ま、食いながら聞くといい。
翌朝。
なにやら、寮の食堂がざわついていて――――
「なんか・・・人、多くない?」
そして、いつもとは雰囲気がかなり違う。
「そりゃあ、あれだな。例の
ぽつんと呟いた言葉に、横合いからの返事。
「よ、ハウウェル」
人懐こい笑みを見せる男子生徒がいた。
「ああ、君か……おはよう」
乗馬クラブでよく会うけど、あんまり話したことのない同級生。確か、レザンと同じクラスだと聞いたような気がするけど……え~と?
「おう、俺はテッド。テッド・メルンだ。レザンの野郎と同じクラスの平民な。乗馬クラブんとき、何度か話したことあるだろ? テッドでいいぜ」
「テッド、ね。わかった」
「……けど、レザンの言う通り、朝はぼさ~っとしてんのな? 起きてっかー? ハウウェル」
「起きてる、けど……」
「ははっ、テンション低いのな。まぁ、飯注文して来いよ。席は確保しといてやるからさ」
わたしの無愛想な返事を気にした風もなくからりと笑い、オーダーを促したテッドが自分の食事を持ってテーブルに向かう。
朝食を受け取り、ひらりと手を振るテッドの隣の確保された席に着く。
「ありがとう」
「ま、食いながら聞くといい」
そう言って、彼自身も食べながら語ったのは――――
どうやら、あの
だから、あの連中がいない時間帯の食堂に、平民や下位貴族達が集中していたのだという。
けど、つい先日のこと。
彼らの部屋が学園職員達にガサ入れされた。
その後、すぐに停学を食らったらしく、部屋から出て来なくなり、授業にも出ていない。
食堂に出て来ることはあるが、それにはキッチリと見張りが付いているとのことで、横暴を働かれる心配がない。
それで、平民や下位貴族達が連中を気にすることなく、大手を振って食堂を使用できるようになって……この状況、ということらしい。
ちなみに、連中はそこそこ小賢しかったようだ。上位貴族達や、平民や下位貴族でも、上位クラス在籍者達は絶対に狙わなかったのだとか。
まぁ、成績優秀者達は下位クラスや普通クラスの在籍者達よりも、学園に目を配られていますからねぇ。優遇措置を施す為
道理で。セディーもライアンさんも、彼らのことを話さなかったというか……そもそもが、彼らのことを知らなかった、という可能性もあるかな? 多分、入って来る情報なんかも割と違うだろうし。
「……それはよかったね」
うん。あんなのを気にして、こそこそと隠れたり、食事の時間をずらしたり、ゆっくり食べられなかったり、最悪ごはんを抜いたりするなんて、冗談じゃないし。
あちこちで上がる、笑う声や話をする声。カチャカチャと鳴っているカトラリーの音。あまり上品とは言えない所作で食事をする多数の男子生徒達は、平民だろうか。
食堂内の、昨日までは見られなかった喧騒。
成る程。今までは息を潜めていた平民や下位貴族達が羽を伸ばせるようになった、と。
おそらくは、これが男子寮食堂の本来の雰囲気と言ったところだろうか。
上位貴族の中には眉を
わたし的には、そう悪くないかな? 平和なのはいいことだし。
「で、だな。ハウウェル」
「? なに?」
「サンキュ」
「? なにが?」
「
ニヤリと食堂を見渡すテッドに、どういう意味だ? という風に首を傾げる。
「焦ってレザンを寄越した甲斐は……まぁ、あんまりなかったみたいだけどな? まさか、レザンが助ける間も無く終わるとは全く思わなかったぜ……」
「・・・ああ、君だったのか。レザンを呼んでくれた人っていうのは。奴が来てくれて助かったのは事実だよ? 今更だけど、ありがとう」
「よせよ。偶々窓を開けてたら、見覚えのある奴が絡まれていて、自分が助けに入りたくねぇから、慌ててレザンを呼んだ腰抜けってだけだ。俺は」
やっぱり、目撃者はいたか・・・誰かしら、見ている人はいるとは思っていたけど。
「それって、誰かに話した?」
「いんや? 見たままを正直に話したところで、あんまり信じてもらえそうにないからな」
繁々とわたしを見詰めるテッド。
「? そう、ありがとう。まぁ、証言を求められたらそのまま話していいから」
わたしも、簡単には信じてもらえないだろうから面倒だと思って隠しているだけで、どうしても知られたくないというワケでもないし。
まぁある意味、
「よせって。俺はな~んもやってねぇよ。それにしても、レザンの言った通り、見た目よりもかなり話し易いんだな。ハウウェルは」
「そう?」
見た目よりって・・・
「おう、ハウウェルはお綺麗なツラしてっからな? もっとこう、取り澄まして、お高くとまった奴かと思っていたんだ」
「それ、誉めてるの?
ニヤリと笑い掛けると、
「ははっ、勘弁してくれ。俺じゃ、アンタの相手にもならねぇよ。見た目に反してなかなか喧嘩っ早い、ってのも本当だったな。こっちから噛み付かなきゃ、特に問題はないっても言ってたが?」
降参という風に両手を挙げ、首を振るテッド。
「ふぅん・・・レザンが、そんなことを・・・」
「いや、アンタと話してみたいって奴は、実は結構いるんだよ。けどほら、アンタって綺麗な顔してるし、レザンが近くにいることが多いから、声掛けづらいっていうかさ?」
「成る程、レザンの圧力か・・・確かに奴は、デカい上に強面だからね。一般人には受けが悪い」
納得していると、
「ぃゃ、あ~……まぁ、そういうことにしとくわ」
いやに歯切れの悪いテッドの言葉。
「?」
「それにほら、アンタ貴族じゃん」
「その辺りは・・・難しいと言えば難しいかな? わたしはレザンと似て、あんまり身分には煩く言わない方だと思うんだけど。そういうのは、人によるからねぇ・・・」
と、朝食を終えてテッドと別れた。
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