防犯は大事なことだというのに・・・解せない。



 そして、出発の日。


「それじゃあ行って来ます」

「ふふっ、楽しんでらっしゃい」

「気を付けて行くんだよ?」


 にこにこと笑顔のおばあ様と、心配顔のセディーにハグをされて見送られた。


 一旦学園に向かい、アホ共と一緒にフィールズ家の馬車で向かうことになっている。


 セディーは後から、フィールズ家の馬車が先導してうちの馬車で向かう予定。


「ハウウェル先輩っ! こっちです、こっちっ!」


 学園の前で停められている馬車が数台。そのうちの一つから身を乗り出して、わたしに手を振るエリオット。


 荷物を持ってフィールズ家の馬車へ向かうと、


「よう、ハウウェル。お前、荷物は?」


 後続の馬車から顔を出したテッドに聞かれた。


「? 持ってるよ」

「え? マジで? 荷物そんだけ?」


 わたしの荷物はトランク二つ分。他の荷物は、フィールズ家の別荘へと先に送っておいた。


「それだけって、これでも多いと思ったんだけど」

「マジかっ!? いや、まぁ、なんつーか、レザンの荷物よりは多いけどさー」


 なんだか驚かれた。


「それにしても、馬車は二台で行くの?」

「二台っつーか、こっち俺ん家の馬車な。荷物が多くて」

「なにを持って来たの?」

「んー、色々? 父さん母さんがあれこれ持ってけって」


 成る程。テッドも家族が張り切った口か。


「……やはり、帯剣しているんだな」


 ぼそりとした声。


「まあね。出掛けるときの必需品だから」

「おー、レザンもおんなじこと言ってたわ。んで、ハウウェルどっち乗るよ? ちなみ、こっちは俺とリール、レザンの三人で、そっちがフィールズ一人なー。四人ならちっと狭いかも。で、後で席替えな!」

「ひ、一人は寂しいのでこっち乗ってください!」


 と、エリオットに引っ張られてフィールズ家の方の馬車へ乗ることになった。


 まぁ、馬車の所有者という点では、エリオットがテッドの家の馬車に乗るワケにはいかないだろうし。防犯の観点から言うと、賊の襲撃に備えて一般人のテッドとリールの二人だけを乗せるワケにはいかないから、最初としては妥当な組み合わせかな?


 それから、どうでもいいことを話したり、カードゲームをしたり、おやつを食べたり、疲れて寝転けたりして――――


 休憩時間ごとにレザンとわたしが交代で両家の馬車を行ったり来たりして、わちゃわちゃとフィールズ家の別荘へと向かった。


 当然のことながら、エリオットよりもテッドのがウルサかった。


 ちなみに、リールは頑なにフィールズ家の馬車へ乗ることを拒否していた。なんでも、汚したりするのが怖いだのとか。


「ちょっとくらい汚れても気にしませんから、こっち乗りませんか?」


 エリオットがそう聞いても、


「……俺は信じないぞ」


 と青い顔で首を振っていた。


「な、な、部屋割りってどうすんの? くじ引きかっ?」


 宿泊予定の町に到着すると、テッドがワクワク顔で聞いた。


「ふむ……別に構わないぞ」

「とりあえず、わたしとレザンが別であればいいんじゃない」

「そうですね」

「あ~、そう言やさ、さっきから気になってたんだけど・・・」


 珍しく言い淀むテッド。


「うん? どうした、テッド」

「お前ら、喧嘩でもしてんの?」


 わたしとレザンを伺うような視線。


「? 喧嘩? してないけど? なんで?」

「いや、だってお前ら、今日はずっとうちの馬車とフィールズん家の馬車行き来して、一度も同じ馬車に乗ってねーじゃん。それでいて、別の部屋にしろって言うから。喧嘩でもしてんのか? って思ってさ」

「ああ、別にそういうことじゃないから。単に、防犯の観点での組分けってやつ?」

「うむ。万が一賊の襲撃があった場合、戦えないテッドとリールだけを馬車に乗せるワケにはいかんからな。だから、常に俺とハウウェルが別れて馬車に乗ることにしていた」

「ま、そういう意味では、エリオットを一人で乗せてても別にいいんだけどね」

「そ、そんなっ! 長時間一人で馬車に乗ってるのは寂しいじゃないですかっ!?」


 いやいやと首を振るエリオット。


「そういうことで、別に喧嘩じゃないよ」

「ぉおう……そっち系の思考に基づく判断かよ」


 と、なぜか若干引いたような顔をされた。


 防犯は大事なことだというのに・・・解せない。


 それから夕食を食べながら、泊まる宿を決めて、部屋割りをどうするのかとガヤガヤ話す。


「四人部屋なら結構あるけど、五人が泊まれる部屋はなかなかねーよなー」

「……二人部屋を二つ、一人部屋を一つでもいいのではないか?」

「ああ、その部屋割りだと、必然的にエリオットが一人部屋になるかな?」

「せ、折角せっかく皆さんと旅行中なのに、僕だけ一人部屋なんて嫌ですよっ!」

「だよなー」

「とりあえず、わたしとレザンが別々の部屋なのは決定」

「うむ」

「あとは三人で部屋割り決めれば?」

「それじゃあ、敢えて俺達とフィールズの三人。お前ら二人ってのはどうだ?」


 ニヤリとイタズラっぽく笑うテッドに、


「ええっ!? そ、そんなっ……ぼ、僕一人にメルン先輩とグレイ先輩の命を預けるって言うんですかっ!? 荷が重いですよっ!!」


 泣きそうな顔でエリオットが声を上げる。


「え? なんでそうなるん?」

「や、だからさっきも言ったじゃん。防犯上の観点からの組分けなんだって」

「うむ」

「一応、下手な宿には泊まらない予定だけど。それでも、貴族子息やいいとこの坊ちゃんが泊まってる部屋だってことで、万が一のことがないとも限らないし。それに、テッド。君に自覚は無いみたいだけど、裕福な平民は並みの貴族よりも狙われ易い存在なんだよ。そこのところ、しっかりと肝に銘じておくように」


 この面子だと、明確に体格のいいレザンが賊に狙われる可能性は低いだろう。見るからに戦闘力高そう……というか、コイツは実際に強いし。


 けれど、わたしも含めた他の四人に関しては、誰が狙われてもおかしくはない。


 更に言うと、貴族ではない裕福な平民の方が、襲った後の面倒が少なくて済む……という風に考える輩も少なくないというワケだ。


「はあっ!? 俺っ!?」

「そう、一番狙われる可能性が高いのは君なんだよ」

「……まぁ、俺の家は貧乏だからな。狙う意味が無い」

「えっと、グレイ先輩は所作が平民には見えないですからね。ぱっと見では貴族に見えますし。それで、ちょっと狙われ難いんだと思います」


 リールのおばあ様の教育の賜物というところか。


「そう、なのか?」

「うむ。貧乏でも没落でも、貴族に手を出すと国が動く可能性もあるからな。余程の犯罪組織か、相当な覚悟が無ければ貴族は狙うまい」

「ま、短絡的で相当な馬鹿共、ってのが抜けてるけど。それを踏まえた上で、部屋割りは確り考えようね」

「わ、わかった」


 と、注意を促しておく。


 少し脅かすようなことも言ったけど、本人の防犯意識は大事だ。


 結局くじ引きで、リールとわたし。テッド、エリオット、レザンの三人という部屋割りに決まった。


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