もう、いいんじゃないですかね?


 ぶちぶちと不満を言いながらも、中間テスト対策で集まって勉強をしようと――――


「って、なんでフィールズがこっちいるん?」


 テスト勉強をするいつもの面子に、しれっと交じっている一年生のエリオット。


「え? あ、あの、も、もしかして僕、お邪魔でしたかっ!?」

「……いや、邪魔とかではないが、フィールズは一年だろ。俺らと勉強するより、他の一年とテスト対策をした方がいいのではないか?」

「あ、それなら大丈夫ですっ」

「うん? なにが大丈夫なんだ?」

「ずっとストールを巻いて授業を受けていたら、誰も僕に話し掛けて来なくなりましたからねっ。一緒に勉強をするような知り合いはほとんどいませんっ!」


 なんか駄目な感じのことを、ふふんと胸を張って堂々とのたまうエリオット。


「ヤだっ、可哀想な子っ……」

「君ね、ここになにしに来てるの?」

「ふぇ? 卒業しにですけど?」


 きょとんとした顔での返事。


「あのね、普通の貴族子女は将来の為の顔繫ぎだとか伝手とかを作る為に通うんだよ」

「そうなんですかっ!? お、お父様とお母様はそんなこと一言も言ってませんでした、よ?」

「ぁ~……それはきっと、あれだね」

「ああ、あれだな」

「?? あれってなんですか?」

「多分だけど……君のご両親は、女性が苦手な君が、共学に通うってだけでよしとしたんじゃない? 当面のところは」


 というか、エリオットをこの学園に通わせるというだけで手一杯で、伝手やらコネ作りのことは二の次にした可能性もある。


「おお、成る程ですっ」

「というか、君。伯爵家の嫡男でしょ。そんなんで大丈夫なの?」

「・・・ああ、そう言えば、そんなこともありましたね」


 ふっ、と自嘲するような表情を浮かべたエリオットが、遠い目をする。


「もう、いいんじゃないですかね? 姉様達のうちの誰かの子を伯爵家うちの跡取りとかにしても・・・というか、レイラちゃんと結婚って、できる気が全くしないんですよね。男扱いもされてないし・・・そもそも僕、全く公爵って器じゃないと思うんですよ」


 陰鬱なアルトがぼそぼそと呟く。


「え? なにそれどういうことっ!?」

「ああ、今のフィールズ家って、次の公爵位を継ぐのはレイラのお父様なんですけどね? その下は、僕以外の近い親族はみんな女の子しかいないんですよ。遠縁なら他にも男はいるんですけど、レイラとは年齢やその他の条件なんかが合わないらしくて・・・それで、僕を入り婿にして公爵を継がせるという目論見で、レイラと婚約させられてるんです。で、姉様達はみんなお嫁に出しちゃったから、伯爵位は公爵家の方に一旦戻して。僕の子供? に継がせればいいって」

「・・・えっと、もしかしなくても君の立場って、すっごく微妙じゃない?」

「微妙って言うか・・・お祖父様が、さっさと僕のことを諦めてくれればいいんですけどね? お父様もお母様も、女の子が苦手で泣き虫な僕に公爵が務まる筈はないって、ず~っと言ってるんですけど・・・」


 どんよりとした表情で、なんだかとんでもないことを語るエリオット。


「一応、こないだの件でお祖父様も思うことがあったらしくて・・・最悪、レイラとの婚約は見直して、僕じゃない他の誰かと結婚させて、その子供が大きくなるまでの繋ぎになってほしいって。まぁ、レイラの子じゃなくて、ルリアちゃんの子でもいいみたいなんですけど・・・」


 はぁぁ~と、陰鬱な溜め息。


「ルリアちゃんって言うのは?」

「あ、レイラの妹です。ちっちゃくて可愛いんですよ? 姉様達やレイラみたいにイジワルじゃないし、僕の嫌がることはしないし。それどころか、レイラから僕を庇ってくれる優しいいい子です♪」


 幾ら身内とは言え、小さい女の子に庇われて平気なのか、コイツ・・・なんか、その光景が目に浮かぶけど。


「・・・ふむ。今更なのだが、それは俺達に話してもいい話なのか? 普通、後継問題・・はなるべく他家の者には口外しないものだと思うのだが?」

「ふぇ? ・・・ああっ!?」


 レザンの言葉に、しまった! という顔で、今更口を押さえても遅いと思う。


「まぁ・・・君は、自分でも言ってるように、公爵には向いてないと思うよ」


 次代の当主候補が、こんなにぽろぽろと家の内情を零しちゃ駄目だし。


「とりあえず、テッド。リール」

「おう、あれなー。口外しちゃ駄目やつな? 安心しろ、フィールズ。こう見えて俺、言っちゃ駄目な話は空気読めるから。客商売は信用第一だぜ!」

「……俺も厄介事は御免だからな。守秘義務は守る」

「ぁぅ~、すみません……」

「はいはい、それじゃあ、エリオットがまた要らないこと話す前に、勉強に集中しようか」

「え~」

「なに? もっとなにか聞きたいの?」

「あ、いえ。そんなことはありませんです、はい。勉強、全然楽しくないけどがんばらないとなー」


 と、テスト勉強をすることにした。


「な、な、ここってどう解くん?」

「あ、これはこの公式使うといいんですよっ」

「おお、マジか」

「この問題なのだが……」

「あ、それはこういう風に考えるといいって聞きましたよっ」

「成る程」


 なんて、一年の筈のエリオットに勉強を教わっている奴が・・・


 エリオットが優秀なのか、それともこの二人がちょっとアレなのか・・・まぁ、聞いちゃマズい話をされるよりはいいのかな?


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