美人に笑顔で礼を言われたっ!


 朝に食堂でテッドに声を掛けられてから、男子生徒達に声を掛けられることが増えた。


 男子寮から校舎へ向かう途中で何度か緊張した面持ちの男子生徒に声を掛けられ、返事を返すとほっとした顔をされた。


 どうやら、わたしと話してみたいという人が結構いるというのは本当だったようだ。


 平民の彼と話していたのを見て、そんな彼らの警戒心が解けたのかもしれない。


 ハウウェル様か、君付けで呼ばれて挨拶をされる。そうじゃなければ、緊張した顔でさっと挨拶をされる。テッドはレザンにならってのハウウェル呼びなんだろうな。


 挨拶されるのはいい。そう。挨拶自体は。


 でも・・・


「挨拶されて、挨拶を返したらパッと逃げるように去られるのはなぜなんだろうか? わたしは、怖いと思われているのかな?」


 移動中や廊下なんかで挨拶されて、挨拶を返すと、なぜかダッシュで逃げて行く人達がいる。


「朝だから不機嫌に見えている、とか?」


 朝は眠くて半眼気味で、少し不機嫌に見えて、ちょっとテンションが低めなだけなのに・・・


「・・・ははっ、いや~、驚いたわ。まさか、ハウウェルがこんなに面白い奴だったとはな。もっと早く声掛けとくんだったぜ」

「?」


 笑われる意味がわからない。


「だから、前から言っていただろう? ハウウェルは面白い奴だと」

「君に面白いとは言われたくない。というか、答えになってないと思う」


 ランチタイム。席に着こうとうろうろしてたら「ハウウェル」と、手を挙げて呼ばれた。それがレザンとテッドの二人だったので相席して、今日疑問に思ったことを聞いてみたんだけど……


「前の学校でも、偶にいたんだけどさ・・・なんで走って逃げられるんだろう?」


 もしかして、目撃者だったりするのかな? わたしがやからを伸したのを見ていて、それで怖がられている……とか?

 わたしは別に、誰彼構わず殴ったりなんてことしないのに。って、これ……レザンがテッドに言ったというセリフみたいだな。なんだか微妙な気分になる。


「ああ……そう言えば、いたな? ハウウェルを『腹黒姫』だとか呼んで、揶揄からかって追い掛けて来るハウウェルから逃げるという遊びをする連中が」

「あ゛? 誰が姫だ、誰がっ……」

「いや、待て、ハウウェル。そういう連中がいたのを、ふと思い出しただけだ。俺がハウウェルを姫と呼んでいたワケじゃないぞ? だから落ち着け、ハウウェル」


 思わず低い声で睨むと、慌てて否定するレザン。


「・・・」


 確かに、いた。わたしを『姫』呼ばわりする馬鹿共が。無論、そういう輩とは大体ちゃんと拳で語らって話し合って、キッチリとわからせたわかってもらったけど・・・


「あ~、まぁ、あれだっ、ハウウェル! ちっとばかり人見知りな奴が多いんだろ。シャイっつーかさ? だからさ、その、あんま気にするなって!」

「・・・そうなの?」

「そーそー。平民は平民同士には気さくだけど、貴族や美人には遠慮がちなもんだよ……」

「・・・ふぅん」


 「……この ネタで ハウウェルを からかうのは やめておいた 方がよさそう だな。 危険だ……」


 ぼそりと小さい声でなにかを呟くテッド。


「なにか言った?」

「いや? なんでもないっ。そ、そんなことより、二人共週末はどうするんだ? 明日は金曜だろ」


 露骨に話を逸らされた気がするけど、まぁいいか。


「ハウウェルも俺も、帰省だな」

「まぁ、そうだね」

「あ~、そうか。それは……その、なんか言われたりする、のか?」


 テッドが声を潜め、心配そうに聞いた。


「いや? 俺は、今回のことを報告しろと兄貴に言われただけだからな。特に叱られたりはしないだろうな。ハウウェルの方はどうだ?」

「わたしの方も、別に叱られたりはないと思う。多分、セディ……兄上とおばあ様が心配してるみたいだから、顔を見せに帰るって感じかな?」

「そっか……よかった」


 ほっとしたような溜め息が落ちた。


 どうやら、心配されていたようだ。


「大丈夫だよ。でも、心配してくれてありがとう」

「っ……うおぉ、美人に笑顔で礼を言われたっ!」


 バッと顔を手で覆って俯くテッド。


「・・・それは、茶化しているのかな?」

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