わたしの婚約者は嫌な奴だ。


 突発的に書いた番外編です。(笑)

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 わたしの婚約者は嫌な奴だ。


 彼は乗馬が趣味なようで、馬術大会がある度に参加しに出向くのだとか。腕はまあそれなり・・・・なので、表彰台に上がることもしばしば。


 そして、婚約者は伯爵家の嫡男。いい馬が欲しいだとかで、牧場を持っていて、軍馬になれる程の馬を産出している我が家へ婚約の話を持って来たのだとか。


 馬術大会で表彰台に上がった、誰々(婚約者の知り合い)の腕は悪い。自分の方が腕が優れている。こんな自分と婚約できることは鼻が高いだろう……云々。


 顔を合わせれば、自分の自慢話ばかり。わたしのことは、地味でパッとしない田舎女、牧場があるから貰ってやるんだ、俺の方が身分が上なんだから敬え……などなど、ウザいことこの上無い。


 だったら・・・馬だけ買って縁談ゴリ押しすなやボケ! と、奴との婚約を解消してしまいたい。けれど、悲しいかな。奴の家の方が身分が上。わたしの家から縁談を断るなんて、奴が相当のやらかしでもしなければ、ほぼ無理。思っていても口に出せないという現状。


 だからわたしは・・・今日も無の感情で愛想笑いを浮かべ、「へェ」「ソウデスカ」「スゴイデスネ」「シリマセンデシタ」と、婚約者の自慢話を聞き流す。


 そんな婚約者の自慢話の中に、『ケイト・セルビア』という令嬢が出て来るようになったのは、いつ頃からだっただろうか?


 口を開けば、『ケイト・セルビア』という令嬢のことを生意気だ、女のクセに馬を乗り回して男に勝ったつもりでいる嫌な女……という風に悪し様に言う。


 わたしは貴族子弟のするような乗馬には特に興味が無く、乗馬クラブに所属もしていなかった。


 けれど、『ケイト・セルビア』伯爵令嬢は成績優秀で教師の覚えもめでたく、かっこいい女性として貴族令嬢、平民女子にかかわらず頼り甲斐のある素敵な人だと有名で、『殿方なら惚れていた女性』ナンバーワンの座をほしいままにしている男前な女性。婚約者の言うような、嫌な女だとは到底思えないことを知っている。


 わたし個人的には、プライドが高くて自分の自慢ばかりしている狭量でイヤミな婚約者なんかより、よっぽど仲良くしてみたい人だった。


 まぁ、狭量な婚約者が「いいか、お前は俺の婚約者なんだから俺の許可した者以外とは交流するな」なんて言いやがったせいで、『ケイト・セルビア』様にお近付きになることは断念したんだけど。


 『ケイト・セルビア』様には、本当に申し訳ないと思っています、マジでごめんなさい。


 それに、あれだ。奴のせいでわたし、『ケイト・セルビア』様のファンの方々から若干白い目で見られていて、学園が微妙に居心地悪いです。お友達もいないです。ちょっと切ない。


 まぁ、『ケイト・セルビア』様は公明正大というか、女性にありがちな陰湿なところの無い、さっぱりした気性の方なのだそうで、嫌がらせなどは無く、若干の白い目で見られる程度で済んでいるのですが・・・


 一度、嫌々見に行った奴の乗馬対決の折り、『ケイト・セルビア』様の乗馬する姿を見たことがある。


 そして、納得してしまった。『ケイト・セルビア』様は本当に乗馬が上手い。そして、婚約者は『ケイト・セルビア』様に負けていた。


 それで、『ケイト・セルビア』様は女性にして、婚約者の自分は乗馬が上手いというプライドを折った方なのだと理解した。


 負けた姿を見られたのが悔しかったのか、それからは乗馬対決を見に来いなんて言われなくなって、ラッキー、やーいやーい鼻っ柱折られてやんの! バーカバーカ! と・・・結構スッとしたのは、内緒だ。わたしもストレスが溜まっているのかもしれない。


 それからも、肩身の狭い思いをしながらあまり目立たぬよう、婚約者のうぜぇ自慢話を流しつつ、季節は過ぎ去り――――


 婚約者が、「乗馬対決をするから見に来い」と久々に言って来た。


 なんでも、相手は綺麗な顔をした男子の後輩だとかで・・・「あんな女顔に俺が負けるワケがない」とか、「余裕で勝てる」だとか言って笑っていた。


 正直、めっちゃどうでもよかった。


 でも、見に行かないとめんどくさいんだろうなぁ。と思って、全然乗り気じゃなくて、渋々見に行ったのだけど――――


 対戦相手の後輩男子は、確かにとっても綺麗な顔をしていた。男でその顔か! と、びっくりしてガン見してしまった程だ。


 失礼だったと思います。すみません。でも、お綺麗なんですもの。


 けど、それよりも驚いたのは・・・


 対戦相手の美人後輩男子の軽装と、余裕を持った乗馬スタイル。


 馬場に来て初めて知ったのだが、勝負内容はなんとびっくり、十時間耐久レースなのだとか。


 今日は天気もいいというのに、厚手の乗馬服をかっちり着ている婚約者。対して、長袖ではあるものの、薄手の服で動き易そうな格好の美人後輩男子。


 あれ、婚約者絶対途中で暑くなるぞ? 大丈夫か? つか、対戦相手の美人後輩男子のが乗馬慣れてんじゃね? 勝てなくね?


 そう思いつつも見学だと、走る姿を眺めて、気付いた。あの美人後輩男子、飛脚か……軍関係者かなんかだわ。馬の走らせ方が違う。長距離を、計画的に走る為の走らせ方をしている。婚約者絶対勝てんわ、と。


 だって、婚約者が出て表彰台に上がってると自慢する大会は、貴族子弟しか出場しない大会だ。軍事関係者や、一般人、成人が出場しない、ヌルい大会だ。


 そんな大会にしか出たことのない婚約者が、馬走らせる玄人に敵うワケ無いわー。


 勝負は見えているけど、途中でふけると婚約者が後で煩そうだし・・・それになにより、あの美人後輩男子がかっこいい。そして、なびく金茶の長い髪や、滴る汗を拭う仕種、キリッとした表情・・・もう、なんかこうっ、めっちゃ色っぽいっ!!


 ナイス目の保養っ! そう思って、美人後輩男子を心の中で絶賛する。


 わたしも女なので、うぜぇ自慢ばっかりする中の上くらいの顔した男なんかより、かっこいいイケメンの方が好きなので・・・


 と、美人男子をガン見していたら――――なんか、あっという間に八時間が経過していた。


 恐ろしや、美人男子!


 そして美人男子、暑いからと休憩時間のときに水被っていたけど・・・ナイス! マジで水も滴るいい男でしたっ!! 女子達がキャーキャーしてました。わたしもキャーって言いたかったです。ありがとうございましたっ!!


 そして、二回目の休憩時間が始まると思ったら・・・婚約者が馬上でぐったりしていた。真っ先に駆け付けたのは、美人後輩男子。


 あの婚約者に勝負を吹っ掛けられて、こんな面倒な勝負をする羽目になったというのに(多分……あれ? どっちが勝負吹っ掛けたんだっけ?)あの嫌な奴を助けようとするとは、顔だけでなく、態度もイケメンだ。


 けど、あの婚約者は無駄にプライドが高い。美人後輩の手を断っているのが見て察せられる。と、そこへやって来たのは他の男子。そして、なにかを話すとパッと駆けて行った。人を呼びに行ったようだ。


 すると、今度はガタイのいい強面イケメンが現れ、美人後輩男子が馬の鼻先に回ると・・・なんとびっくり、強面イケメンはひょいと軽くわたしの婚約者を担いで馬から降ろしてしまった。


 一応、あれでも婚約者はけっこう筋肉が付いていて、そんなに軽くはない筈なのだが・・・と、思っていたら、そのまま具合の悪い婚約者を運ぼうとした強面イケメンが、足を止めてっ!?


 わ、わたしの婚約者をお姫様抱っこしやがったのことですわっっっ!?!?


 その姿を見たときの、心震わす胸の高鳴りをなんと言って表現すれば宜しいのか・・・


「「「キャーっ!?!?」」」


 と、耳をつんざくような黄色い悲鳴。顔を真っ赤にして叫んでいるのは、女子生徒達。


 荒くなる呼吸。なぜか潤む目。高鳴りの止まらない鼓動。名前も知らない女の子と手を握り合って、わたしも悲鳴を上げていた。


 それからだ。


 あれ程、ウザいと思っていた婚約者のことが、なぜか可愛く見えてしまうようになった。


 勝負を途中棄権で負け、脱水や日射病、疲労などでへろへろになって、回復してからも若干弱々しい、けれど口は減らない強気な態度の婚約者が、あの強面イケメンにお姫様抱っこで運ばれていた姿を思い浮かべると・・・心臓がバックンバックン高鳴り、身のうちからなにかが滾る!


 そして、あのときにお友達になった、隣にいた女子生徒から貸してもらった、男同士のあれこれでうふふ♡な展開の本を読むのが趣味になってしまった。


 あと、婚約者のうぜぇ自慢話を微笑ましい気分で聞けるようになった。


 前までは、一般の部や成人の部、軍事関係者も一切出ない、貴族子弟しか参加してないヌッルい大会の少年の部で表彰台に上がった程度で、軍馬を鞍も手綱も付けずに裸馬のまま乗り回せるわたしに、一位にもなれない自慢かよ? と、馬鹿にしていたというのに・・・


 なんだか今は、その自慢でさえも、可愛く見えるから不思議だ。


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 このあと、先輩は発酵しちゃった婚約者さんに慈愛の眼差しを注がれ、仲良くなって尻に敷かれるようになります。(笑)

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