おかいもの、なにをかうんですか?


 あの人が突撃して来たその日は、特になにも言われることなく過ごした。


 おばあ様もセディーもいつも通りで、あの人がこの家に来て喚いていたことなんかおくびにも出さなかった。


 まぁ、セディーにはやたら構われたけど。そして、その光景を見ていたライアンさんに仕方なさそうな表情をされてしまった。


 うん。ライアンさんがこの家で働くことになってから、気付いた。


 セディーに可愛がられている姿を、いつか見られることになるということは・・・


 なんというか、あれだよね。


 知ってる人にそういうところを見られるのは、ちょっと気まずいというか・・・恥ずかしいなっ!?


 そして、ケイトさんからの『是非ともご一緒させてください。予定を決めたいので、うちにお越しください。リヒャルトも待っています』という返事が届いたとのことで、ケイトさんとの買い物の予定を決めることになりました。


「セディーの予定は?」


 と聞いたら、


「いつでも空けられるようにするから大丈夫♪」


 とのこと。チラリとライアンさんを伺ったら、苦笑しつつも頷いていました。


 まぁ、秘書のライアンさんが頷いているんだから、大丈夫……なんだよね?


 ちょっと心配しながら翌日。


 セルビア伯爵家に行きました。


「ネイトにいさま、セディーにいさま!!」


 馬車を降りる前に、リヒャルト君の声がした。


「リヒャルト、危ないですよ」


 そして、リヒャルト君を窘める涼やかな声。


「ケイトねえさまもはやくはやく!」


 きゃっきゃと嬉しそうな声が響く。


「ふふっ、大歓迎みたいだね。早く降りようか」


 にこにこと笑うセディー。


「そうだね」


 そう言って馬車を降りると、


「まってましたよ!」


 はしゃいでいるリヒャルト君に飛び付かれた。


「リヒャルトっ、駄目でしょう!」

「っ!」

「すみません、ネイサン様。大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 ケイトさんに叱られて小さくなるリヒャルト君をひょいと抱き上げると、


「ふふっ、すっごく楽しみにしてくれたんですね?」


 セディーがリヒャルト君の顔を覗き込んで言った。


「……はい」

「僕達が来てリヒャルト君が嬉しいと思ってくれるのは嬉しいですよ? でも、まだ停まっていない馬車の近くに行くのは危ないですし、馬車から降りたばかりの人に飛び付くのも危ないですからね。リヒャルト君が怪我でもしたり、もし誰かに怪我をさせてしまったりしたら、僕もネイトも悲しくなってしまいます」

「……ごめんなさい、ネイトにいさま。セディーにいさまも」


 しょんぼりと謝るリヒャルト君。素直に謝れるいい子ですねぇ。


「はい。でも多分、僕達以上にケイトさんは悲しむと思いますよ?」

「っ! ……あぶないことしてごめんなさい、ケイトねえさま」

「はい。リヒャルトがわかってくれたなら、よかったです。セディック様、リヒャルトを諭してくれてありがとうございます」

「いえいえ。リヒャルト君は素直で可愛い子ですね」


 にこにこと微笑むセディーに、


「はい」


 嬉しそうに頷くケイトさん。


 これは……なんだかいい雰囲気な気がします。


 それから、セルビア家の中に入って、買い物の相談をしました。


「おかいもの、なにをかうんですか?」


 にこにこと聞いたリヒャルトに、サッと顔が熱くなるのがわかる。


「えっと、ですね・・・その、ケイトさんには、わたしの婚約者へのプレゼント選びを手伝って頂きたいのです。あの、あんまり女の子が喜ぶようなものが、わからなくて・・・お願い、できますか?」

「ええ、是非!」


 すっごくいい笑顔で頷かれました。


 「……ネイトが、 可愛過ぎる っ……」


 口元を押さえたセディーがなにかを呟く。


「? なにか言った? セディー」

「ううん、なんでもないよ? さて、ケイトさん。買い物はいつにします?」

「そうですね。わたしは今すぐにでも構いませんよ? リヒャルトも一緒に行きますか?」

「はい! ぼくもいきます!」

「え? 今、ですか?」

「では、わたしは出掛ける準備をして参りますので、少々失礼します。リヒャルトはお二人の相手をお願いしますね」

「はいっ、まかせてください」


 と、力強く頷くリヒャルト君に頷き返したケイトさんが席を外しました。


 こうしてとんとん拍子に話が進み、リヒャルト君も連れて四人で買い物に出掛けることになりました。しかも、今からっ!?


 そして、わたしとセディー。ケイトさんとリヒャルト君という組み合わせで隣同士の座席に座ってセルビア伯爵家の馬車に揺られています。


 見知らぬ馬車に乗るのはまだちょっと緊張するけど、うちの馬車はこの馬車よりも広くないのだから仕方がない。財布はちゃんと持ってるし、さすがに今日は帯剣してないけど、実はこっそりとナイフを隠し持っていたりする。


 不測の事態が起きても、ある程度はこれでなんとかなる筈だ。なんて考えていたら・・・


「ネイトにいさま、どうかしましたか?」


 リヒャルト君に顔を覗き込まれた。


「え?」

「ごきぶんでもよくないですか?」

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