鏡見ろお前。


 ――――暫くして、祖父母から謝罪の手紙が来た。いや、もう両親共がアレ過ぎて、お祖父様とおばあ様に申し訳ないんですけど。


 頑張るので心配しないでください、と返事を返した。というか、手紙は閲覧されるというから、下手なことは書けないし。


 それから、必死でいい成績をとりましたよ。


 あと、やっぱり一定数はいるらしい。家族や親類に、厄介払いや嫌がらせとしてこの騎士学校へ入学させられるような生徒が。そういう生徒の大体は、この学校の気風に合わないで苦労することが多いそうだ。


 わたしも、そう思われているのだと思う。そういう生徒達は、教官達に目を掛けてもらっている。贔屓ひいきにはならない程度にそれとなく、ではあるけど。気付く人は、ちゃんと気付いている。


 多分、同情されているんだろうなぁ。


 まぁ、間違ってはいないだろう。わたしはおそらく、両親に疎まれている。それは認めよう。疎まれるだけの関心があるのかは……少々不明だけど。


 それはかく、だ。


 おばあ様似で女性的? な顔をしているらしいわたしを、恰好の的だと見做みなした馬鹿共がいたらしいんだけど・・・


 まぁ、わたしを舐めくさる馬鹿共は、キッチリ返り討ちにしてやりましたが。


 というか、わたしって女の子みたいな顔してたの? スピカには、「ねえさまはきれいです」ってきらきらの可愛い笑顔でよく言われてたけど……でもあれって、日の下だと瞳の色が変わることじゃなかったの?


 ここに来てから、「女男のクセに」や「女みたいな顔しやがって生意気な」とか、よくわからないアホらしいことを、本当によく言われている気がする。あと、「お嬢ちゃん」だとかも。


 みんな目が悪いよね。ここは男しかいない騎士学校なのにさ? と、思っていたけど……


 なんか、ね・・・


 まぁ、あれだよね。ほら、ここには女性がいないから。


「あまりにも女の子と接する機会がなさ過ぎて、わたし程度の顔が女の子に見えるとか……なんかもう、ホント可哀想な連中だよね」


 そう馬鹿共を憐れんだら、


「鏡見ろお前」


 偶々近くにいた奴に呆れ顔でそう言われた。


「鏡って・・・? あ、わかった。わたし、髪長いから?」


 前にロイにも、「なんでお前、女の子みたいに髪伸ばしてんの?」って聞かれたことあるし。

 今は前と違って、スピカにちゃんとネイサンわたしだって認識されるよう、自分の意志で伸ばしてるけど。


 この程度で女の子に見えるとか、どれだけ可哀想な連中なのか・・・


「あれ? でも、わたしの他にも髪長い奴はいるよね? ソイツは女の子~云々うんぬんは言われてないし・・・?」


 謎な・・・??


「だから、鏡見ろお前」


 と、返された。


 ・・・解せない。


 わたしなんかより、スピカの方がずっとず~っと可愛いというのにっ!! あと、おばあ様もわたしよりお綺麗だし。ミモザさんも、若々しい上に可愛らしくて綺麗だ。


 はぁ、スピカの笑顔が見たい。「だいすきですっ、ねえさま!」って、満面の笑みで言われたいなぁ……


 癒しが欲しい! 切実に! ここにいると、気分がささくれ立つんだよねぇ……


 それはそれとして。


 わたしは存外弱くないらしい。まぁ、大して強いワケでもないけど……わたしは、負けない・・・・こと・・が得意になった。

 それとな~く相手の嫌がる角度からの攻撃をしていれば、強い相手に勝つことはできずとも、負けることも少なくなる。


 要は引き分けに持ち込むワケだ。まぁ、本当に強い奴と一対一なら、完璧負けますけどね。それでも、結構がんばって引き分けに持って行っている。


 一応、我ながら性格が悪いやり方だとは思っている。でも、これは仕方ない。だって、なんか知らないけど、やたら絡まれるし。


 初日に寮で絡んで来た奴に頭突きヘッドバットしたから目立ったのか、なんなのか……


 とりあえず、数名で囲まれても、わたしは負けない。そんな連中には、意地でも負けてやらない。


 こちとら、花畑に置き去りにされた六歳の頃から、賊と戦うことを想定して剣を習って来たんだ。


 一対多数の戦闘、臨むところ!!


 それに、同士討ちってさ、自分が直接相手に怪我させるよりも、罪悪感は減るよね……?

 同士討ちしちゃって自滅した連中の信頼関係とかズタズタになるし、一石二鳥♪


 うん? 頭突きや蹴り、砂での目潰しが卑怯? 攻撃を避けるな? 騎士・・らしく・・・正々堂々戦え? 倒れた奴をぶん投げるな? ヤだな。そんなこと、いきなり数名で一人を囲んで来るようなクズ共には言われたくありません。

 あと、授業では教官になにも注意されないくらいにはちゃんとしてるから、問題ありません。手段を選ばないのは、手前ぇらみたいなのにだけだ、ボケが。


 わたしは動かない的じゃないっての。正々堂々・・・・って意味、わかってるのかな? 全く。


 そんな風に、因縁付けて来る馬鹿共へそれなり・・・・対応・・をしていたら、そういう馬鹿なことを仕掛けて来る連中が減って行った。


 まぁ、あれだね。芸は身を助くというやつだろう。剣術、馬術を真剣にやって来てよかった!!


 習わせてくれて、本当にありがとうございます。トルナードさん、ミモザさん。


 あと、ロイにも……感謝しないでもない。


 本気で誰かと殴り合いや取っ組み合いの喧嘩をしたことがあるというのは、手加減を知る上でとても重要なことだったみたいだし。


 わたしのことを容赦ない奴だとか言っている人がいるけど、それは心外だ。


 わたしはちゃんと、手加減を加えてしっかりと痛みを与えつつ、問題にならない辺りのラインを弁えているというのに。全く……


 それから――――


 同学年の手加減知らずの馬鹿が、剣術の演習で組んだ相手に取り返しのつかない大怪我を負わせた。

 そして、その二人は退学となった。

 片方は退学処分で、もう片方は自主退学だ。馬鹿の家は、これから莫大な慰謝料を払うことになるだろう。


 数年に一度は、こんな事件が起きるらしい。なんかちょっと、精神的にクるものがある。


 ……ところで、こそこそとわたしを指差して「腹黒姫」って言ってる声が聴こえたりするのは、どういうことなんだろうか?


 まさかそれ、わたしのことじゃないよね?


 ははっ・・・そんな変なあだ名を付けた奴は、一体誰なんだろうか?


 そんな巫山戯ふざけた奴とは、確りと話し合い・・・・をしなくちゃいけないよね?


 そんなこんながあって、一年が終了。


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