来ちゃった♪


 そろそろ学園に向かう準備をしなくてはなぁと、荷造りをしていたときだった。


 なにやら、外の方が騒がしいことに気付いた。


 門の方で、バタバタとしている気配がする。


 もしかして、またあの人が来たのだろうか? と、思っていると、


「ネイト、いる?」


 セディーが部屋に来た。


「うん。なぁに?」

「ちょっと来てご覧。面白いものが見られるから」


 クスクスと楽しげに手招きしてわたしを呼ぶセディー。ライアンさんも、なぜか笑いを堪えているような顔をしている。


「?」


 二人が笑っていることを不思議に思う。


 あの人が来ていたときにはセディーはかなり怒っていて、ライアンさんは困ったような顔をしていた。


 そして、わたしに知らせるつもりはなさそうで・・・現に、今もまだあの人がこのうちに来たことは誰もわたしに話していないし。


 よくわからないながらも、セディーに付いて玄関に向かう。そのまま外に出ると、


「ふふっ、来たのねネイト、ほら、あれ」


 なぜか楽しげなおばあ様が先にいて、白い指がすっと門の方を指差した。


「………………っ!?」


 なにを言っているのかはわからないけど、門の外で誰かが騒いでいた。その声は高くないから多分、騒いでいるのは男。


 まぁ、明確にあの人ではないな。おばあ様も使用人達もみんな、笑っているし。でも……


「なんですか? あれ」


 門の前で騒いでいる人をなんで放置しているんだろう? と、不思議に思っていると、


「…………ル…………! ……ーぼっ!」


 その男が大きな声で両手を振っていることに気付い、てっ!?


「はあっ!?」


 思わず声を上げてダッシュで門まで駆け寄ると、


「ハウウェールくーん! あーそーぼっ!」


 なんて大きな声ですっごく間抜けなことを言いながら両手を振っていた男が、


「おー、やーっと出て来たかハウウェルーっ!?」


 わたしに気付いて破顔した。


「人のうちの門でなにしてんの君っ!?」

「あ? 来てみたはいいものの、ハウウェルがなかなか出て来ねぇから、ハウウェルさん家でハウウェルって呼んでてもダメなら、そろそろネイサンくーん、あーそーぼっ! に切り替えるべきか悩んでたとこ?」


 だとか、すっと惚けたことを抜かしやがるテッド。


「そんなこと聞いてるんじゃないっ!? なんで君がここいるっ!?」

「来ちゃった♪」


 と、嬉しそうな顔ではにかむテッド。男がそんな顔したって全く可愛くない。というか、いつもみたいにフザケてんのかコイツ? と、イラッとする。


「だからっ、なんでっ!?」

「えー、言ったじゃんよー? 休みになにするか聞かれたとき、遊びに行ったりするってさ」


 確かに・・・「あー、俺は……一旦うち帰って、家の手伝いとかその他諸々な感じ?」と言って、レザンに家業の手伝いを頑張れと言われた後、「おう、ついでに遊びに行ったりとかなー? っつーことで。じゃーな、また近いうち会おうぜ!」だとか言っていたけどっ!!


「わたしのうちにとは聞いてないっ!?」

「ふっ、断られそうだから事後承諾を狙ってみた!」


 ドヤ顔で言い切られたっ!!


「つか、来てんの俺だけじゃねーし。ほれ」

「へ?」


 くいっと親指で背後を指すテッド。その後ろにいたのは・・・


「遊びに来たぞ、ハウウェル!」

「……一応、あの呼び掛けは恥ずかしいから、止めたんだがな」


 やたら爽やかに笑うレザンと、テッドが止まらなかったと、居心地の悪そうなリールがいた。


「守衛さんもOKしたし、誰も止めなかったからいいじゃねーかよ」


 なぜに誰も止めなかったんだ? いや、玄関に向かうまでに、みんなにこにこしているのを不思議に思ってたけど。


「……なにしに来た、お前ら」


 思わず低い声が出ると、


「だから、遊びになんだって。つか、今度遊び行くって予告しただろー」


 不満げな顔をされた。


「今日だとは聞いてない。とっとと帰れ」

「そんな、ヒドいわっ。わざわざ学園寮から三人で来たのに追い返すって言うのっ!?」

「そんな小芝居は要らん。帰れ? というか、どうやってうちの場所を調べた?」


 アホな押し問答をしていると、


「ふふっ、ネイトったらもう。お友達がわざわざ来てくれたというのに、早々に追い返すこともないでしょう?」


 クスクスと背後から嬉しそうな声がした。


「っ! もしかして、ハウウェルのお母様でしょうか? はじめまして。学園では、ハウウェルにとてもお世話になっています。テッド・メルンです」


 パッと態度を改め、なぜかキリッとした顔でおばあ様へ挨拶をするテッド。というか、お母様?


「あらあら、お上手だこと。わたしみたいなおばあちゃん相手に、嬉しいお世辞を言ってくれるのねぇ」


 わ、おばあ様が嬉しそうです。


「へ? おばあ、ちゃん? ええっ!? お母さんじゃなくて、本っ当にハウウェルのおばあちゃんなんですかっ!? 若っ!? っつーか、ハウウェルにそっくり過ぎな美人さんなんですけどっ!?」


 あ、素で驚いてる。


「まあ、ありがとう。ところで、どうして門の前で大きな声を出していたのかしら?」

「それはですね、おばあ様。実は常々、デッカイ家に住んでいる友人をこうやって呼んでみたいと思っていたからです。男のロマンというやつですね!」


 キリっとした顔でアホなことをのたまうテッド。意味がわからん。


「ふふっ、わたしには全くわからないけど、なんだか面白い子ねぇ。いいわ、ちょっと上がってお茶でも飲んで行きなさいな」

「おばあ様!」

「あ、お茶の準備はもう頼んでおきましたよ」

「ちょっ、セディーまでっ!?」

「それじゃあ、お邪魔しまーす。あ、これお菓子です。よろしければどうぞ」


 と、手土産を差し出したアホ共を家の中に入れることになってしまった。


 この野郎共っ……

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