年頃の女の子、なんだよね。
「ごきぶんでもよくないですか?」
ちょっと心配そうな顔をさせてしまった。
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、あまり余所のお家の馬車には乗り慣れないので、少し緊張しているのかもしれません」
「もしかして、ネイサン様は車酔いをされるのでしょうか? ゆっくり走らせた方がいいですか?」
と、ケイトさんが御者に声を掛けようとしたのを慌てて止める。
「いえ、車酔いとかはよっぽどの悪路じゃない限りは大丈夫ですので。ね、セディー」
「ご心配ありがとうございます、ケイトさん。でもネイトは、特に車酔いし易い体質ではないので大丈夫ですよ」
にっこりと微笑んだセディーが、
小さく囁いてそっとわたしの手を握った。
小さく囁き返す。
「そうですか。でも、気分が優れないのでしたら遠慮せずに仰ってくださいね?」
「はい。ありがとうございます」
「だいじょうぶ、ですか?」
「ええ。リヒャルト君も、心配してくれてありがとうございます」
「……では、ネイサン様に少々お聞きしても宜しいでしょうか?」
と、思案するように口を開くケイトさん。
「はい。なんでしょうか?」
「ネイサン様の婚約者様は、どのような方なのでしょうか? プレゼントを選ぶと言っても、お相手の方の好みもあるでしょうから」
「ネイトにいさまのこんやくしゃさんのおなまえは、なんというのですか?」
ちょっと気恥ずかしいですが、スピカへの贈り物選びを手伝ってほしいとお願いしたのはわたしの方だ。
「えっと、ですね・・・わたしの婚約者の名前は、スピカ・クロシェンと言って、おばあ様のご実家の方の親族で・・・」
と、言ったところではたと気が付いた。
両親に花畑に置き去りにされた
・・・だなんてこと、ある程度の噂話を知っていそうなケイトさんには
まぁ、あれだ。少し言葉を濁そう。うん。
「わたしが留学していたときに、滞在先でお世話になったお家の女の子です」
「りゅうがくって、なんですか?」
きょとんと首を傾げられた。
「留学というのは、自分の住んでいる国から離れて、別の国に色々なことを学びに行くことですね」
「ネイトにいさま、よそのくににいったことがあるんですかっ?」
両親がアレなことを誤魔化そうとしたら、なんだかすっごくきらきらとした瞳で見上げられたっ! あ、でもケイトさんには伝わってしまったみたいで、少し複雑そうな顔をされましたけど。
「ええ、おばあ様がお隣の国の出身なので」
「がいこくご、はなせますか?」
「外国語は、学校の授業で習った程度ですかねぇ。お隣の国も、言葉はこの国と基本的には同じ言葉ですからねぇ」
「? ちがうことばもあるんですか?」
「そうですね。細かいイントネーションや言い回し、ニュアンスが違っていたり、方言なんかがこの国とは少し違ったりしますね。わたしが住んでいた地域とはまた別の地域だったら、この国とは別の国の言葉が使われていたと思うんですけど。残念ながら、その辺りには行ったことがないので」
わたしは基本的に、クロシェン領で過ごしていたからなぁ。そして、外国語の成績はそこそこ悪くないという感じだ。帰国子女だからと過剰に期待されても、この国と大体同じ言語を使っていたんだから残念そうな顔をされても困るんですよねぇ。
「すごいんですね~!」
「わたしは特に凄くはないんですけどね? でも、ありがとうございます」
「ネイサン様。それで、スピカ様はどのような女の子なのでしょうか?」
「はっ! そうです、かわいいおねえさまのおはなしでした!」
「ふふっ……ええ、スピカは可愛い子ですよ」
と、街に着くまでスピカのことを話した。
スピカにはロイという、わたしと同い年の兄がいて、いつもわたしとロイの後ろに付いて歩いていたこと。スピカを乗せてあちこちに遊びに行ったこと。スピカがポニーに乗って乗馬を習っていたこと。この国の基準だと、お転婆だと言われてしまうだろうこと。スピカの好きな花。好きな色。好きなお菓子・・・などなど。
「ネイサン様は、本当にスピカ様のことを大切にされているんですね」
ケイトさんには、微笑ましいという顔で見られました。
「今までは、どんな贈り物をされたのですか?」
そう聞かれて、今までスピカへ贈った物を思い出しながら答えた。
それから、雑貨屋をあちこち見て回って、ケイトさんにアドバイスをもらいながらああでもないこうでもないと悩みながらプレゼントを決めた。
お菓子やぬいぐるみ、リボンなんかはよく贈っていたけど、ポプリやお茶、綺麗な食器、花の形でいい匂いのする石鹸や入浴剤、アクセサリーという発想は今まで無かったからなぁ。
そうだよねぇ。ずっと会えていないからあんまり実感が湧かないけど、スピカもそろそろ十二歳。いつまでも小さいままじゃないんだよねぇ・・・
年頃の女の子、なんだよね。
雑貨屋、それから流行りのお菓子を売っている店をケイトさんに教えてもらって見て回り、カフェでケーキを食べたり、日持ちのするお菓子をあれこれ買ってみた。
お菓子はお祖父様とおばあ様へのお土産と、実際に食べてみて味を比べて美味しかったものをクロシェン家へと送る予定だ。
お店でどのケーキを食べようか迷っているリヒャルト君に、
「それなら、みんなで別々のケーキを頼んでから半分こにしましょうか?」
セディーがそう言って、みんなで結構たくさんの種類のケーキを食べてしまった。
ケーキをこぼさないように一生懸命に食べているリヒャルト君と、その口元に付いたクリームを拭いてあげているケイトさんを見て、ケーキを頬張ってクリームをほっぺたに付けていたスピカを思い出した。わたしもよく、ああやって小さいスピカのお世話をしたんだよねぇ。懐かしい。
ケーキは美味しかったけど・・・思ったよりも食べ過ぎたかも。ちょっと、夕食が心配かな?
そして、そろそろ日も傾いて来たので帰ることにしました。
「ありがとうございました。とても参考になりました」
「どう致しまして。スピカ様にも気に入って頂けるといいのですが」
少し悩むような顔をするケイトさんに、
「今日は付き合って頂いてありがとうございました。宜しければ、どうぞ」
セディーがなにかを渡した。
「セディック様? これは……?」
「今日のお礼です」
「開けてみても?」
「はい。リヒャルト君にはこちらをどうぞ」
と、リヒャルト君にはライオンのぬいぐるみ。セディーってば、いつの間に!
「わぁ! ありがとうございますセディーにいさま!」
もふもふなライオンを抱き締めるリヒャルト君。そして、ケイトさんの包みの方は・・・
「バレッタ、ですか・・・」
普段使いのできそうな、シンプルなデザインの水色のバレッタです。
「ええ。ケイトさんはよく髪をまとめている印象なので・・・あ、その、デザインが気に入らないのでしたら、交換することもできるという話ですから」
ケイトさんの沈黙に、慌てたように付け加えられる言葉。
「いえ。嬉しいです。それにリヒャルトにまで、ありがとうございます。セディック様」
「いえいえ、今日一日お付き合いして頂いたお礼です」
リヒャルト君とケイトさんのお礼び、ほっとしたような笑顔で応えるセディー。
なんかいい雰囲気だなぁ。
と、たくさんのお土産を抱えてうちに帰った。
今日はすっごく女の子への贈り物への参考にもなったし、なによりとても楽しかった♪
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