んまあぁっ! ちょっとリールさん、聞きましてっ?
朝昼晩と、「構ってください!」と言わんばかりのエリオットが、いつもの面子に交じっていることにも慣れた今日この頃。
「・・・そろそろ、か」
「ああ……そろそろ、だ」
いつもとは打って変わって、沈痛
「どうしたんですか? レザン先輩もメルン先輩も、なんだか暗いですよ?」
「ああ……そろそろ、あれが始まるからな」
「始まるって、なにがですか?」
「学生という俺にらとっての大いなる試練! その名も、中間テストが、だ!」
「ふぇ? 中間テストくらいでそんな深刻そうな顔をしていたんですか?」
「……この二人はテストの度に毎度こうだぞ」
「・・・え? も、もしかして、そんなに酷い点数なんですかっ?」
と、テッドとレザンに不憫そうな視線を向けるエリオット。
くっ、と悔しげに顔を歪めるテッド。
まぁ、あれだな。普段エリオットのことをどう思っているのかがよくわかる。
「……確か、フィールズは上位クラス所属だと言っていなかったか?」
「ハッ! そう言えば!」
「あ、はい。入学テスト、思っていたより簡単でしたからねっ♪」
にこにこと答えるエリオットに、
「・・・な、リール」
テッドは低い声でリールに呼び掛ける。
「なんだ?」
「入学テスト、どうだったよ?」
「ああ、それなりに難しかったとは思うが」
「んまあぁっ! ちょっとリールさん、聞きましてっ? フィールズさんったら、あの難しい入試問題を簡単って言いましてよっ!? あのテストを、簡単だってっ!!」
リールの答えを聞いて、驚いたような高い裏声が響いた。手を振る仕種も、まるでどこぞのご婦人のようだ。芸が細かい。
「?? あの、なんでいきなり、おば様みたいな言葉になってるんですか? メルン先輩」
不安そうに首を傾げるエリオット。テッドに若干引いているようだ。
「ああ、テッドには姪っ子さんがいるらしくてね。よくままごとに付き合ってあげているみたいだよ」
「め、メルン先輩もおままごとに付き合わされてるんですかっ!?」
「ん? おお、うちの姪っ子可愛いぞー。テッドにーちゃんって言って、俺めっちゃ慕われてっからなー。ついつい甘やかしちまうぜ」
「え? あれ? おままごとに無理矢理付き合わされて、大変な目に遭っているんじゃないんですか?」
「いや? 俺は姪っ子に付き合って、ペットの犬猫からじーちゃんばーちゃん役までこなせるオールラウンダーな役者だからな!」
キリっとした顔で胸を張るテッド。
「そ、そんなっ……それじゃあメルン先輩は、憧れのお父さん役やお兄さん役もさせてもらえるってことですかっ!?」
「おう、偶にだけどなー。旦那さんや近所のおじさん役とかもあるぜ?」
「すごいですっ!! 僕、姉様達にいっつも犬猫や赤ちゃんとか、妹役しかさせてもらえなかったんですっ。だからとっても羨ましいですっ!!」
「フハハハハハっ、師匠と呼んで敬ってもいいんだぜ!」
きらきらとした憧れるような眼差しを向けられて、テッドは調子に乗っている。
「ふむ・・・話が逸れ捲りだな」
「……ああ、アホ過ぎる会話だ」
確かに。高等部に通うような歳の、それも男子同士の会話とは思えないような話だ。
「まぁ、どこまで話が逸れて行くのか見てみたい気もするけどね」
「……とりあえず、フィールズはテストの心配は要らないということだな?」
「ふぇ? ええと、はいっ。テストは全く心配してないですっ」
「……くっ、なんとも裏切られた気分だっ……」
「え? メルン先輩、誰かに裏切られたんですかっ!?」
「ああ……アホだと思っていた奴が、まさかマジで勉強のできる奴だなんてっ……俺は今、手酷く裏切られた気分を味わっているっ!」
「フッ、大丈夫だ。今年も一緒に頑張ろうではないか、テッド」
「レザンっ!」
「……なんだこの茶番は」
「えー? リールが冷たいー。もっと心配するなりしろよなー」
「アホか。休暇中にライアン先輩とセディック様に勉強を教わっただろうが。今回のテスト範囲も、バッチリ教わった筈だが?」
「え? マジでっ!? どうなんだハウウェルっ!!」
「どうって……一応、二年の前期修了過程の半分くらいの範囲は教えてもらったでしょ。ざっとだけど」
「マジかっ!? 道理で……やたら勉強時間が長いと思ったら、そんなに大量に勉強をさせられてたのかよっ!!」
「お前な、なんだその言い種は。俺達が、無理矢理ハウウェルの家まで押し掛けたんだろうが?」
テッドの言葉にリールが顔を
「あ、悪ぃハウウェル。おにーさんとライアン先輩にはちゃんと感謝してっからな!」
「別にいいけど。とりあえず、セディーとライアンさんに教わったことを思い出しながら勉強すれば、ある程度は大丈夫なんじゃない?」
「うむ。そうだな」
「……ここで、無暗に大丈夫だと調子に乗って、赤点を取ったら最悪だぞ。特にテッド」
「な、なんで俺だけ名指しすんだよっ?」
グサリと釘を刺すリールに、ギクリとした顔を向けるテッド。
「自覚があるんじゃないのか?」
「くっ、言い返せねぇっ」
「皆さん、ハウウェル先輩のおうちに遊びに行ったんですか?」
「ああ、このアホ共はこないだの休暇中に、全く連絡も無しにいきなりうちに来やがってね。あまつさえ、うちで働くことになった先輩と、わたしの兄に勉強を教わると言って何日も滞在しやがった図々しい野郎共なんだよ」
「……ハウウェル先輩のおうち、
「ははっ、まさか、わたしのうちに遊びに行ってもいいか、なんて聞いたりしないよね? フィールズ伯爵令息?」
と、にっこり微笑む。
まかり間違って実家の方にでも行かれたら、すっごく面倒なことになるのは目に見えている。
そして、エリオットならそんな間違いを起こすことも有り得そうなところがなんとも言えない。
なら、最初からうちには呼ばない方がいい。
「ぁぅ~……はい、すみません……」
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