季節は巡り――――


 季節は巡り――――


 わたしの誕生日には、祖父母がプレゼントを持ってやって来た。まぁ、案の定両親はクロシェン家には来なかったけど。


 両親はあまりわたしに関心は無さそうだが、プレゼントは一応毎年くれる。

 中身は大体、余所行きの洋服一揃いと靴という組合わせが多い。わたしへ渡すのはいつも乳母や侍女達で、一応・・『ハッピーバースデイ』のメッセージカードは入っていたけど。それが、父の筆蹟でもないし、母の筆蹟でもないことは知っている。


 誕生日に……具合や都合が悪くて少し前後することもあるけど、直接おめでとうと言ってくれるのは、兄上と乳母、侍女や家庭教師達。そしてお祖父様おばあ様だし。いつものことだ。


 兄上に会えないのは、ちょっと寂しいけど……祖父が、「セディーが選んだんだよ」と言って渡してくれたのはかっこいい剣の形のペーパーナイフで、次の手紙を開けるのが楽しみになった。


 わたしの貰ったプレゼント達を羨ましがって、「いいなそれ、見せてくれ」と言うロイと、「いいでしょ? ちょっとだけだよ」とそんなやり取りする姿を、おばあ様が嬉しそうな顔で見ていたのがとても印象的だ。


 お祖父様とおばあ様は、トルナードさんとミモザさんと仲良さそうに話していて――――


 翌年の誕生日には、お祖父様が一人で来た。


 その次は、おばあ様が一人で来た。


 誕生日プレゼントを持って、わたしの様子を見に来てくれて、元気であることを喜んでくれた。


 わたしがクロシェン家に来てから一年、二年、三年と過ぎて行き――――


 その間にロイとスピカの誕生日もあって、


 話の通じなかった赤ちゃんはちょっとずつ言葉を理解するようになって行って、

 いつの間にかハイハイをしなくなって、

 わたしの髪の毛を引っ張らなくなって、

 ふにゃふにゃだった身体が段々としっかりして来て、

 ねーしゃと舌っ足らずだった呼び方からねえさまという呼び方に変わって、

 ちょこちょこと走るようになって、

 自分でご飯を食べるようになって、

 赤ちゃん扱いを嫌がるようになって、

 わたしとロイの後ろをひよこみたいに付いて歩く、元気で可愛いお転婆な女の子になって行った。


 ちなみに、わたしは結局髪を伸ばすことにした。スピカに認識されないだなんて、もう二度とごめんだったから。


 どうやらわたしは、忘れられてしまうことが少し恐怖になってしまったようだ。


・*:.。 。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・


 それから――――


「だいすきです、ねえさま」


 少し大きくなったスピカは、よくそう言って、わたしにぎゅ~っと抱き付いて来る。


 毎日会っているのに、家の中でもきょろきょろとわたしを探してくれて、わたしを探しているときの寂しそうな、ちょっと不安そうな顔が、わたしと目が合うなり、パァ! っと一気に花が開くように明るくなるところなんかもうっ……本当に可愛いっ!!


 ロイは遊びに行くとき、スピカを置いて行こうとしたり、ちょっとイジワルをしたりしているけど……本当に、よくもそんなことできるよね?


 わたしには、こんな風に自分を慕ってくれる可愛い子を邪険になんてできないというのにっ!?


 だって、わたしを見るとパって走って、ぎゅ~って飛び付いて来るんだよ?

 全力で、全身で、わたしのことが大好き~! って、主張してさ?

 スピカが「だいすきです」って言うから、「わたしも大好きだよ」って返すと、本当に嬉しそうに笑ってくれるしっ!!

 ほっぺたにちゅって、キスをしてくれて、だからわたしも、「スピカは可愛いね」って、柔らかいほっぺたやおでこ、頭のてっぺんにキスを返す。


 そうするとまた、にこって笑ってくれて……


 ああもうっ、可愛過ぎるでしょうっ!!


 実はスピカは天使なんじゃないかな?


 そんな可愛いスピカをついつい甘やかしてしまって、ロイに呆れ顔で見られたり、ミモザさんにはクスクス笑われるし、トルナードさんにはわかるわかると力強く頷かれるけど……


 スピカが寄って来ると抱っこしてしまうし、

 座るときには膝に乗せてしまうし、

 自分の分のお菓子を分けたくなるし、

 絵本を読んでほしいと言われたら何冊でも読み聞かせてあげるし、

 スピカが髪の毛を結んでと言うと結んであげるし、

 自分とお揃いのリボンを付けてほしいと言えば、それを聞いてしまう。

 さすがに結い上げるまではしないけど、リボンで髪をくくること自体は特に抵抗はない。


 ロイには、「ネイサン、お前さ。青や緑はかく……いや、俺は頼まれてもリボン付けるとか嫌だが。さすがにピンクのリボンなんかは嫌じゃねーの? 我慢しなくていいんだぜ?」って、なんとも言えない顔で言われたけど、「断ると、スピカが寂しそうな顔をするんだよ? わたしはスピカにそんな顔させたくない」って答えると、ものすっご~く呆れた顔を向けられた。


 けど、実家にいた頃は乳母がわたしの髪を括ってくれて、適当な紐が無いときには自分のリボンを貸してくれてたからなぁ……

 ああでも、ロイの言う通り、わたしの髪を括るときに貸してくれたリボンは、寒色系が多かったかもしれないな? 気を使われていたのかも。


 まぁ、それはそれとして。ロイはスピカの兄のクセに、なにを言ってるんだか? 全くもう。


 わたしは単に、スピカが泣いてると泣き止ませてあげたいと思うし、スピカの笑顔が見られると嬉しくなるだけなのに。


 ミモザさんは「あら~、ネイサン君も可愛いのが好きなのね」と笑っていたし、トルナードさんは「スピカのお願いなら仕方ないよな」と頷いていたのに。


 ロイだって、なんだかんだ言いながらスピカを可愛がってるクセにさ?


 なんて言うか、あれだ。


 全力で、「だいすきですっ、ねえさま!」と、体当たりで(飛び付いて)わたしを慕ってくれるスピカがものすっっごく可愛いから、もうしょうがないよねっ!!


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