あなた、勝負に参加しますか?


「ぁ、あのっ!? すみませんでしたケイト様っ!!」


 青い顔をした女子生徒が、友達と思われる女の子に付き添われて泣きそうな顔でケイトさんに謝った。


「わ、わたくし、自分が言ったことがこんなことになるなんて思っていなくて……ケイト様に迷惑をお掛けするつもりなんて全然なかったんですっ!?」

「そうですか。わかりました」


 ケイトさんが頷くと、


「うむ。というか、こういう事態が起こることを見越して、前部長が俺とハウウェルを副部長に推したと思うのですが」


 レザンが言う。


「ええ、わたしもそう思います。女のわたしが上に立つことを良くは思わない方もいるだろうことは、予測していましたので。一応、反発されたとしても自分でどうにかするつもりだったのですよ? まさか、ネイサン様が出て来るとは思っていなかったので」


 クスリといたずらっぽく笑うケイトさん。


「ふふっ、もしかしてケイトさんの活躍の場を奪ってしまいましたか?」

「いいえ、庇って頂いて……嬉しかったですよ。ありがとうございます、ネイサン様」


 ふわりとした柔らかい笑顔は……リヒャルト君といるときにはよく見る顔ですが、学園ここにいるときは見たことがない顔です。学園では、いつもキリッとした表情をしているので、気を張っているのでしょう。


「いえいえ、お役に立てたのならよかったです」


 ケイトさんがもっと、学園でも柔らかい表情ができるように、わたしも頑張ろう!


「……お二人は、仲が宜しいのですね」


 と、そこへ不服そうな声が割り込んだ。


「ええ。ケイトさんとは家族になるのですから、仲良くするのは当然だと思いますが?」


 そう返すと、


「っ!? ……け、ケイト様を幸せにしないと絶対許しませんからねっ!?」


 顔を上げた彼女に、キッと睨み付けられた。


「……それを、なんでわたしに言うんでしょうか?」


 思わず溜め息を吐いてしまうと、


「はあっ!? ケイト様の婚約者のクセになにを言うんですかハウウェル様っ!!」


 怒った顔で怒鳴られた。


「あ、そういう誤解もあるのか・・・」

「誤解っ? なにが誤解だって言うんですっ!? そんな仲良さそうにしておいて、ケイト様を幸せにしないなんて言うつもりですかっ!?」

「確かに、ケイトさんはハウウェル家と婚約を結びました。けど、ケイトさんの婚約者はわたしではなくて、わたしの兄の方ですよ」

「え?」


 きょとんと瞬く後輩女子。


「ええ。わたしの婚約者は、こちらのネイサン・ハウウェル様ではなくて、その兄君の、セディック・ハウウェル様ですよ」

「ええっ!? だ、だって交流会でケイト様は、ハウウェル様にエスコートされてたじゃないですか。だから、てっきり……」


 ケイトさんの言葉に、段々と小さくなって行く声。


「……この様子だと、他の学年にはまだ勘違いしている方がいそうですね」

「そうみたいですね」


 やれやれと、少し困ったようなケイトさんと顔を見合わせる。


「ちなみにですが、わたしの兄は去年……じゃなくて、二年前にこの学園を卒業しているので、あなた方とは顔を合わせる機会はないと思いますよ? そういうワケでわたしは、兄の代理としてケイトさんとパートナーを組んでいるんです」


 実際は……ケイトさんがセディーと婚約する前から、「婚約者がいてもいいんです! 思い出をください!」的な発言をして、肉食獣の如くギラギラした目で追い掛けて来るような女子生徒達がコワいので、そういう女性避けにケイトさんにお願いをして、パートナーを組んでもらっているワケですよ。最初はケイトさんからの提案でしたけどね?


 まぁ、そんな内実は言わないけど。


「ぇっと、その・・・勘違いをしてしまい、申し訳ありませんでした」


 と、殊勝な様子で頭を下げる彼女。


「別にいいですよ。縁故だなんだとは、どうせ誰かが言い出すことだと思っていましたからね」

「うむ」


 と、頷くレザン。そして、ふと思い出した。


「あ、そうだ。あなた、勝負に参加しますか?」

「え?」

「最初にわたしに勝負を申し込んで来たのはあなたでしょう? 女性に耐久レースは少々厳しいかもしれませんから、もし参加するのでしたら、お友達と複数名の交代で出てもいいですよ? そうでなければ、あの先輩と決着をつけた後になりますが、後日。日を空けて、なんらかの勝負をしますか? 短距離レースでも、障害物競走やロデオ、アスレチックの方でも、なんでもいいですよ? ハンデが必要なら差し上げますし。申し込むというのであれば、受けて立ちます」


 にこりと微笑むと、


「ちょっ、ハウウェル、言い方! 相手年下の女の子だからな! つか、お前年下の女の子とガチ勝負する気かよっ!?」


 テッドが慌てたように割り込む。


「え? だって、勝負をしたいと言ったのは向こうの方だし。それに、ガチの対決ではないよ? 必要ならハンデもあげるつもりだから。むしろ、勝負を断る方が彼女に失礼なんじゃないかな? どう思います?」


 テッドに応え、最後に彼女の方を向いて尋ねる。


「え?」

「ああ、ハンデ付きの勝負で仮令たとえわたしが負けたとしても、結果に異を唱えたり、再戦を、なんて言うような野暮な真似はしませんので、その辺りは安心してくださいね?」

「うむ。真剣勝負の結果だからな」

「一応、わたしが負けると副部長の座が一つ空くことになるけど……う~ん、レザン一人に任せるのはかなり心配だから……テッド、副部長になる?」

「はあっ!? ここで俺に振るのかよっ!?」

「別に正式にじゃなくて、暫定でもいいよ? 新しい副部長が決まるまで、レザンの補佐的な感じでフォローしてくれればいいから」

「待てハウウェル! 俺にコイツの暴走を止められるワケねぇだろっ!? どんだけ俺のこと過信してんだよっ!?」


 ぐわっとテッドに詰め寄られる。


「頼むハウウェル! 副部長を続けてくれっ!?」

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