毒を食らわば皿まで、と言うだろ。


 夕食後。


「少しお時間はありますか?」


 と、エリオットに呼び止められて・・・


「ハウウェル先輩、レザン先輩。メルン先輩とグレイ先輩もこれどうぞ!」


 にこにこと、高級感漂う箱を差し出された。


「なにこれ?」

「王室御用達の有名なお菓子だそうです。とっても美味しいですよ♪」

「マジでっ?」

「……いきなりどうした? 賄賂か?」


 驚くテッドに、いぶかしげなリール。


「もうっ、違いますよ。そんなんじゃないですって」

「うん? くれると言うのなら遠慮無く貰うが、なぜ俺達に?」

「こないだ、レイラが迷惑を掛けたお詫びだそうです。ハウウェル先輩の忠告のお陰で大事には至らなかったので、きちんとお礼をしておきなさいって、お祖父様から送られて来ました」

「ああ、フィールズ嬢の……」


 こないだの、エリオットを女子寮へ連れて行こうとしたのをやめさせた件か。


 エリオットからフィールズ公へ報告させてから、まだ数日しか経っていないというのに、菓子折りが届くとは対応が早い。


 手紙が届いてから、即行で用意をして速達で出したのかな? そうじゃなかったら、寮に直接届けさせたとか? 王室御用達のお菓子ってお高い上に人気だし、手に入れるのもなかなか大変だと思うんだけど。さすがは公爵家と言ったところか。


 それにしても、去年も王室御用達のお菓子を食べたなぁ。まさか、今年もお高いお菓子を見ることになるとは・・・


「はい。レイラには、もうあんなことをしないように、キツく注意しておくって書いてました♪ハウウェル先輩のお陰です! 本当にありがとうございました!」

「まぁ、わたしは自分へのとばっちりを回避しただけなんだけどね?」

「ふふっ、そういうことにしておきますねっ。だから、どうぞ受け取ってください。これからもよろしくお願いしますね? 先輩方」


 エリオットは、にこにこと満面の笑顔で菓子折りを差し出す。


「・・・」

「お、それじゃあ」


 と、伸ばしたテッドの手を掴んで止める。


「って、なんだよ? ハウウェル」

「うん、テッドとリールはちょっとこっち来い」

「……なんだ?」


 怪訝そうな顔をする二人に、


「どうしたんですか?」


 きょとんとした顔のエリオット。


「うん。わたしはちょっと、この二人に大事な話があるから、君はそれレザンに渡しといて」

「? えっと、はい」

「よし、君ら二人はこっち来て」


 と、エリオットからちょっと離れたところで声を潜めて切り出す。


「あのさ、二人共」

「なんだよハウウェル、高級なお菓子を独り占めする気かよー?」

「……フィールズには聞かせたくない話か?」

「ま、そんなとこかな? テッドは茶化さないで聞けよ?」

「へーい」

「一応、わたしは優しいから忠告しておく」

「お、おう。なにをだ?」

「あのお菓子、受け取ったら……」

「……受け取ったら?」

「エリオットとの付き合いが、一生続くと思え」

「は?」

「……やはり、賄賂の類だったか。あれは」

「まぁ、さすがに現金やら貴金属なんかが入っているとは思わないけどね? エリオット本人が意図しているかはかく、フィールズ公に『エリオットを宜しく』されることは確実だね。だから、よく考えた方がいいよ」

「もう、ハウウェルってばちょ~っとお高いお菓子くらいで大袈裟だなー」

「や、別に大袈裟じゃないし。ちなみにだけど、君達あれだからね? ハウウェル侯爵であるわたしのお祖父様と、その跡取りであるセディーにはもう、既に顔と家をばっちり覚えられてるから。そして、フィールズ公爵にも名前を覚えられると思っておいた方がいい」

「・・・マジで?」

「マジだよ。君達が休暇中にいきなりアポ無しでうちに来て、わたしの友人だって名乗ったんだからね? うちに関しては、君達の自業自得だよ。エリオットに関しては、わたしとレザンのとばっちりな部分もあるけど」

「……ちなみにだが、レザンの奴は知っていたと?」

「ま、あれでも奴は伯爵令息だし。普通にわかってるんじゃないの? ……なにも考えてない可能性が、無くもないけどね」

「マジかよ・・・」

「というワケだから。受け取るかどうかは、よくよく考えること。いい?」

「そう言うハウウェルはどうすんだよ?」

「エリオットの言動を考えると、わたしはもうばっちり覚えられているみたいだから。むしろ、受け取らない方が失礼でしょ。それに、フィールズ公爵夫人はおばあ様の茶飲み友達で、昔から面識があるし。すっごく今更だよ」

「え? そっちの繋がりもあるん?」

「まあね。わたしは、フィールズ公ご本人とは面識は無いけど」


 わたしのおばあ様は侯爵夫人だ。高位貴族夫人としての繋がりと人脈がある。誰かさん・・・・は、それを一切放棄したけど・・・


 わたしは多分、おばあ様の年代のご婦人方には受けがいい。小さい頃からおばあ様がお呼ばれされたお茶会には何度か連れて行かれてて、「ネヴィラ様にそっくりですね」とよく言われている。そして、おばあ様の武勇伝も何度か聞かされたし。おばあ様のご友人方には、概ね好意的に見られていると思う。


「ま、忠告はしたからね」


 と、二人に言い置いて、わたしはエリオットから菓子折りを受け取った。


 さすが王室御用達。去年頂いたお菓子とは違うお店の物だったけど、こっちのお店のお菓子も美味しかった。というか、こっちのお菓子が以前のお菓子よりもグレードが高い。惜しむらくは、手頃に食べられるような値段じゃないことだ。


 ちなみに、テッドとリールは迷っていたみたいだけど、結局は菓子折りを受け取ったようだ。


「だってさ、どうせハウウェルとレザンにくっ付いて来るだろ? フィールズは。それを、フィールズだけ仲間外れにする方がどうよじゃね?」

「……今更、お前達との付き合いを控えても意味はなさそうだしな。毒を食らわば皿まで、と言うだろ」


 とのこと。


 なにが毒でなにが皿なんだか?


 折角せっかく心配したのに。全くもう・・・


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