一回目の休憩時間だ。


 馬に乗り、定位置へ。それから旗が振られ、レーススタート。


 最初は馬の調子を見ながら、ゆっくりと駆け足。


 先輩の方は、最初っから飛ばしてますね。


 あのペースで走り続けるのは大変だと思うんだけどな? まぁ、あの野郎がへばるのは大歓迎なんだけど。


 と、マイペースに進んでいると、あっという間に周回遅れになった。


 ・・・けど、ここで焦っちゃいけない。


 一応、お互いが走り切ったら、トラックを回った回数で決着というルールにしたけど、回った回数が多ければ勝つワケじゃない。


 これは、あくまでも十時間を走り切った方の勝ちになるんだから。『両方が走り切ったら、周回数での勝敗になる』というのは、おまけルールでしかない。


 何周回ったかよりも、まずは長時間走り抜くことを考えなくちゃいけない。


 時計を見る。一時間が経った。先輩の方が、トラックを回った回数が多い。


 二時間が経った。先輩が、飛ばしていたペースをダウンさせた。さすがに疲れが出始めたかな?


 わたしの方は馬の調子が上がって来たので、少しだけスピードを上げる。走りたそうにしている子を選んでよかった。


 先輩がスピードを落とし、わたしの方はスピードを上げたので、先輩との周回差が減って来ていると思う。


 日が高くなって来た。暑い。汗が吹き出す。


 一応、暑くなることを見越して薄手のシャツを着て(落馬のときの怪我防止で長袖)来たんだけど・・・やっぱり、動くと暑いよねぇ。替えのシャツ持って来てよかった。


 お腹空いて来たなぁ・・・


 手綱を利き手にまとめ、反対の手でポーチを漁り、用意していたお菓子の包みをいで口に放り込む。


 鼻に抜けるのは、甘いキャラメルの風味。それを噛まずに、ゆっくりと口の中で舐め溶かす。これでしばらくはつかな。


 喉渇いて来たなぁ……と思っていたら、ピーッ! とホイッスルが鳴った。どうやら四時間が経過したらしい。一回目の休憩時間だ。


 先輩の方が先に馬を降りた。取り巻きらしき生徒が、先輩にあれこれと差し出しているのが見える。


 わたしもスピードを緩め、スタートの位置で馬の足を止めてひょいと降りて手綱を引いて移動。


 十五分の間に、やることが色々ある。


「大丈夫かー? ハウウェル」


 と、やって来たテッドが放ったタオルをキャッチして汗を拭う。


「ん、ありがと。まだ平気」

「そっか、あんま無理すんなよ? あ、コイツ俺が連れてくわ」

「あー、じゃあよろしく」


 引いていた手綱をテッドに任せる。


「水だ、飲むか?」


 と、横から低い声が差し出した水筒を受け取って口を付ける。


「……はぁ、ありがと」


 ゴクゴクと数口飲んでからレザンに礼を言い、頭から水を被る。


「あ~、あっついわー」


 冷たい水が気持ちいい。


「だろうな。今日はよく晴れている。この分だと、雨は降らないだろう。よかったな」

「そうみたいだね」


 レザンの言葉に雲の少ない青空を見上げ、濡れた頭を適当に拭い、解いた髪を搾ってまた結び直す。


「今のところ、先輩との周回差は五周程だな。向こうがリードしている。ハウウェルがペースを遅くしているのは、わざとか?」

「まあね。あと、馬がどれくらい走れるかわからないから。あまり負担を掛けないよう、気を付けながら走ってる」

「そうか・・・なにか食うか? 向こうに軽食を用意している」

「ん、食べる。けど、次に走る馬を決めてから」

「そうか、わかった」


 あと、着替えよ。


 それから次に乗る馬を選んで、濡れたシャツを着替えて、軽くサンドウィッチをかじってと、あれこれと用を済ませ、あっという間に休憩時間が過ぎて行った。


 そして、次の四時間がスタートする。


「ハッ、随分と疲れているようだな? さっさと尻尾巻いて逃げたらどうだ?」


 スタート位置に着いた傍から、飛んで来たイヤミ。わたしはまだ余裕なんだけど。


「先輩の方こそ、お顔の色が優れないように見えますが? まさか、たった四時間程度の乗馬で気分が悪くなったんですか? なんだったら、今すぐ棄権してもいいですよ?」


 と、返す。


「誰が棄権するかっ!!」


 怒鳴り返されるも、先輩の顔色は悪い。


 多分、節制しないで朝ごはんを普通に食べたんだろうなぁ。休憩時間中に吐いたのかもしれない。酸っぱい匂いがしているし。


 わたしに疲れているようだと言ったのは、揺さぶりのつもりかな? いるんだよね。相手にプレッシャーを与えて、調子を崩させようとする性格の悪い人。まぁ、先輩の方が顔色悪いから、全く意味の無い揺さぶりなんだけど。


「そうですか。では、お互い正々堂々勝負を続けましょう。ああ、落馬には気を付けてください」

「誰が落馬なんてするかっ!! ふざけるなっ!!」


 まぁ、あれだ。棄権をしないというのなら、具合が悪くても容赦はしない。


 怒鳴るくらいの元気はあるようだし・・・しっかりと叩き潰してやろうじゃないか。


 レース、再開。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る