ああ、それは……セディーだね。うん。
「ぁぅ~……はい、すみません……」
しょんぼりと肩を落とし、
「あ、それなら帰省解禁後の週末、うちにお誘いしてもいいですか? こないだのお礼として。レザン先輩も、宜しければメルン先輩とグレイ先輩もどうぞっ♪」
パッと顔を上げると、にこにことフィールズ伯爵家への招待を持ち掛けるエリオット。
「あ、わたしはパス」
「ええっ!! な、なんでですかっ!?」
「うちでのんびり過ごす予定だから」
帰ったら多分、セディーに構い倒されると思うし……うちに帰った後まで、エリオットのお守りをするのはちょっとなぁ。
「だよなー? ハウウェルはおにーさん大好きっ子だもんなー」
ニヤニヤと笑うテッド。
「ウルサいよ、テッド」
「ああ、セディック様はハウウェル先輩のこと、すっごく大事にされていますからねっ。あんな優しいお兄様がいて、とっても羨ましいです♪」
「あれ? フィールズ、ハウウェルのおにーさんと面識ある感じ?」
「はいっ。小さい頃、どっかのおうちのお茶会でいじめられてたら、セディック様に助けてもらいましたっ!」
「そうなの?」
「はい。お前みたいな女の子が男同士の集まりに来るな、って。僕は男ですって言っても、嘘吐くなって言われて。それで仲間外れにされて泣いていたら……」
ああ、なんだかすっごく想像できる。
「年上の大きいお兄様が、『フィールズ公爵令孫のエリオット様ですよね?』って僕に言ってくれたんです。そしたら、いじめっ子達の保護者が真っ青になって謝ってくれて。それからは、あんまりいじめられなくなりましたっ♪助けてくれたそのお兄様にお礼をしたら、『僕にも、あなたみたいに綺麗な顔をした弟がいるので。気にしないでください』って、頭を撫でてくれたんです」
「おおっ、なんかハウウェルのおにーさんっぽい」
「はいっ。それから、『馬鹿共に絡まれて嫌な思いをして、我慢ができないと思ったときには、お祖父様のお名前を出すといいですよ? 相手が余程の馬鹿か物知らずでなければ、大抵はそれで引いて行きますからね』って、教えてくれましたっ!」
「ああ、それは……セディーだね。うん」
なんだか、とってもセディーらしい感じだ。
というか、そのお茶会でエリオットとフィールズ家に恩を売ったのか、それとも出席していたアホ共の家に恩を売ったのか・・・いや、両方にかな?
そうじゃなかったら・・・打算もなにも関係無く、泣いているエリオットを助けたってことも有り得るか。
エリオットの小さい頃って言ったら・・・多分、わたしがクロシェン家にいた時期なのかもしれない。女の子みたいな顔、ということでいじめられているエリオットのことを、セディーは放っておけなかったのかも。年齢も、エリオットはわたしの一つ下だし。
わたしとエリオットを重ねた、のかな? ま、わたしはこんな風にびーびー泣いたりしなかったけど。
「はいっ! セディック様、僕には優しかったです♪それで、騎士学校でハウウェル先輩に助けられて、ハウウェル先輩の名前を知ったときに、この人がセディック様の弟さんですかっ!! って、すっごくびっくりして、嬉しくなったんですっ!!」
ぁ~・・・それでエリオットは、最初からやたらわたしに懐いて来たワケか。
「そっかー、フィールズが微妙に腹黒くなっちまったのは、ハウウェルのおにーさんが原因だったのかー。素直というか……若干アホの子……だから、素直に影響受けちまったのかー」
アホの子、を小声で言う辺り、ちょっとは気を遣っているのかな?
「ふぇ?」
「つか、ハウウェルは知らなかったん?」
「初耳だね」
「そうでしたっけ?」
「うん。君から、セディーの話は聞いたことない」
セディーからも、エリオットの話は聞いたことがないし。
「あ、あの、それじゃあ、セディック様もうちにご招待したら、受けてくれますか? ハウウェル先輩」
「・・・ま、考えとく」
「わぁ! おばあ様が喜んでくれます!」
「ぁ~、もしかして……エリオットじゃなくて、フィールズ公爵夫人のご招待?」
それだったら、断ることはできない。
「あ、いえ、ハウウェル先輩が来てくれるなら、おばあ様も参加したいって。でもそれが無理なら、お茶会のセッティングをしたいって言ってただけです。ハウウェル先輩、おばあ様とお知り合いなんですか?」
「まぁ、面識はある。そして多分・・・」
「多分、なんですか?」
「フィールズ公爵夫人は、わたしの顔が好きなんだと思う」
「ふぇ?」
「え? なにそれどういうことっ!?」
「おばあ様くらいの年代のご婦人方の多くは、わたしのおばあ様……ネヴィラ・ハウウェル侯爵夫人に好意的なんだよ」
「ネヴィラ様、なんかしたん?」
「ま、色々とね? この国の女性って、おばあ様の出身のお隣の国よりも保守的で……ああ、いや。保守的なのは男の方かな? ケイトさんを見ていればわかると思うけど、今でも女性には結構窮屈そうでしょ? でも、昔は今よりももっと女性は男に押さえ付けられていたみたいでね。そういうときに、おばあ様がお隣から嫁いで来て……なんか、色々とやらかしたみたい」
「あ、今、なんか色々の部分はしょっただろ!」
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