内を見て回っていたら・・・
「うおっっ!! なんか柔らかいもの踏んだっ!?」
「ふっ、そこのお前、俺を踏んだこと。詫びる気があるなら、誠意を見せてもらおうではないか。具体的には、食料辺りで手を打ってやるぞ!」
テッドの叫ぶ声と、次いで踏んだ詫びに食料を寄越せという、どこか聞き覚えのある偉そうな声がした。
バタバタと、変な声のした方へ向かうと・・・
「うん?」
「ふぇ?」
「……外国人?」
「ぅゎっ……」
ニヤリと笑う、褐色の肌をした異国の匂い漂う男が床に座っていた。
「き、キアン先輩っ!?」
「ん? おお、
驚きに見開かれる琥珀の瞳。
「いや、君こそなにしてんの? ああいや……貴方、の方がいいですか?」
一応、敬意を表した方がいいのか……
「ふっ、構わんぞ。楽にするがいい。丁度今、そこの見知らぬ男に踏まれて、その慰謝料代わりにと食料を
まぁ、なんだ。変わってねぇな!
「ぁ~……とりあえず、どこから湧いて出たっ!?」
「フハハハハハっ、麗しき同志よ。そんなに聞きたいか? なれば話してやろう! 棒倒しで選んだ道をひたすら歩いていたら、ここへ辿り着いたまでのこと! そして雨の中、空腹で行き倒れていたところ、ここの管理人に拾われ、食料と
高笑いをしながら胸を張ってされる、全く説明になっていない説明。
「え? なにこの面白そうなにーちゃん! お前らの知り合いっ!?」
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