みんなが探り探りの状態。


「成る程、アスレチックですか。いいですよ? 一緒に跳びましょうか」


 まずは小手調べと言わんばかりに、地面に半分程埋められて横たわっているいる丸太の上をぽんと軽く跨いだ彼女は、顔を上げてわたしを伺う。


 アスレチック競技は、乗り手の技量は勿論だが、馬との信頼関係が非常に重要となる。


「大丈夫です。どんどん行きましょう」


 笑顔で言うと、わたしが跳ぶことを怖がっていなくて大丈夫だと思ったのか、これまた様子見という風に、今度は先程よりも高さのある丸太をぽーんと跳ねる。


 わたしは彼女とは今日が初対面で、乗るのも初めてだ。けど、彼女はずっと、何年もセディーを乗せてくれていた子だ。わたしが彼女を信頼するにあたう、とても十分な理由。


 そして、どんどんと障害物を越えて軽快に、楽しげに跳ねて行く彼女。


 遂にはタッタカ駆けて、高さ一メートルを越すハードルを跳んだときには――――


 滞空時間がゆっくりと長く感じて、なんだか爽快な気分になった。ドン! という着地の衝撃と音がしてから――――


 遅れて、あちこちからドッと沸く歓声と拍手とが聴こえて来て、讃えられた彼女は、スンとした得意げな澄まし顔で厩舎へと足を向けた。


 どうやら満足してもらえたらしい。


「あなた、実はとっても凄かったんですねぇ」


 おっとりはしていても、一メートルを越えるハードルに挑んで跳べるくらいに勇敢で、賢い子でもあったワケですか。


 そりゃあ、初心者を乗せて・・・あげて・・・いる・・ワケですよ。


 面倒見がよくて気立てが優しく、おっとりしているのに勇敢で、更には美人と来た。


「とんでもなく才色兼備ではありませんか。今日は乗せてくれて、ありがとうございました」


 と、彼女にお礼をしていると、


「凄かったじゃないかハウウェルっ!?」


 興奮したようなテッドがやって来た。


「うむ。素晴らしいジャンプだったぞ!」


 満面の笑みのレザンも一緒に。


「とても初めて組むコンビだとは思えないぞ! さてはハウウェル、俺がいないときにソイツと練習していたなっ!?」

「残念ながら、この子とは今日が初対面だよ。どちらかというと、今日のはこの子がわたしを乗せてくれていたんだ。すっごく賢いよ、この子は」

「成る程。もしかしたらコイツは、アスレチック競技を引退したのを引き取った奴かもしれんな」

「そうかもね」


♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘


 厩舎で美人さんにお礼を言って別れて、汗を流してから夕食。


 いつものように食堂に向かい――――がやがやとした雰囲気と、いつにない喧騒で思い出した。


「そういえば・・・」


 今朝からこう・・だった、と。


 学年や身分の異なる男子生徒達があちこちで固まり、友人同士で楽しげに会話を交わし合い、あまり上品とは言えないようなマナーで料理を食べる男子がいて、それに不快そうに顔をひそめる男子がいて、ゲラゲラ笑う声が上がったりと、朝よりも幾分騒がしい。


 喧嘩のような声も偶に混じっているが、小競り合いにまで発展する気配も無さそうだし、平和なのはいいことだ。


 いいこと、なんだけど・・・


「満席かぁ……」


 腹減りのときに食堂の席が空いてないのは、ちょっと切ない。


 食事を注文して、席を探してうろうろするのもあんまり好きじゃない。折角のごはんが冷めてしまう。熱々のごはんをゆっくり味わって食べるというのは、とても贅沢な時間なので、少し迷う。


 出直すか、どうか・・・


 まぁ、出直したとして、その時間も席が空いてるかは不明なんだけど。


 今までとは勝手が違って来るようだし、食堂の混む時間帯のリサーチをやり直ししなくてはいけないだろう。とはいえ、このリサーチは大概の男子寮生にも言えることなんだけど。


 やからが鳴りを潜めてから初めての食堂でのこの盛況なら、みんなが探り探りの状態。


 数週間……早ければ、来週再来週にもある程度の不文律ができて来ると思う。


 まぁ、その不文律が確立する前に、何事もなければ・・・という感じだけど。


 なんて考えていると、ちらほらと席を立つ人の姿が見えた。これなら・・・


 お腹も空いてることだし。戻るのはやめにして、ごはんにしますか。

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