副部長になったんだ。おめでとう。


 寮に入って、授業の準備をしたりアホ共とだらだら過ごしたりして――――


 今日は入学式。新入生が入って来る。


 在校生は式には参加しないで、後日新入生の歓迎会がある。そのときに、一年生達と交流をする。


 とは言え、実は既に入寮している新入生はちらほらいたりもする。


 中等部から持ち上がりの生徒なんかは、高等部の寮への移動で大変だったりするみたいだけど。高等部からの新入生よりも大分落ち着いている印象かな? 中には、家に帰らないで直接高等部の寮に入った生徒もいるらしい。まぁ、あまり人に言えないけど……事情は人それぞれだよねぇ。


 そして、「新入生に先輩と言われた」と嬉しそうに話している人がいて、そう言えば二年に上がると先輩になるんだなぁと実感した。


「あ~、明日から授業か~」

「……ハウウェルの家まで押し掛けて、わざわざセディック様とライアン先輩に勉強を教えてもらったんだ。あまり成績を下げるなよ」

「うむ。なるべくは頑張ろう」

「多分なー。つか、俺らも先輩かー。な、な、一年に可愛い女の子いるかな? 乗馬クラブ入って来るかな?」


 ワクワクと期待に満ちた顔のテッド。


「どうだろうな。来る者は拒まないぞ」

「お、そう言や、副部長は今度、部長になるんだよな。で、お前らが副部長になるんだってなー。出世したもんだぜ。がんばれよ」

「うむ。前部長に頼まれてしまってな」

「へぇ、副部長になったんだ。おめでとう。がんばってね、レザン」


 どうやら、今度からレザンは乗馬クラブの副部長になるらしい。


 ま、騎士学校で実技は不動の首席だったことだし。コイツ、乗馬の腕は学園でもトップクラス……というか、コイツより上手い人いるか? というレベルだからなぁ。


 なんて思っていたら、


「うん? なにを他人事ひとごとのように言っているんだ、ハウウェル」


 レザンに怪訝な顔をされた。


「? なにが?」

「は? なにがって、ハウウェルも今度から副部長だろ。レザンが言ってたぜ」

「は? え? ・・・誰が、副部長?」

「え? ハウウェルとレザンが、二人で今度の乗馬クラブ副部長」

「はあっ!? なにそれ聞いてないっ!? 初耳なんだけどっ!?」


 驚くわたしに、


「うん? 言っていなかったか?」


 きょとんと首を傾げるレザン。


「聞いてないからっ!?」

「ふむ。そうだったか? 前部長に副部長を打診されたときに、セルビア副部長がこの学園で女性初の乗馬クラブ部長になるので、なにかと苦労するだろうから支えてやってほしい、と言われてな。ハウウェルも、身内になる者が支えてくれるのであれば心強いだろうから選んだのだと言っていたぞ」

「え~? ハウウェル、そこまで言われて副部長……じゃなかった、部長のこと助けてやんねーの? おねーさんになるってのに冷てー奴だな」

「いや、ケイトさんを支えることに自体に異存はないけど、その辺りの事情がわたしに全く伝わってないんだけどっ!?」

「ふむ・・・どうやら、伝えるのを忘れていたらしい。すまんな」

「お前な、全く・・・」


 溜め息を吐いて首を振る。


 と、寝耳に水な状況ではあるけど、わたしの副部長就任は決定していたらしい。まぁ、ケイトさんの役に立てるなら、異論は……あんまり無いけどね。


 どうせなら、もっと早く教えてもらいたかったよ。心構えとか、全くしてないんだけど・・・


「……それにしても、なぜ乗馬クラブの前部長は、ハウウェルに直接伝えなかったんだ?」

「そうだよね。なんでだろ? わたし、部長とあんまり話したことないんだけど」


 首を傾げるリールに頷くと、


「ああ、それは・・・あれだ。なんと、実は前部長も『ケイト様を見守る会』の会員だったそうでな。セルビア副部長とハウウェルと話すのを想像するだけで、緊張して動悸と息切れが激しくなるとのことで、俺に伝言を頼んだのだと言っていた。ちなみに、普段セルビア副部長とは、もう一人の前副部長を間に入れてやり取りをしていたそうだ」


 歯切れ悪く語るレザン。


「嘘だろ・・・」


 乗馬クラブの部長とはあんまり接する機会が無くて、ちょっと避けられているのかな? とか、嫌われてたりするのかな? なんて思っていたのに・・・まさかの、ある意味ケイトさんのファンの人達のお仲間だったとはっ!!


 というか、動機と息切れって・・・ちょっとヤバくない? あ、だからあんまり接して来なかったのか。と、なんか納得してしまった。


「マジかっ!? こんな身近に例のヘンタイさんが隠れていたとは!」

「? 例の変態? なんの話だ?」

「ああ、リールはあのときいなかったもんなー。なんつーの? セルビア副部長がさ、めっちゃカッコイイ人じゃん」

「ああ。そうだな」


 首を傾げながらも頷くリール。


「で、そんな副部長に罵倒されたいとか、シバかれたいってちょ~っとアレな趣味のヘンタイさん達の集まりが、『ケイト様を見守る会』なワケよ」

「は?」

「うむ。以前、交流会でセルビア副部長が良からぬ輩に絡まれたことがあっただろう? どうもそのとき、セルビア副部長と並んでいたハウウェルのファンになった方々もいたらしくてな」

「マジかよっ!? ハハハハハっ!? よかったな、ハウウェル!」

「ウルサいよっ!」


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