テッドに窘められたっ!?


「そうなんですか? おにーさんさえよろしければ、セルビア様との出逢った経緯を是非!」

「え?」

「わたしも聞きたいわ」


 さすが商売をしている家の子と言ったところか、テッドは話を転がすのが上手い。そして、おばあ様がさっきからすっごく楽しそうです。


「え~と……ケイトさんと逢ったきっかけは……その、丁度テスト期間で人のいないがらんとした馬場で、ネイトに会いたいなぁって呟いたとき、偶々それを聞いていたケイトさんが、自分が呼ばれたのだと勘違いをして、僕に話し掛けたってところかな?」


 ちょっとだけ話し難そうに。けれど、苦笑しながら話してくれた。


「それでケイトさんが名乗って、僕がリヒャルト君の誕生をお祝いしたことで、ケイトさんが弟さんのことを大事に思っていることがわかって、意気投合したんだよねぇ」


 「……出逢い からして ブラコンの 意気投合 だった とは……」


 テッドが驚いた顔で小さくなにかを呟いた。


「あの頃は、リヒャルト君が生まれたことでケイトさんの周りが色々と騒いで、結構大変だったみたいなんだよね。僕のなにげない祝福に、嬉しくなっちゃうくらいには」

「ケイトさんは、女性ながらに次期伯爵として育てられていたそうですものねぇ。そう、そういう経緯があったのねぇ」

「まぁ、リヒャルト君のこともありますけど。それ以前にも、ケイトさんはとても目立っていましたからね」

「そうなの?」


 ぱちぱちと瞬くおばあ様に頷くセディー。


「ええ。彼女、レザン君の言う通り、乗馬の腕前がそこらの男顔負けですから。入学当初から乗馬クラブに入部するなり、暴走した馬を宥めて、乗っていた男子生徒を助けたそうなんです。でも、その男子が馬鹿で、あろうことか『女のクセに出しゃばるな』だとか言って、一悶着あったみたいなんですよね。その後にも、彼女が気に食わなくて難癖付けるような男子が多かったみたいです」

「そうなの。ケイトさんも随分と苦労しているのねぇ。それにしても、セディー」


 ケイトさん。本当に、大変だったんですね。ケイトさんに助けられたとき、お礼を言ったら驚かれたのはそういうことでしたか。助けられたクセにお礼も言えないような馬鹿共め・・・


 ケイトさんの当時の様子を思ったのか、おばあ様が悲しそうな顔をして溜め息を吐きました。そして、セディーに向き直ります。


「なんです? おばあ様」

「あなた、そんな苦労している女の子がいることを知っていて助けてあげなかったの?」

「無理を言わないでくださいよ。その頃はまだ、ケイトさんと知り合ってもいなかったんですから。それに、彼女と僕とでは学年も違いますし」

「そう言えば、そうだったわね。ケイトさんって、あなたと話すときも落ち着いているから、あんまり年下に見えないのよねぇ」

「学年的には、僕の二つ下ですよ」


 まぁ、ケイトさんはわたしの一つ上なんだから当然なんだけど。あと、おばあ様はまだ、リヒャルト君について話すときのケイトさんを見たことがないらしい。


 ケイトさんは普段の凛とした態度と落ち着きが嘘のように、リヒャルト君についてテンション高く、迸る愛情を語るんですけどねぇ。あれはあれで、ケイトさんの一面ですし・・・こう言ってはなんですが、ケイトさんも年頃の女の子なんだと感じるんですよね。まぁ、セディーと『弟自慢』をし合うのは、是非ともわたしのいないところでやってほしいですけど。


 と、わたしの話ではなく、ケイトさんのことばかりを話して――――


「そう言えばおにーさん。セルビア様からなに貰ったんですか?」


 ふと、テッドがセディーに聞いた。


「ああ、これ?」


 さっきテッドが渡した小包を取り出すセディー。すると、


「まあ、ケイトさんからの頂いた物があるの! よかったわねぇ、セディー。なにを頂いたのかしら? 開けてみてちょうだい」


 おばあ様がワクワクした顔で、とっても嬉しそうです。なんだか、贈り物を開けているセディーよりも嬉しそうに見えるのは気のせいでしょうか?


「ネクタイピンですね。この間のお礼だと書いてあります」

「こないだって、副部長……じゃなくって、セルビア様となにかあったんですか?」


 これまたワクワク顔のテッドが聞く。


「この間は、ケイトさんと買い物に行ったんだよね」

「おおっ!? デートですかっ!?」

「デートっていうか・・・」


 ちらりとわたしの方を見るセディーに、首を振る。スピカのプレゼント選びに付き合ってもらっただなんて、このアホ共には知られたくない。なんかめっちゃ恥ずかしいし!


「ネイトと、リヒャルト君も一緒に行ってすっごく楽しかったよ?」


 にこにこと微笑むセディー。すると……


 「あのな、 ハウウェル。 こんなこと あんま 言いたかねー けどさ?  お前さ、 幾らブラコン だからって、 あんまり おにーさん のデート 邪魔する なよなー」


 テッドに窘められたっ!? しかも、仕方ない奴だなって顔をされたしっ!?


「・・・」


 でも、こればかりはなにも言い返せないなぁ。


 というか、わたしだって偶に邪魔なんじゃないかな? って、自分でも思うことがあるし。でもでも、セディーもケイトさんもわたしのことを邪魔だなんて一言も言わないし。むしろ、わたしとリヒャルト君に慈愛の眼差しが注がれるんだよ? それに、『リヒャルトが呼んでいるので遊びに来てください』って呼ばれるんだよ?


 セディーとケイトさんの邪魔をしないように・・・というのは、本人達に大歓迎されているような場合、どうしたらいいのかな?


 今のは・・・小声だったからセディーには多分聞こえてない、よね?


「どうかした? ネイト」

「ううん、なんでもないよ」

「あ、そう言えばおにーさんってめっちゃ頭いいんですよね?」

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