誰のこと? 名前が一緒の別人?


 うんうんと呻りながら(主に二人程)も、中間テストに向けて勉強を進めながら日々が過ぎて――――


「フッ、俺は勝った!」

「……なににだ?」

「そりゃあもちろん、補習にさ! な、レザン」

「うむ。フィールズ、助かったぞ」


 と、どうやら二人共赤点は免れた模様。


「わ~、よかったですねっ♪レザン先輩とメルン先輩が、まさかあんなに勉強が苦手だとは思ってなかったですよ」

「……くっ、そういうフィールズはどうだったんだ?」

「僕ですか? 今回は学年七位でしたね。もうちょっと上かなって思ったんですけど・・・まあまあの成績じゃないですか?」

「七位でまあまあだとっ!?」


 「……アホの子 のクセ して…… 実はマジで 賢い子 だった なんて、 とんだ 詐欺だっ ……」


「ふぇ?」

「そう言えば君、実技はかく、座学は学年でいつも上位だったよね」


 騎士学校時代、エリオットは実技の成績はあまり上の方じゃなかったけど、筆記テストの方は学年で常に上位で、首席とか次席辺りにいたのをよく見た気がする。調子が悪くても、五位以下になったのは見たことがないと思う。


 まぁ、向こうではずっとそんな感じだったけど……やっぱり、こっちの方が学力の高い人が多いということかな?


「あ、はい。勉強は嫌いじゃないですからねっ♪」

「え? マジで言ってんの? 正気か?」

「え? え~っと、はい。勉強と運動は嫌いじゃないっていうか……」

「……というか、なんだ?」

「勉強や運動の時間は、姉様達に遊ぼうって言われない時間でしたからね。僕の勉強は邪魔しちゃ駄目だって、お祖父様から言われてたみたいで。それで、お父様にお願いして家庭教師を増やしてもらって、沢山勉強しましたっ」


 にこにこと話すエリオット。その成績がいい理由は、状況やらなにやらは色々異なるけど、根本的なことは・・・セディーと似ていたのか。


「ぁ~、ねーちゃん達関連かー……そっか。苦労したんだなー」


 よしよしという風に、エリオットの頭を撫でるテッド。


「えへへ」


 まぁ、テストが一段落したら、エリオットに誘われているお茶会があるんだけどね。


 週末はうちに帰ったらセディーに話して、どうするか決めなきゃ。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 そして、中間テストで赤点を取った生徒以外は帰省解禁になった週末。


 渋滞を越えてうちに帰り、のんびりまったり過ごしつつセディーに構われて、ちょっと忘れそうだったエリオットに招待されたお茶会について話す。


「ねえ、セディー。フィールズ伯爵家のエリオットって知ってる?」

「ああ、フィールズ公爵令孫のエリオット様のこと? 確か、内孫にはエリオット様しか男子がいなくて、フィールズ公爵家直系の令嬢と婚約を結ばれているから、次代のフィールズ公爵と目されている方だよね」


 あ、なんかわたしよりもセディーの方がエリオットの状況や立場なんかを詳しく知ってたみたい。


 でも、エリオットって・・・


 まぁ、騎士学校(中等部のみだけど)在籍の経歴。伯爵家嫡男で、公爵家本家の令嬢の婚約者。そして、次代の公爵候補……って、泣き虫で割と残念感の漂う、根性があるんだか無いんだかわからないへたれな実物のエリオットを知らなかったら、なかなか大層な肩書を持った人に聞こえるな。


 というか、むしろエリオット本人を知っていると、誰のこと? 名前が一緒の別人? と、本気で思えそうなくらいの大物だ。思いっ切り肩書き負けしてるなぁ。


「そのエリオット様が……って、ネイトの一つ下の筈だから、今度の新入生だっけ?」

「まぁ、新入生というか……後輩だね騎士学校の。こっちに入って来たの知らなくて、びっくりしたよ」


 再会? した途端、エリオットだと認識する間もなく、いきなり体当たりをされて押し倒されるし。十時間耐久レース後で疲れてなくて、もうちょっと元気なときだったら、あんなに簡単にエリオットに転がされたりはしなかったと思う。なんかちょっと悔しい。


「え?」


 ぱちぱちと驚いたように瞬くブラウン。


「どこの中等部に行ったかは知らなかったんだけど・・・エリオット様って、騎士学校には行く必要なんて無い筈だよね?」


 まぁ、次代の公爵にと望まれているような子が入る場所じゃないことは確かだ。


「行く必要は無かったと思うけど、本人の強い希望であの騎士学校に入ったみたい」

「なんでまた、あんな……辺鄙へんぴなところへ」


 辺鄙、と言葉を濁してはっきりとは言わないけど……セディーって、あの騎士学校のこと嫌ってるんだよね。まぁ、わたしも別に、あそこは好きじゃないけど。


「なんでも、年の離れた姉君達におもちゃ扱いされて育ったようでね。エリオットは女性が苦手なんだよ。だから、姉君達から逃げる為に遠方であること。そして、女性が一人もいない寮制の学校。という条件のみで、あの騎士学校を選んだって言ってたよ」

「それはまた……」


 セディーが気の毒そうな顔になる。


「まぁ、姉君達だけでなくて婚約者のフィールズ嬢にも、おもちゃ扱いをされてたみたいだけど」

「え?」

「学園で少しね? エリオットが婚約者のフィールズ嬢と揉めそうになってたから、ちょっと助けてあげたんだよ。それで、そのお礼にってエリオットからフィールズ伯爵家でのお茶会に誘われたんだ。もしよかったら、セディック様もどうですか? だって。一応、来週の土曜日に決まったみたい。セディーの返事を聞いてから、どうするか決めようと思って」

「ぁ~、えっと、ネイト?」

「なに? セディー」

「エリオット様とフィールズ嬢との揉め事って言うのは? 間に入って大丈夫だったの? フィールズ家の不興を買ったり……は、してないみたいだけど」


 心配そうな表情がわたしを見詰める。


「ああ、うん。それは大丈夫。むしろ、フィールズ公からエリオットを宜しくされてる感じかも。ばっちりと菓子折りを頂いたよ。フィールズ公からエリオット経由で」

「・・・ネイト、なにしたの?」


 ……さすがに話した方がいいか。


「えっと、その……これは内緒にしてね?」

「わかった」

「フィールズ嬢は……エリオットのことを扱いしているみたいで。わたしの目の前でエリオットを女子寮に連れて行こうとしていたから、それを止めてあげたってところかな?」

「・・・フィールズ家の淑女教育は、どうなっているのかな?」

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