実は脳筋気味だったりするんです。


「頼むハウウェル! 副部長を続けてくれっ!?」

「や、だから、わたしが負けたらの話ね?」


 そう答えると、


「よしっ、絶対に勝てよ! めっちゃ応援するからっ!! そして、お嬢さん」


 今度はキリッとした顔で振り返り、後輩の彼女へ向き直るテッド。


 ……そのキリッとした顔、作る必要あるかな?


「こっちのおにーさんはこんな綺麗な顔した美人さんな見た目によらず、かなり負けず嫌いで腕っ節も強くて、容赦ない感じの人ですから。こんな顔して、そっちのコワモテなおにーさんと、普通に喧嘩できちゃう感じのヤバい奴で、実は脳筋気味だったりするんです。だから、勝負の撤回するなら今のうちですよ?」


 と、テッドが声を潜めて、彼女達にわたしとレザンを交互に示す。まぁ、丸聞こえなんだけど。


「本人を目の前にして、なかなかの言いようじゃないか? 誰が脳筋だって? テッド」


 思わず冷ややかな声が出ると、


「え? だって、か弱い女の子が相手にするには、ハウウェルは結構アレな感じの相手だと思うワケですのことよ? それにさー、ハウウェルがレザンとど突き合いできるのはホントのことだろーがよ。誰がそんな、美人さんな見た目でレザンと殴り合いができると思うよ? 俺、最初見たときは思わず目ぇ疑ったっての」


 少し狼狽うろたえて変な口調になり、けれど途中で開き直ったのかふてぶてしく応えるテッド。


「え? あの、冗談とかじゃ……」

「うん? ハウウェルとは、偶にだが、組手や剣の打ち合いをしているぞ?」


 レザンがそう応えた瞬間、驚愕したような顔でレザンとわたしを見比べる彼女達。


「ほら見ろ、ハウウェルのその顔と体格でレザンとやり合えるって言うと、こーんなどビックリして驚くのが普通の反応なんだぞ?」


 確かに、レザンとは二十センチ程の身長差があって、手足のリーチも違うし、体重も多分十数キロ程は確実に違う。戦う上でこれだけの体格差というのは、なかなかシビアで厳しいものがある。というか、コイツとやり合ってまともに勝てた試しが無い。でも・・・


「体格差はかく、顔は関係無いだろ。顔は」

「いーや、普通に驚く!」

「君が驚こうがどうでもいいんだよ。それで? あなたはどうしますか?」

「! ぁ、そのっ、わたくしは……」


 びくっとわたしを見上げる彼女。なぜか、その顔に怯えの色があるような気がする。


「ハウウェルが女の子いじめてるー」

「人聞きが悪いこと言うな。君が脅かすようなことを言うからだろ。わたしは、挑まれた勝負を本当にするのか聞いているだけだよ」

「あ、そうそう。こっちのコワモテなおにーさんは多分、学園でもトップクラスの乗馬の腕前で、お嬢さんが勝負を挑んだ綺麗なおにーさんの方は、ソイツに比べるとあんま乗馬で目立ちはしないけど、実は地味にクラブでも上位の腕してたりするワケですよ。ですよね? 部長」

「ええ、ハウウェル様の腕はわたしが保証します。それで、あなたはどうしますか?」


 ケイトさんに問われた彼女は……


「そ、その、申し訳ありませんでしたっ!!」


 と、お友達と一緒に頭を下げ、逃げるように走り去って行った。


「・・・あれは、勝負はしないということでいいのでしょうか?」

「ええ、多分ですが」

「ハウウェルが女の子撃退したー」

「うん? どちらかというと、彼女達を撃退したのは、テッドの方ではないか?」

「ぅえっ!? 俺っ!?」

「まぁ、彼女達を脅かすようなことを言ってたのは、明らかにテッドだよね」


 というか、わたしはコイツのせいで怯えられたと言っても過言ではない気がする。特に気にはしないけど。


「や、俺は別に、あの子達を脅かしたワケじゃねぇんだって! 単に、か弱い女の子がハウウェルに蹴散らされる姿を見るのが忍びなかっただけだから!」

「か弱い女の子、ねぇ?」

「あ、なんだよその言い方は!」


 わたしの言い方が気に障ったのか、ムッとした顔をするテッド。


「や、普通、先輩の、それも大してよく知りもしない男子に真っ正面から喧嘩売るような女の子を、か弱いとは言わないんじゃない?」

「ハッ! ……一瞬なるほど! って納得しかけたけど、ハウウェルに比べると、そこらの女の子は普通にか弱い部類に入ると思いまーす」

「ふふっ、確かに。クロフト様と喧嘩ができてしまうハウウェル様に比べると、そうかもしれませんね」

「ですよねー」


 テッドの言葉に、クスクスと同意するケイトさん。


 ……って、これはちょっとまずいかも。今更だけど、セディーに話されたら、めっちゃ困る話だ!


「あ、いえ、その、レザンとやり合えるというか、一応コイツの相手がギリギリできるくらいですから! わたしはそんなに凄くはないですよ? むしろ、騎士学校ではあんまり強くなくて、首席だったコイツに一回もまともに勝てたことは無いですから」

「そう謙遜することはないぞ、ハウウェル。俺と何合も打ち合えるのは、お前を含めても数名しかいなかったんだからな」


 わたしの腕は、コイツと打ち合えるというレベルじゃない。ただ単に、レザンの一方的な猛攻を一時間ちょいくらいは凌げるってだけのことだし。わたしは多分、剣士としての腕はそう強い方じゃない。


「お前はちょっと黙ってろ。その、ケイトさん。このことはセディーやおばあ様達には内緒にしてもらえると……」

「ええ、わかりました。わたしも・・・両親やリヒャルトには少々言い難いことが偶にありますからね。ですが、あまり無理をしてはいけませんよ?」


 少しだけ心配そうに、そしてちょっぴりいたずらっぽく笑ってケイトさんが言う。


「はい」


 多分、ご両親やリヒャルト君に言い難いことというのは、どこぞの馬鹿共をムチで撃退なんかしていることなんでしょうねぇ。ケイトさんはある程度鍛えていて、武器を扱えるとは言っても年頃の女の子。ご両親やリヒャルト君が知ったら、すっごく驚かれると思います。


 まぁ、保護者に内緒にしているというその辺りは、お互い様と言ったところかもしれない。人が集まると、それなりにトラブルの類に出くわすことがあるからなぁ・・・


 それから耐久レースのことを詰めて、この日はお開きとなった。


「いいかハウウェル! 絶対勝てよ! 幾ら副部長……じゃなかった、部長が、もしものときは俺の暫定副部長に異論が無いって言おうが、俺には副部長の座というか、コイツのフォローやら暴走したときに止めるブレーキ役なんか、めっちゃ無理だからな!」


 と、テッドに強く応援? をされた。


「・・・俺はそんなに暴走しているだろうか?」


 という不思議そうな呟きは無視した。どうやら、奴には自覚が無いらしい。


 困ったものだよ、全く。


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