・・・そっちが地ですか?


「誰がするか」

「いや、ハウウェルだって身体を動かしたい筈だ。よし、行くぞ」


 断言されたっ!? しかもなんか、レザンの目が据わってるんだけどっ! もしかして、勉強で普段あまり使わない頭を使い過ぎたのか?


「嫌だ。お前と打ち合いしたら身体ガタガタになるし。なんで試験前にわざわざそんなことしなきゃいけないんだよ。勉強ができなくなったらどうしてくれる?」


 試験前に体調を崩すようなことはしたくない。


「ふむ。成る程、試験が終われば思う存分に打ち合いができるということだなっ!」

「違うから。っていうか、その前にお前は、留年回避するのが先だろ」

「おーおー、とうとうレザンがキレたかー。でも、ちょっとわかるわー」


 ぽいっとペンを投げ出すテッド。


「……お前ら、ウルサいぞ」


 リールが迷惑そうに顔をしかめる。


「集中力が切れたみたいですね。少し休憩にしましょうか」


 ライアンさんが苦笑しながら言いました。


「よっしゃ休憩っ!」

「よし、行くぞハウウェル」


 立ち上がったレザンに腕を掴まれる。


「は? どこに?」

「とりあえず外だ!」

「怪我をするようなことは駄目ですよ?」

「わかりました」


 ライアンさんに頷いたレザンに引き摺られ、外へと連れ出された。


「あ、俺も俺もー」


 と、テッドが付いて来た。


「で、どこ行くワケ?」

「購買行こうぜー。俺腹減ったー。いやー、なんで勉強すっと腹減るかなー?」

「うむ。確かにな」


 と、購買に行ってお菓子を大量に買って戻り、みんなでつつきながら勉強をした。ちなみにお菓子の半分程を食った奴が、


「・・・試験が終わってから・・・」


 という不穏な発言をしながらわたしの方を見ていたのを聞こえない振りをしたけど・・・学年末テストが終わったら、捕まらないよう逃げようと思う。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 勉強疲れたーと、ベッドに潜り込んでうとうとしていたときのこと。


 コツン、コツンと小さな音が部屋に響いた。


「・・・」


 つい最近、こんなことがあった気がする。どこぞのしつこい諜報員見習いの勧誘だとか・・・


 十中八九、彼女のような気がする。


 うん。無視だ無視。


 コンコンコンコンコンコンコンコン。


 寝ようと・・・


 コココココン、コココココン。


「ちっ……五月蠅うるさい」


 この前と同じパターンだと思いながらパッとカーテンを捲ると、案の定の顔がこないだ同様、黒尽くめの服装で窓に張り付いていた。


「あ、ハウウェル様~」

「嫌がらせですか? 安眠妨害はやめて、さっさと帰ってください」


 窓を開けずに告げると・・・


「相変わらず辛辣ですね~。まあ、今日の話は悪い話じゃないんで聞いてくださいよ~。実はですね~、わたくし……ハウウェル様の勧誘を、泣く泣く諦めようと思いまして~。今日来たのはその報告で~す。あ、やっぱり諜報部に入りたくなったら教えてくださいね~? いつでも歓迎しますので~」


 思わぬ言葉を聞いた。


「……成る程。やっと諦めてくれましたか。ご報告ありがとうございます。では、さようなら」


 ちょっと驚いたけど、アルレ嬢の言葉を額面通りには受け取るには、信用が無い。というか、アルレ嬢は胡散臭い。


「ちょっ、相っ変わらず取り付く島もねぇ人っすね? ちっとくれぇウチの話聞いたってバチは当たらねえっすよ? ハウウェル様」


 アルレ嬢が、慌てたように言った。その口調は、可愛い系の顔には似合わない、どこかはすっぱな口調。そして、不満そうな顔がわたしを見ている。


「・・・そっちが地ですか?」

「ま、そうっすね。あ、いつもの喋り方がいいってんなら、こっちに戻しますよ~?」


 いつもよりも幾分低めだった声が、一瞬でいつもの高さと間延びした声に変わる。


「素の方でお願いします」


 地の方は、いつもの馴れ馴れしさとはまた違った気安さがありますね。それに、いつもよりは話していて疲れませんし。


「そうっすか、ならこっちで。ウチもこっちのが断然楽なんすけど、男ってああいう喋り方の女が好きなんじゃねぇっすか? 図々しくって頭悪そうに喋る、無駄にポジティブな女」


 どうやらアルレ嬢のあの態度は、自覚があってわざとやってたようですね。やはり、性格が悪いのは確実のようです。


 それに、男がそういう女性を好むというのも、ある意味偏見のような気がします。


「人によりけりだと思いますが? 頭の悪そうな女性が嫌いという人もいますし」

「ぁ~、頭悪ぃ女は、女の方が嫌ってるイメージなんすけどねー? 実際、あの作ってるウチを毛嫌いする人も多かったっすから」

「そうですか。お疲れ様です」


 と、捲っていたカーテンを放すと、


「ちょいちょいちょいっ、ここはもっとウチの労をねぎらったり、ハウウェル様の勧誘を諦めた理由なんかを聞いたりするとこっすよ!」


 窓の向こうから、慌てた声がした。


「間に合ってます」

「その答えもなんか違ぇっす! ウチの話聞いてくれねぇってんなら、毎晩明け方までずっと窓叩きまくるっすよ!」

「仕方ないですね。安眠妨害は至極迷惑なので……」

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