なぜか、弟自慢が始まってしまいました。


「セルビアさん、今ならまだ間に合う筈です!」


 と、ハウウェル様に説得をされたわたしは、週末は家に帰ってリヒャルトに会いに行こうと固く決意しました。


 あんな、「だぁれ?」なんて、忘れられるなんてそんな、想像するだけで胸が締め付けられるように苦しいというのに・・・事実になってしまったら、心底恐ろしい。


 それから、一日千秋の思いで数日を過ごし、週末の放課後には即行で帰宅し、父を無視してリヒャルトに構い捲りました。


 誰に、『ケイトはリヒャルトのことを嫌っている』と思われてももう関係ありません。


 わたし・・・が、リヒャルトのことを好きであれば、それでいいのです。


 父に信用されていないと思うと少々悲しいですが、けれど、わたしは開き直ることにしました。


「わたしは、リヒャルトを可愛がりたいのですお母様っ!!!!」


 そう宣言をすると、


「ええ、わかっていますよ。ケイトがリヒャルトを見る目は優しいですからね」


 と、お母様は微笑んでくれました。


 父にはわかってもらえていないようですが、お母様にはちゃんとわかってもらえていたようです。


「リヒャルト、ケイトお姉さまですよ」


 にこりと柔らかく微笑んで、抱き上げたリヒャルトをわたしへと寄せてくれるお母様。


 最初は恐る恐るリヒャルトに触れ、にこっと笑ったリヒャルトの笑顔に鼓動が高鳴りました。


 それから、泣かれなかったのでお母様から小さい子の抱き方を教わっておっかなびっくりリヒャルトを抱っこして、ぷにぷにした肌の柔らかさや、ふわふわした髪の毛、甘い匂い、くりくりとした瞳、小さな手に感動して、可愛らしい声を聞いて・・・ごはん(離乳食)や飲み物をあげたりと、お世話をして、泣かれるとおろおろして・・・


 お母様には苦笑されてしまいましたが、可愛い可愛いリヒャルトをず~~っと見ていたくて・・・


 徹夜をしながら、なぜわたしは、この一年を無駄にしてしまったのかっ!!!! と深く悔やみました。


 もう、本当に時間を無駄にしましたね。できることなら、リヒャルトが生まれたときに戻って、新生児だった頃からリヒャルトの成長を見守りたいですっ!?


 まぁ、無理なことは判っていますけど・・・


 そしてとうとう、学園に戻る時間が近付いて、折角せっかくわたしに懐いてくれたリヒャルトと離れるのは、身を切られるようなつらさでっ・・・


「週末にはまた帰って来ますからね」


 と約束をして、学園へと戻りました。


 ああ、リヒャルトが可愛かった・・・


 家を出るときに、父が若干涙目だったような気がするのは、きっとわたしの見間違いでしょう。そうじゃなければ、目にゴミでも入ったのでしょうか?

 なにやら、「あなたがいつも厳しいからケイトに嫌われたのよ」と、お母様が言っていたような気がしなくもないですが、そんなことよりリヒャルトですっ!!!!


 次の週末まで、今日を含めてあと六日もあるのです。ああ、長い。とても長い・・・


 と、こんな風にしてリヒャルトを可愛がることができたのだと、ハウウェル様へ報告をしていたら・・・


「リヒャルトが可愛くて可愛くて」

「・・・ネイトの方が絶対に可愛いです」


 と、ハウウェル様が低く呟いて、


「いいえ、リヒャルトの方が可愛いです」


 思わずそう言い返してしまって、


「僕のネイトの方が可愛い!」


 なぜか、弟自慢が始まってしまいました。


 互いに、自分の弟の方が可愛いと譲らず、延々と言い合いを続ける。


 ハウウェル様とは、顔を合わせる度、そんな風にして過ごしていました。


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