ふむ……距離を稼ぐか、旅程を延ばすか。
そして、ぐっすり眠った翌日。
「ふむ……曇っているな」
「う~ん、ちょっと空気が湿ってますよね」
「雨……降るかな?」
生憎の曇り空。雨降りでの移動は、舗装されていない道だと大変だ。水
そんな心配をしながらの出発。
そして、案の定ぽつぽつと降り出した雨。
幸いなことに、視界が悪くなる程に強くはなく、しとしとと降り続いている。スピードを落とした馬車がゆっくりと進み――――
朝から町を出て、数時間後。
昼食をどうするかと、一旦馬車を停めて話し合うことになった。
レザンをフィールズ家の馬車へと呼んで相談。
「雨、やまないね……」
「やみませんねー」
「うむ。少々心配ではある」
弱い雨が断続的に降り続いている。
「お昼はどこかで食べるより、このまま進んだ方がよくない?」
「う~ん……今日はもうゆっくりしちゃって、明日進むのはどうですか?」
「ふむ……距離を稼ぐか、旅程を延ばすか。ハウウェルは、なぜ進んでおきたい?」
「ああ、この先の橋がね。増水で通れなくなる可能性があるから。橋を避けて遠回りしてもいいかもしれないけど……迂回路の方は、道の整備がされているか不明なんだよね。地図にはそこまで書かれてなかったから。足場が悪いと、更に時間が掛かると思って。雨の中、泥濘にはまった馬車を押すなんて、そんな面倒は嫌だし。エリオットは、迂回路がどうなってるか知ってる?」
「えっと……多分、小さい頃に通ったかもなんですけど、あんまり覚えてません。ちょっと聞いて来ますねっ」
と、エリオットが御者に道を聞いたところ……
「迂回路の方は、舗装が少し粗めみたいです」
「そっか」
「では、このまま距離を稼いだ方がいいのではないか? 馬車一台なら
「考えたくもない事態だね」
「そうですね……わかりましたっ」
と、エリオットが御者に指示を出して、このまま進むことになった。
当然、お昼に温かいごはんを食べることはできなくなるので、それを話しに行くと・・・
「え~、このまま進むとか、昼飯どうすんだよ?」
不満顔でテッドが言った。
「はい、携帯食料。というか、今朝宿で軽食作ってもらったでしょ。あれ食べれば?」
携帯食料を渡しながら聞くと、
「フッ、そんなもの、とっくにレザンの胃の中だ! 結構美味かったぜ」
胸を張って威張られた。
「うむ。美味かったぞ」
「ああ、そう。ま、あれだから。わたしは降りしきる雨の中、泥塗れになりながら泥濘にはまった馬車を押して歩く……なんて羽目になりたくないから」
「え? 雨弱いじゃん。これくらい平気じゃね?」
「君、綺麗に舗装された都会の道しか通ったことないでしょ。それか、悪天候のときには馬車で移動したことがないか」
テッドって、なにげにこういうところが坊っちゃんなんだよね。
「雨が弱くても、増水したら橋が通れなくなる可能性があるんだよ。危険だからね。そしたら、迂回しないといけない。でも、迂回路の方は舗装が粗めなんだって。だったら、このまま距離を稼ごうってなったワケ。それとも君、雨に打たれながら馬車を押して歩きたい? 服は泥でぐちゃぐちゃ。靴も水浸し、全身泥だらけの真っ黒で、そのまま乗ると馬車の中までどろどろになって臭くなるよ? その上、怪我をするかもしれないし、翌日は筋肉痛で身体はガタガタのぼろぼろ。それはそれは、悲惨な有様になるけど」
「……まるで、経験したかのような口振りだな?」
「うむ。騎士学校時代の演習過程で、馬車が泥濘にはまったことがあってな。馬車に乗っていた者全員で押したぞ。集めた木の枝やら石、着ていた服やらを車輪に噛ませて、必死になって押したものだ」
「ああ、ありましたね~。というか、むしろそれ自体も訓練の一部だったみたいなんですけどねっ。あれは本っ当に大変でした!」
「苦労して苦労してやっと抜け出せたと思ったのに、また泥濘にはまったときの絶望感と来たら……本っ当に最悪だったね」
「マジでっ!?」
「マジだよ。そういうワケだから。お昼にあったかいごはん食べられないくらいは我慢して。暗くなる前には、ちゃんとした宿に泊まるから」
「へーい」
「……わかった」
と、テッドもリールも了承。
このまま進むことになった。
特に寄り道などをしなければ、当初の予定では今日の夕方までにはフィールズ家の別荘に着いている筈だった。
けど、降り続く雨の影響でゆっくりと進んだ結果、今日は到着できなかった。暗くなる前に宿を取って早目に休むことに。部屋割りは昨日同様、くじ引きで決定。
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