舐めんな、アホが。


 こうして、わたしの騎士学校での日々が始まった。


 とりあえず、入学式で割と丁寧に説明されたことによると――――


 基本、入学一年目は外出禁止。


 手紙も閲覧されるとか。ぅわ……


 年に数回は身内との面会はOKらしい。身内側からの事前申請が必須だけど。


 そして、二年目からは成績に応じて外泊許可が下りる、と。


 あと、この学校から逃げることは家の恥になることだとほのめかされた。


 やらかした貴族子息の更生も担っているこの騎士学校を、途中で転校したり退学したりすることは、不名誉なこととされている。姉妹校に転校や、現場に出るなら、その限りではない、とのこと。

 ちなみに、大怪我などをした場合は退学や転校も仕方ないらしい。騎士学校なので、事故が起こることも覚悟しておけ、と。学園側の過失で大怪我を負った場合は、損害賠償も出るのだとか。


 いや現場って、なんの現場なんでしょうか? わたしは軍人になるつもりはないのですが?


 まぁ、一応わたしの肩書き的には子爵家次男(侯爵家令孫でもあるけど)なので、騎士や軍属を目指していても全く不自然じゃないんだけどね!


 貴族の次男三男は、騎士やら弁護士、医者、文官辺りを目指す人が多い。


 成れるかは別として、だけど。


 医者、弁護士なんかは、頭が良くないと成れない狭き道だ。文官も、そこそこ頭が良くないと無理。例えコネでなったとしても、馬鹿はすぐにバレるからなぁ。きっと、その方が余程恥だろう。


 よって、あんまり頭が良くないだとか、頭脳方面へ努力をしたくないというような人達が騎士を目指すことが多い。

 いや、中には普通にエリートコースの騎士なんかもいるだろうけど。それも、少数だ。


 ぁ~ぁ……恥だと言われるのなら、転校という話は難しくなったかもしれない。ただでさえ、うちの両親がアレで、その辺りの事情を知っている人達からは笑われてるっていうのに!!


 ちなみに、生徒達は結構確りした身体の人達が多い。さすが、軍閥関係者子息達の通う学校。細身の人や、もやしっぽい人はいないワケではないけど、かなり少ない。


 マジ無いわー……と、クソ両親共め! と思いつつ、入学式が終了。


**********


 ははっ……入学、しちゃったよっ!?


 二年掛けて学んだことが、パーだよ!


 まぁ、予習の全部が役に立たないということは多分ないだろうけど、ここは騎士学校だし。授業内容がどうなっているか……


 あ~あ、これからを思うと気が重い。


 そして、案内されてやって来た寮内にて。


 わたしに絡んで来た馬鹿がいた。足を踏まれて肩を小突かれた。それだけならまだしも……


「ここはなぁ、お嬢ちゃんの来るようなところじゃないぜ?」


 という阿呆らしいことを、ニヤニヤと嘲るように小声で言われた。


「は?」


 わたしだって、ここに来たくて来たワケじゃないのに! 恥だって言われて、今更入学の取り消しすることはできないと思うから、覚悟を決めたというのに! と、ちょ~っとムカついたから、


「ぐがっ!?」


 ゴツン! と、そのニヤケ面に頭突きヘッドバットをかましてやった。そしたら、なんだか凄く驚いた顔をされた。なんで驚くんだろうか? もしかしてバカなんじゃないかと思いつつ、


「ああ、期待に応えられなくてごめんね? わたし、そんなに弱くないから。やられたらちゃんとやり返すよ?」


 薄く笑って、同じく相手に小声で返す。わたし、女の子じゃないし。


「舐めんな、アホが」


 クロシェン家にいた頃は、ヤンチャなロイと殴り合いや取っ組み合いの喧嘩をしたこともある。きっかけはもう忘れたけど、くだらないことで偶に喧嘩をしたことを思い出すなぁ。

 ロイとの勝敗はどっこいどっこい……というか、勝敗が決まる前に大概は喧嘩両成敗で、ミモザさんにぶん殴られたことなんかも……イイオモイデ、デス。頭のてっぺんが痛かったけどね!

 無論、スピカが見てる前では手の出るような喧嘩はしなかった。スピカを怖がらせたくなんかなかったから。その辺りは、ロイもちゃんと弁えていた。


 でも、舐められると厄介だからね。上品じゃない行動も、偶には取ります。


「そこ、なにしている?」


 頭突きヘッドバットの音が目を引いたのか、寮監がこちらへやって来た。


「ちょっと彼とぶつかってしまって。謝ろうとしたら、思ったよりも距離が近くて頭をぶつけてしまいました。あ、鼻血出てるよ? ごめんね、大丈夫?」


 たらりと、まぬけ顔で鼻から赤色を垂らした彼にハンカチを差し出したら、


「っ、ふざけんな! 覚えてろよ!」


 と、怒鳴った彼にバッと手を強く振り払われた。そして、駆けて行く背中を見送る。


「なにがあった?」

「少しぶつかってしまっただけです」


 わたしは悪くない。相手がアホなだけです。鼻血は……さすがに、ちょっとだけやり過ぎたと思わないでもないけど。


「問題を起こしていないならいい。気を付けなさい」

「はい」


 と、笑顔で頷いておく。ちょ~っと周りがざわついているような気がするけど、気にしない。突っかかって来る奴が悪いんだから。


 わたしは、手は出していない。ちょっとばかり強く、頭が彼の顔面にぶつかってしまっただけだ。堂々とにこにこしておく。

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