あ、これマジの勘違いだわ。


 お腹も空いてることだし。戻るのはやめにして、ごはんにしますか。


 と、食べたいメニューを選んで注文。トレイを持って少し歩いていると、


「失礼します」


 一言断ってから空いた席へと滑り込む。


 仲間内で固まっているような場所や、見知らぬ先輩達しかいない場所だったら少し気まずいけど、混んでいるし、お腹が減っているんだからそうも言ってられない。


 まぁ、仲間内で固まっているとも限らないか。実は一人ずつの相席でテーブルが埋まっていたという可能性もある。相席もまた、食堂の醍醐味だいごみ


 相席する相手を面倒に感じたら、さっさと食べて席を離れてしまえばいい。


 顔を上げると、ぽかんとしたような表情で見詰められたけど、特になにか言われるような気配も無かったので、気にすることなく食事開始。


「……じょっ……じょ……」


 ごはんを食べ進めていると、正面に座っている男子がなにか呟いている。顔は知らないけど制服は新しそうだから、普通クラスじゃない人なのかな? ちょっと不審かも。


「・・・? もしかして、話し掛けてます?」


 顔を上げて聞くと、


「っ!?」


 なぜかビクッとされた。


「? あの?」

「こ、こ、ここはっ……」

「? ココア? 飲み物の注文はあっちですよ?」

「ココアじゃなくて!」

「?」

「ここは男子寮だぞっ!? なんで……じょっ……じょ、女子がこんなところにいるんだっ!?」


 と指を差された。彼の顔は真っ赤だ。


「・・・」


 これ、はっ・・・とりあえず、落ち着こうか。わたし。はい、深呼吸して。


「ふぅ・・・」


 うん。偶に・・初対面の人に女性だと勘違いされてしまうことがある。そう、偶に・・……悪気なく・・・・勘違い・・・をする人がいる。


「……わたし、男ですよ?」

「へ?」


 ぽかんと見開く目。あ、これマジの勘違いだわ。全くの悪気も無いタイプ。


「なので、男子寮にいるのは当然です。お気になさらず。そんなことより、折角の食事が冷めてしまいますよ?」

「ぇ?」


 きょとんとした顔の彼を捨て置き、さっさと席を立つべく急いで食べることにした。


 幾ら悪気が無くても、ね?


「落ち着くんだハウウェル。なにも彼とて、悪気があって間違えたとは限らない。そうだろう? 俺のデザートを分けてやるから落ち着くんだ」


 もしゃもしゃと急いで食べていれば、なにを勘違いしたのか見当違いな心配をする声が降って来た。


「は?」


 思わず出てしまった不機嫌な声に、


「ひとまずはこれを食べて落ち着くんだ。一般人に手を出すのはよくない」


 言い聞かせるように、チーズケーキの皿がわたしのトレイへ載せられた。


「いや、なにを心配してるのか薄々察しているけど。少し勘違い・・・をされたからって、わたしは別に怒ってないよ? まぁ、くれるって言うなら貰うけど」


 うん。怒ってはいない。悪意の・・・無い・・勘違い・・・だ。そう、悪意の・・・無い・・、単なる勘違い・・・。だから、わたしは別に怒ってなんかない。


 チッ……とか、軽く舌打ちをしたくなる程度の微妙な苛立ちはするものの、そんな、レザンが心配する程に怒って、見知らぬ彼になにかをする気なんかさらさら無い。


「うん? 怒ってない、のか? さっきは、その……いや。それに、ハウウェルは揶揄われることが嫌いだろう? 揶揄った奴をぶん殴って黙らせるくらいには」


 レザンが言葉を言い淀み、首を振り、続ける。


「? ああ、そりゃあね。悪意をもって人のことを揶揄からかってたのしむようなクズ共は、追い掛けてぶん殴っ……じゃなくて、キッチリと話し合い・・・・で解決するけど。ここは、放っとくと付け上がって人に舐めくさったような態度を取るような馬鹿共も、それの尻馬に乗って追従する馬鹿共も特にいなさそうだし。純粋な勘違いなら、次から気を付けてくれれば、別に……ああ、でも、チーズケーキはありがたく貰っておくけど」

「む……そうか。それは、余計なことをした。すまん」

「いいよ、別に」

「だ、そうだ。よかったな? ハウウェルはこう見えて、存外凶暴になることがあるからな。次からは気を付けるといい」


 にかっと、わたしの正面へ座る男子へと笑い掛けるレザン。


「いや、なに言ってんの? 君、それわたしに失礼だからな」

「うん? 怒っていなかったのではなかったのか?」

彼には・・・怒ってなかったんだけどね。今のレザンの無神経な発言に若干気分を害したんだよ、わたしは」

「ふむ、それは悪かったな。俺から奪ったチーズケーキで手打ちとしてくれ」

「奪ったとはまた人聞きが悪いことを。君が勝手に、わたしにこれでも食べろと押し付けて来たんじゃないか。返さないけど」


 まだ幾つか残っているレザンのトレイの上のケーキを見やる。体力おばけなだけあって、食欲も旺盛なんだよねコイツ。食事も身体造りの一環なんだそうで。


「ふっ、いいだろう」

「ぅわ、なんかムカつく」

「イライラには甘いものを食べると効くらしいからな。さあ、そこの男子生徒よ。俺がハウウェルの気を引いている今のうちに逃げるんだ」


 ビシッと食堂の出口を指すレザン。


 この野郎っ、わたしの言葉を信じてやがらねぇ!

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