マジか~、ネヴィラ様かっこいー!


「あ、今、なんか色々の部分はしょっただろ!」

「え? 聞くの?」

「なんだよー、面白そうだから話せよなー」

「ぁ~……じゃあ、一つだけ」


 今から数十年前のその昔。


「おばあ様がお祖父様と婚約して少し経った頃のことで・・・こっちの国の舞踏会で挨拶回りをしていたときのことね? 下位貴族のお嬢さんが馬鹿男に絡まれているのを見て、おばあ様が助けに入ったんだって。丁度お祖父様が席を外していて、一人だったみたいなんだけどね」


 おばあ様は、よからぬ男にどこぞに連れ込まれそうになっていた下位貴族のお嬢さんがいるというのに、それを見て見ぬ振りをする男や、ニヤニヤと楽しげに見物するような男共にキレて、「失礼、害虫が湧いて出たので」と言って、馬鹿男の手を扇子で打って引き剥がして、泣きそうな顔のお嬢さんを背中に庇ったらしい。


「おー、人助けだな。しかも、女の子一人で男に向かって行くとか、さっすがネヴィラ様!」

「ふむ……少々危険ではないか?」


 おばあ様、パーティーやら人が集まる場所では、護身用に重たい鉄製の扇子(女性でも本気で振り回せば、男の骨を砕けるという凶器)を幼少期から持たされて、常備していたのだとかで・・・さすがに外国のパーティー会場で、狼藉者とは言えいきなり男をはっ倒すのはまずいと自重して、手を打つに留めたそうだけど。


「まぁ、案の定。女のクセに出しゃばるなとか、馬鹿に逆切れされて、『この国には、紳士の方がいらっしゃらないようなので、僭越せんえつながら女のわたくしが出しゃばりました。ええ、女性に不埒なことをしようとする輩がいても、この場にいた殿方は誰も助けようとはなさらないもので。紳士がいらしたとしても、席を外している最中か、そうでなければきっと皆様、相当目と耳がお悪いのでしょうね? こんなに近くても、困っている女性に気付かないくらいですものね?』って、その場にいた男共に啖呵を切ったらしい」

「……しょうもない男はいつの時代にもいるんだな」

「あ、その話おばあ様から聞いたことありますっ。あれですよね? 『わたくしの国では、女性が困っているときには紳士の方が助けに入るのが当然のことですが、残念ながらこの場には紳士が見当たらないようですわ。わたくし、自国に・・・帰ったら・・・・この国には紳士が少ないようだから気を付けないといけないって、お友達に教えて差し上げなくては』って、外国の綺麗なお嬢さんが、国際的にこの国の男の評判を落とすぞって示唆して脅しながら、女の人を助けたって話ですよねっ」

「マジか~、ネヴィラ様かっこいー!」

「……ある意味、とんでもない脅迫だがな?」


 とんでもない脅迫というか・・・おばあ様のお付き合いしていたご友人の中には、当時の隣国の王妃殿下の姪御さんがいたそうで、やろうと思えば本気でこの国の男の評判を落とすことができたそうだ。


 国際的に評判が落とされると、それはそれは大変なことになる。外交問題直前! と。高みの見物をしていた男共は、みるみるうちに蒼白になったという。まぁ、中には全く気付かないで、おばあ様を「生意気な女だ」と憤っている馬鹿共もいたそうだけど。


「ま、そこで大事になる前にお祖父様が割って入って、おばあ様が次期侯爵夫人ということがあっという間に広まって……おばあ様へ文句を言った人は、お祖父様に睨まれては敵わないと思ったらしくてね。ごにょごにょと謝罪しながら逃げて行ったんだって」


 更に言うと、少し席を外している間におばあ様がパーティー会場の男性陣と険悪になっていて、慌てて割って入ったお祖父様は、「ヒューイったら、入って来るのが遅い!」と不機嫌になったおばあ様に文句を言われたのだとか。


 そして、おばあ様を宥める為にその場でイチャイチャし出して・・・次期侯爵様は隣国のじゃじゃ馬娘に尻に敷かれているという噂が流れたらしい。まぁ、尻に敷かれているのは今も変わらないけど。


 お祖父様、割って入るのがもう少

し遅れていたら、おばあ様に振られていたかもしれません。本当に間に合ってよかったですね。


 それはかく・・・そういう風なことが他にも色々とあって、男に物怖じしないおばあ様の言動に助けられたり、かっこいいと憧れた当時の令嬢達が、今の貴族当主方の妻君や母君方になっていたりするワケです。


 なので、おばあ様の活躍? を知っている妙齢のご婦人方は、ネヴィラ・ハウウェルに好意的な方が多い。そして、そのおばあ様にそっくりなわたしにも好意的というワケだ。


 ま、勿論のことだけど、おばあ様のことを嫌いだという人達もそれなりにいるそうで。そういう人達には、わたしも嫌われているみたいなんだけどね?


「ネヴィラ様はかっこいい素敵な女性なんだって、おばあ様言ってました! ・・・って、ハウウェル先輩がそのネヴィラ様のお孫さんだったんですかっ!?」


 ハッとした顔でわたしを見詰めるエリオット。


「そうだね」

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