それは親が子供に言っちゃ、絶対駄目なやつだ!


「けど、って、まだなんかあるのかよ?」


 テッドがドン引きした顔でわたしを見ている。


「本当はわたし、今通っている学園に中等部から入る予定だったんだよね。でも、両親がお祖父様に無断でわたしを騎士学校に入れる手続きをしていて、学園に向かうつもりで馬車に乗ったら、不意打ちで騎士学校に置いて行かれた」


 しかも、入ったところは割とガチな軍関係者だとか、やらかした貴族子弟、そうじゃなかったらワケありな人ばかりという、なんとも言えない騎士学校で・・・


「ヤだ! リアル家族の確執!」

「ま、そういうワケで、お祖父様もおばあ様も、セディーも、両親にはまだ怒ってるんだよねぇ」

「……その口振りだと、ハウウェルは怒っていないように聞こえるが? 許しているのか?」


 不思議そうな顔をするリール。


「う~ん……怒ってないっていうか、どっちかというと、わたしはもう両親に関わりたくない、かな? 許すもなにも、あの人達は自分達が悪いことをしたとは未だに思っていないみたいだし。謝られてすらいないからね」

「そうか……」

「ま、そういうワケだから、うちで両親の話題は厳禁。わかった?」

「ぁ~、まぁ・・・茶化しといてなんだけどさ? ハウウェル」


 テッドが言い難そうに口を開いた。


「なに?」

「これ、俺らに話していいこと?」

「この話、知ってる人は知ってるから。なにがあったかをつまびらかに知っているかまではわからないけどね。でも、両親のアレさ加減は、二十年程前から高位貴族の間では割と有名な話みたいだし。そのせいで、こないだまでセディーの婚約者が決まらなかったんだから」


 前に、わたしにやたら絡んで来た先輩共(顔は覚えてない上、転校して学園から消えた)も、わたしが両親に疎まれていると言っていたことだし。確か、彼らはあの人の友人関係の子弟だったとか・・・ホンっト、あの人ろくな交遊関係を持っていないよなぁ。


「そんな事情があったとは・・・おにーさん、副部長と婚約できて本当によかったな!」

「うん」


 うちの事情を聞いても動じたり怯んだりしないで、セディーの婚約申し込みを受けてくれたケイトさんには、本当に感謝です。一応、父をすっ飛ばしてセディーが侯爵を継ぐ予定だから、両親との付き合いとはまた別の、侯爵夫人としての苦労があるとは思いますが・・・応援しています!!


「まぁ、でも、ハウウェルがじーちゃんばーちゃんに大事にされてるようで安心したわ。じーちゃんばーちゃんとまで折り合いが悪かったら悲惨だろ? おにーさんにはめっちゃ可愛がられてるしさ」

「あはは、みんなに可愛がられてなかったらわたし、生きてないかも」


 安心したようなテッドに軽口を返すと、


「……ここは笑うところじゃないと思うぞ。そもそもの話なんだが、なんでハウウェルの両親は、そんなにハウウェルにキツく当たるんだ? 前に、赤ん坊の頃に家を追い出されたと言っていただろ?」


 リールが顔をしかめながら聞いた。


「ぁ~……それは多分、見ての通り。わたしがおばあ様にそっくりだから? 母とおばあ様って、あの人が嫁いで来た頃から仲が良くなかったみたいで。小さい頃は、セディーがあんまり身体丈夫じゃなかったっていうのもあるんだけど……あ、今は普通に元気だからね? まぁ、あの人はずっと……セディーが可哀想だって、わたしがセディーの分の元気を吸い取って生まれたからだとかなんとか言ってたし」


 泣いているか喚いているか、わたしを邪険にする態度か・・・そういうところしか、あの人のことは覚えてないかも。


 昔は、あの人の言葉や態度にすっごく悲しくなって、泣いたり落ち込んだりしていたんだけど……いつの間にか、うんざりするようになって、段々とあの人の言動になにも思わなくなって行ったんだよね。


 クロシェン家で、スピカとロイの母上であるミモザさんを見て……彼女が、ロイとスピカ同様にわたしを可愛がってくれて、誉めてくれて、本気で心配してくれて、本気で叱ってくれて、そういう風にわたしに接してくれて、これが、ミモザさんみたいな人が母親なんだと、そう思った。


 そして今では、あの人には余計なことや要らんことはしないでほしいと思うくらいかな。


 わたしも図太くなったものだ。


 ちなみに、あの人のことはあまり知らない。あの人とは、昔に殴られて以来、特に話したこともないし。


 だから、わたしの中で親と言って最初に思い浮かぶのは、ミモザさんとトルナードさんだ。


 両親あの人達は、単に血が繋がっているだけの人で、わたしの中では、親という存在ではない。


 一番身近な保護者は、お祖父様とおばあ様だけど。


「それ普通に言い掛かりだかんな! おにーさんとハウウェルが幾つ離れてると思ってんだよ? 双子とかなら、まだその言い掛かりもわからなくはねーけどさ? あ、いや、たとえ双子の片方が病弱だったとしても、どんなにしんどい思いしても、それは親が子供に言っちゃ、絶対駄目なやつだ!」


 珍しく、真剣に怒った様子のテッドに驚く。


「・・・」

「ん? どしたよ? 感動でもしたか? 泣いてもいいんだぜ? なんだったら、俺が胸を貸してやるぞハウウェル」


 さあ、と広げられた両腕に首を振る。


「いや、それは別に要らない。なんか、テッドが珍しくまともな理由で怒ってるなぁって思って」

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