ああもうっ、さっさと帰らせよう!


 この野郎共っ……


 ああもうっ、さっさと帰らせよう!


 先導するおばあ様とセディーの後ろからぞろぞろ付いて歩くアホ共に、小さい声で訊く。


「……どうやってここまで来た?」

「ふっ、うちは商売をしてるからな。ハウウェル様へのお届け物の為、住所を知りたいっつったら一発だったぜ」

「職権乱用じゃないか」


 なんてことだ。


「やー、実はそうでもなかったり?」

「?」

「ほい、これ。おにーさん宛の荷物。うちの店でのお買い上げ。毎度ありー」


 と、テッドが取り出したのは、確かに『セディック・ハウウェル様へ』との宛名が書かれていた。差出人は、『ケイト・セルビア』となっている。


「副部長からのプレゼントっぽい。いやぁ、仲がいいみたいでよかったよかった。んじゃ、おにーさんに渡して来るわ」

「絶対、セディーに余計なことは言わないでよ」


 そう睨むと、


「わかってるわかってる。おにーさーん」


 気にした素振りも見せずにひらりと手を振って、セディーの方へ歩いて行くテッド。


「それで、君達は?」


 そして、レザンとリールの方を見やる。


「うん? 早目に学園寮に入っていたところ、後からやって来たテッドに、ハウウェルの家に行かないかと誘われてな。暇だったから誘いに乗った」

「……同じく」

「そうか、奴が元凶か……」


 思わず低い呟きが洩れると、


「……顔が怖いぞ、ハウウェル」


 ぼそりと返された。そりゃあ、顔くらい怖くもなるだろう。


 こちとら、おばあ様とセディーになにを言われるかわかったもんじゃないと戦々恐々ものだよ!


 学園で喧嘩を買ったこととか、変な輩に絡まれたこととか、偶にレザンと木剣で打ち合いをしているだとか……そういう物騒な話は、うちでは全部内緒にしてるんだから。


「一応言っとくけど、おばあ様とセディーに余計なことは言わないでよ? 特にレザン」

「うむ。留意する」

「そして、さっさと帰れ」


 なんて言っているうちに、とうとう応接室に着いてしまった。


 テーブルの上には、バッチリと人数分のお茶の用意が整えられている。うちの使用人は仕事が早いな。もっとゆっくりでも……いや。むしろ、準備しなくてもいいのになぁ。


 そして――――


「では、改めまして。ようこそ、皆さん。わたしはセディーとネイトの祖母の、ネヴィラ・ハウウェルです」

「初めまして、ネヴィラ様。本日は急な来訪にもかかわらず、快くお招き頂き、ありがとうございます。俺は騎士学校時代からハウウェルとは同期の、レザン・クロフトです。そして、こちらは学園の高等部に入学してから知り合ったテッド・メルンとリール・グレイです。彼ら共々、ハウウェルには大変お世話になっています」


 「ぉぉー、 レザンが なんか まともな 挨拶 してる……」


 と、小さく驚きの声を洩らすテッド。リールも同じく驚いた顔をしている。


 まぁ、わたしもちょっとびっくりしたけど。普段はそんなこと全く感じさせない脳筋だとは言え、一応これでもレザンは伯爵子息……の、三男だ。挨拶くらいはできて当然だよね? うん。ちょ~っと驚いたけど。


「あらあら、やっぱりお友達なんじゃない。もう、ネイトったら照れちゃって。ごめんなさいね? ネイトのお友達が遊びに来るのなんて初めてのことだから、わたしも嬉しくなっちゃって」


 おばあ様が嬉しそうに言うと、テッドから若干気の毒そうな視線が・・・


 だって、仕方ないじゃないか。ここはお祖父様とおばあ様の家だし。それにあの人がいるのに、実家に友人なんか呼べるワケがない。


 まぁ、クロシェン家に滞在したり、騎士学校に入れられたりと、うちにいる時間自体も少なかったりもするけど。


「ふふっ、僕も嬉しいな。学園でのネイトはどんな様子なのか教えてくれる?」


 にこにことセディーが微笑む。


 初っ端からなんてことを聞くんだっ!?


 余計なことは話すな!! という思いを籠めて、アホ共を睨み付ける。と、


「いやぁ~、実は俺とレザンはクラス同じなんですけど、ハウウェルとはクラスが違うんであんまり詳しい様子はちょっとわからないですね。ちなみに、リールも上位クラスなんで」


 へらりとかわすテッド。まぁ、確かにクラスは違うけど、なんだかんだ割と一緒にいたりするんだよね。コイツらとは。


「そうなんだ」


 ちょっと残念そうな顔をするセディー。


「それじゃあ、君達はどうやって知り合ったの?」


 続けての質問にも、ヒヤヒヤさせられる。


 わたしがテッドと仲良くなったのは、わたしがカツアゲ先輩共に絡まれたとき、テッドがレザンを寄越してくれたことがきっかけだ。


 そのときテッドは現場にいなかったけど、後日レザンを呼んだのは自分だと教えてくれて、そのお礼を言ったことで友人になった。レザンと同じクラス、そして乗馬クラブ所属ということもあり、その後はなんだかんだと一緒に過ごすことが多い。


「あ、俺も乗馬クラブなんで。ハウウェルとレザンって、乗馬かなり上手いんで、クラブでも結構目立つんですよ。というか、レザンがアホなんで、乗馬クラブに体験しに行ったときなんか、トラックに女の子とかがのんびり馬を走らせてるとこに、気性の荒い馬で突っ込んでいきなり爆走! みんな度肝抜かれてる中、副部長……あ、セルビア様のことです。が、颯爽と追走して、『そこの爆走男子、止まりなさいっ!?』って大声でレザンを止めたんですよ。そしてその後、連行されて行ってめっちゃ怒られてて。しかも、体験入部で一緒にいたハウウェルまで、セルビア様に説教食らってました。そのときは、やべぇ奴がいる! って俺は見てただけなんですけどねー」


 テッドはケラケラと笑いながら、レザンのやらかしと、巻き添えでわたしまでケイトさんに叱られた話をする。というか、あの場にいたんだ、テッド。全然知らなかったよ。


「いやぁ、あのときのセルビア様、めっちゃかっこよかったですよー」

「うむ。あそこまで馬に乗れる女性はそうそういないでしょう」


 自分のやらかしを面白おかしく語られているというのに、その辺りは特になんとも思わないのか、ケイトさんを誉めるレザン。


「あら、ケイトさんは凄いのねぇ。そう言えば、セディーもケイトさんと出逢ったのは乗馬クラブでだと言ってなかったかしら?」

「そうなんですか? おにーさんさえよろしければ、セルビア様との出逢った経緯を是非!」

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