おばあ様直伝の必殺の言葉を言うべきか。
「酷いですよ~、気付くのも遅かったのに~。窓も開けてくれない上、即行無視するなんて~」
煩いですね、全く。カーテンをチラッと捲り、
「人を呼びますよ?」
アルレ嬢に告げる。
「さすがに、卒業を控えた今の時期に問題を起こすのはまずいんじゃないでしょうか? 女子生徒が、男子寮に侵入を図っただなんて、絶対大事になりますよ」
あと、わたしは今眠い。眠くて不機嫌だ。
「容赦無いですね。普通、こんな可愛い子が会いに来てくれたら、感激してすぐに部屋に入れてくれるものじゃないんですか~? なのに、部屋に上げるどころか窓すら開けてくれませんし~。なんて塩対応っ! って感じですよ~?」
「・・・可愛いって、それ自分で言います? それに、深夜の窓辺に、黒尽くめの恨めしげな顔をした女が佇んでいるだなんて、不審者やホラー以外のなにものでもないと思うんですが?」
「・・・あ、成る程~。客観的に見ると、そういう見方もあるかもしれませんね~。もしかしてハウウェル様、怖がってたりします~?」
にこりとした微笑みにイラっと来る。
「いえ、怖いというより、安眠妨害をされてムカついていますね。夜も遅いので眠いんですよ。邪魔なので、さっさと消えて頂けませんか?」
勉強で疲れてもいる。
「いつもより辛辣ですね~。もう、わたくしのなにがいけないんでしょうか~?」
「諦めが悪いと思います。あと、至極迷惑です」
「ハウウェル様は女の子に興味無いんですか~?」
「・・・」
本当にしつこい。
これはもう、おばあ様直伝の必殺の言葉を言うべきか。あれは、なんというかこう……若干言った本人にもダメージがあるが、仕方ない。
「わたし、鏡を見慣れているもので」
「っ!!」
おばあ様直伝、困った女性に絡まれたとき、その相手をドン引かせる為の魔法の言葉だ。
なんかこう、かなりナルシスト疑惑を掛けられそうなセリフではあるけど、女性には効果絶大な言葉だそうです。
なんでも、おばあ様はその昔。お祖父様にちょっかいを掛けようとした女性に、「ヒューイはわたしに一目惚れしたそうだけど……あなた、そのお顔でわたしと張り合おうと仰るの?」と、艶然と微笑んで、お相手の方を泣かせたことがあるそうです。おばあ様、強い。
まだ女性に言ったことは無かったのですが、アルレ嬢が驚愕の表情で固まっていますし、やはり効果は抜群のようですね。
まぁ、言ったわたしにも、若干のダメージはあるんですけど・・・今は眠い!!!!
「では、さようなら」
と、カーテンを
さて、寝ますか。
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
夜中に恨めしげな顔をした諜報員見習いが窓辺に立っていて……「わたし、鏡を見慣れているもので」というナルシスト疑惑を掛けられそうな発言で撃退? してから数日。
学年末テストの日が刻一刻と近付いて来て――――
学園中に、ピリ付いた雰囲気が漂っています。
まぁ、余裕な人は余裕なんでしょうけど。ライアンさんみたいに、他の人へ勉強を教えている人もいることですし。
あとは、そうですねぇ・・・
苛々している人や、幽鬼の如き青白い顔をしてふらついている人、やたらハイになっている人、悟りを開いたのか如くに穏やかな笑みを浮かべて勉強を全くしていない人だとか、虚ろな表情や血走った目で、「テスト無くならないかな……」なんて呟いたり、「神に祈りを捧げましょう」なんて言っている、危なそうというか、すっごくヤバそうな人もちらほら。
身体を壊しそうな程に勉強を頑張っている人はかなり心配ですが、明らかにヤバそうな人達も・・・ある意味心配ではありますね。ヤバい人には、なるべく関わりたくありませんし。
なんというか、テスト時期になると必ず、一定数は変な風になる人達がいますね。普段は普通の人に見えるのに・・・
この学園はレベルが高くて、規定の点数を取らないとすぐに落とされてしまいますから。必死になるのもわかりはするのですが・・・ぶっちゃけ、アホでもバカでも普通に生きては行けますからね。
まぁ、バカだと貴族的にはちょっと大変かもしれませんが、成績だけが人生ではありませんし。
家を継がないお気楽な次男の言うことだと思われるかもしれませんが、身体や精神を病む程には頑張らなくてもいいと思うんですよねぇ。身体や精神を壊してしまうと、本末転倒ですし。
・・・かと言って、
「ハウウェル。ちょっと、気分転換に打ち合いでもしないか?」
なんて、そんなアホなことを言う脳筋は勘弁なんだけど。
「誰がするか」
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