勇者ってなんだ、勇者ってっ!?


 テストが終わり、採点されて返却されるまでは在校生は通常授業となります。


 けれど三年生にはもう授業が無く、自由登校になっているそうです。


 家に帰って卒業式まで学園に来ない人、または学園に残ってまったりと過ごす人、思い出作りに勤しむ人、在校生と交流を持つ人、社交に精を出す人などなど、それぞれが思い思いに最後の学生生活を満喫して――――まぁ、留年が決定してしまったご愁傷様な人なんかは、別の意味ではっちゃけている人もいて……なまあたたかい目で見られていたりしますが。


 それはさておき、近頃・・・


「ありがとう! 君達のお陰で無事卒業できるよ!」


 レザンと歩いていると、なぜか見知らぬ先輩からお礼を言われることがある。


「??」

「うん?」


 意味がわからなくてレザンと顔を見合わせている間に、お礼を言った先輩は去って行く。


「・・・君、なんかした? レザン」


 困っている先輩を助けたりだとか。


「いや、ハウウェルの方こそどうなんだ?」

「全く心当たりが無い。誰かと間違われていたりとか?」

「ふむ……そうなのかもしれんな」


 なんて話していると、


「え? なにお前ら、マジで心当たりねーの?」


 うわぁという顔でテッドが見ている。


「? テッド、なにか知ってるの?」

「わかってねぇな? 全く……あれは多分、アレだ。ほら、あっただろ? かつあげ先輩共を、お前らが退学にしてやった件。それのお礼だろ」

「え? なんで今更、そんな何ヶ月も前のことを」


 そんなこともあったけど、すっかり忘れていた。確か、帰省解禁の頃だから結構前のことになる。


「ばっかだなー。卒業したらもう、お前らにお礼言えるかわからねーからだろ」

「成る程。だから、今のうちに言っておこうということか」


 確かに。卒業したらもう、二度と会えないという人もいるかもしれない。


「そういうこと。お前らはさ、どういたしまして、って応えてやりゃいいんじゃねーの?」

「うむ。そうだな。テッドの言う通りだ。次からはそうすることにしよう」


 ちなみに、レザンと二人のときにお礼を言われることが多いのは、『女顔の綺麗な顔した男子と目付きの悪いデカい男子一年の二人組が、例の連中を退学に追い込んだ』という噂があるからだそうだ。


 ・・・別に、ムカついてないし。


 という風なことがあって――――


「ハウウェル様に、非常に大事なお話があるのですがよろしいでしょうか? 是非とも、わたし達の話を聞いて頂きたいのです」


 と、見知らぬ先輩に呼び出しをされました。


 先輩なのにわたしに様を付けて呼ぶとは、随分と腰の低い人のようですね。平民の生徒には見えないのですが・・・なんて考えていると、


「うむ。行くぞハウウェル」


 なぜかレザンが返事をして、先輩に付いて行くことになりました。


 そして・・・


 付いて行ったことを、激しく後悔したっ!?


/~/~/~/~/~/~/~


 腰の低い先輩に連れられてやって来たのは、とある空き教室でした。


 そこには先にもう一人の男子生徒がいて……どこかで見覚えがあるような気がして、でも思い出せないな? と考えていると、


「ようこそハウウェル様。お呼び立てしてしまい、申し訳ありません」


 にこやかに、これまた腰の低い態度で話し始める先輩。この先輩もまた、上品な雰囲気をまとっていて、平民生徒には見えない。


「いえ。その、それで大事な話とはなんでしょうか?」

「はい。実は・・・ケイト様へと求婚をし、見事その婚約者の座を射止めた勇者であるセディック・ハウウェル様の弟君であらせられるハウウェル様には・・・」


 うん? あれ? この人達、ケイトさんの・・・


「我が『ケイト様を見守る会』の永久名誉会長になって頂きたく、お願い申し上げますっ!!!!」

「っ!?」


 この人達、『ケイト様を見守る会』の会員の人達だったっ!?!?


 それにこの人、どこか見覚えがある気がすると思ったら、あれだ! 嫌がる女子生徒に無理矢理迫る男子生徒をケイトさんがムチで撃退した後、わたし達に接触して来て『ケイト様を見守る会』に勧誘して、そのなんとも形容し難い存在を知らしめた先輩だっ!?


「無論、現会長であるわたしも、そして次期会長である彼も、そして他の会員達も了承していることなのでご安心ください」


 こ、この人がケイトさんにシバかれたいという変態さん達の会長・・・そして、わたしとレザンをこの空き教室まで連れて来た人が次期会長っ!


 困ってレザンを見上げると、酷く困惑した顔をしていた。そして、どうしよう? どうする? と、お互いに視線を交わし合っていると・・・


「ケイト様がフリーになったとき……わたし達の勇気が無く、畏れ多くもケイト様へと詰ってくださいや、どうか踏んでください、鞭で叩いてくださいとお願いすることができず、なんともうらやましくねたましい思いをしたことか……」


 なんか語りだしたっ!?


「だがしかしっ、我々はケイト様へと求婚をしたセディック・ハウウェル様を勇者として讃えることにしたのですっ!? あの、一部の人間には鬼畜だと恐れられたセディック・ハウウェル様が、実はわたし達と同じ趣味を持つ同志だったことに感銘を受けました! セディック・ハウウェル様は一体なんと言ってケイト様へ求婚したのでしょうかっ!?」

「人の兄を勝手に変態扱いするなっ!!!! 勇者ってなんだ、勇者ってっ!?」

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