帰って、来た……んだった、なぁ。


 翌朝。


 ぼんやりと目を覚まし、今日はなんだかいやに静かだと思った。スピカの声がしないし、寝ていてもロイが「おら、起きろネイサン!」と言って突撃して来ない、し……?


 そして、見覚えがあるようなないような、天井で……思い、出した。


「ぁ~……そっか。帰って、来た……んだった、なぁ」 


 呟いた声は、寝起きで少し掠れていた。


 スピカの可愛らしい声も、ロイの騒がしい気配と突撃もなくて当然だ。


 ここは、彼らのいない、わたしの実家なんだから。


「はぁ……」


 わたしはあんまり朝が得意じゃなくて……あれだけ嫌だった朝のウルサいロイの突撃を、不覚にも今ちょっとだけ懐かしいと思ってしまった。


「……起きよ」


 そして、身支度をして食堂へ向かう。


 やっぱり、用意されていたのは一人分の食事。

 うん、わかってた。兄上は昔から宵っ張りだし。わたしよりも朝に弱いから仕方ない。


 まぁ、父か母がいたとしても、気まずいだけだろう。特に話すことも無いし……あぁ、いや。学校の件があったか。とは言え、どうせ既に決まったことを一方的に告げるだけな気もする。


 それにしても、ものすご~く静かだ。


 一人での食事はここ数日の旅でしていたけど、それでも宿泊した宿屋は、今の食堂よりももう少し賑やかだった気がするし。


 食事を終え、侍女にわたしの予定を聞いて来てもらったら……やっぱり白紙ですか。


 まぁ、いいけど。


 両親が当てにならないのは判ってたことだし。


 嫌がられそうだけど、仕方ない。学校の予定は、お祖父様に聞きに行くか。


 馬で。と言いたいところだけど、数年振りで道順の記憶が怪しい。若干嫌だけど、馬車の手配を使用人へ頼んだ。


 その間は暇だし……とりあえず、剣でも振っとくかな? と思い、庭に出て、向こうでトルナードさんに貰った短剣ショートソードを軽く振っているときのことだった。


「なにをしているの?」


 鋭い声が飛んで来た。


「? なに、とは? 見ての通りですよ」


 ビュっと、剣を振り切って声の方へと向き直る。


「なんでそんなことをしているの? 目立つ場所でこんなことしてっ、ネイトはセディーが可哀想だとは思わないのっ?」


 怒った顔でわたし睨んでいる母を見上げる。


「? どういう意味でしょうか?」

「セディーは身体が弱いのよ? 知っているでしょ? なのに、なんでこんな場所で見せ付けるようにして剣なんか振っているの? どうしてネイトはそんな酷いことができるのっ!?」

「兄上は起きているのですか?」

「え?」

「兄上が起きていて、わたしが剣を振っている姿を見て、目障りだからやめてほしいと、あなたにそう言ったのですか? それなら、もっと目立たない場所へ移動します」

「っ、そういうことじゃないでしょっ!? わたくしが言っているのは、セディーに対してどうしてそんな無神経なことができるのかと聞いているのよっ!? 誤魔化すのはやめなさいっ!!」


 朝っぱらから、怒鳴られてしまった。


 以前のわたしなら、「なにをしているの?」と聞かれた時点で母へ謝って剣を仕舞い、家の中に入っていただろう。母に、嫌われたくなくて。


 けど……ぶっちゃけ、母が怒ってもミモザさんが怒るよりも怖くないんだよね。

 いや、ミモザさんはこんな意味不明、というか理不尽? な変な理由では怒らなかったし。

 その代わり、悪いことをしたらすぐ怒られたけど。拳骨はまぁ、偶に貰ったなぁ。わたしは、ロイ程の頻度では食らってないけど。


「わかりました」

「わかったのなら、家に入って反省しなさい」

「兄上に聞いて来ます。それで、兄上がわたしが庭にいることが目障りだと言うのなら、別の場所に移りますので」


 そう言って、きびすを返そうとしたときだった。


「その必要は無いよ、ネイト」

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