祖父母と兄上から手紙が届いた。


 祖父母と兄上から手紙が届いた。


 ネイトは元気にしている?

 楽しく過ごせている?

 困ったことはない?

 寂しくはない?

 ご飯はちゃんと食べてる?

 嫌いな物、残してない?

 向こうの家の子とは仲良くできている?


 そんな風に、わたしを心配する内容の手紙が。それに、わたしは――――


 同い年のロイと仲良くなったこと。

 ロイのお父様とお母様のトルナードさんとミモザさんが、わたしによくしてくれること。

 クロシェン一家と食事をしたこと。

 ロイにスピカという小さな妹がいること。

 スピカが物怖ものおじしない子で、わたしにすぐ懐いてくれて、よく抱っこをせがまれること。

 初めて抱っこしたときには、赤ちゃんの身体がふにゃふにゃしていてびっくりしたこと。

 ネイサンという発音が難しいのか、「ねーしゃ」と舌っ足らずな高い声で呼ばれること。

 ロイが妹のスピカを抱っこするのが上手なこと。

 スピカに泣かれると、どうしていいのかわからないでおろおろしてしまうこと。

 ロイと一緒に乗馬や剣術を習っていること。

 一緒に勉強して、お互いの得意分野が違うこと。

 ロイと一緒になって授業をサボって怒られてしまったこと。

 ロイと一緒にスピカから走って逃げたら、ハイハイで追いかけられたこと。

 スピカに髪を引っ張られるので、長かった髪をバッサリ切ったこと。

 ロイから貰ったセミのぬけがらを要らないと返したら、不機嫌になられたこと。

 ロイと一緒に庭にあるブラックベリーの木から実をもいで食べたこと。

 ブラックベリーをたくさんもいで、その汁で指先が紫に染まったこと。

 侍女達にジャムを作ってもらったこと。

 しばらく甘い匂いが手から離れなかったこと。

 スピカがジャムで顔をべたべたにしたこと。


 わたしは楽しく過ごせているから安心してね、と返事を返した。


✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐


 髪を切った後の、スピカに忘れられたかもしれないと大泣きしてしまったことは、内緒だ。あれは、すごく恥ずかしいから……あと、風邪をひいて寝込んでしまったことも内緒。


 兄上セディーからの手紙は、祖父母の家からの手紙に入っていた。そのことから、兄上が母の目を盗んでこそこそとわたしへ手紙を書いている様子が浮かんだ。


 兄上の方こそ、大丈夫なのか気になる。母は、自分が兄上の負担になっているとは全く思っていなさそうだし……元気で(あんまり体調を崩さないで)いてくれるといいんだけど。


 兄上への手紙は祖父母の家宛のに一緒に入れているが、夜はちゃんと寝てるのか気になる。

 多分、手紙を書くのも読むのも夜中だろうし。

 兄上はなかなか宵っ張りだからなぁ。少し心配だ。まぁ、母の目を盗んで夜に兄上のところに遊びに行っていたわたしが言うのもなんだけど……


 ちなみに、両親からのわたしへの手紙は一度も無い。クロシェン家宛には、お礼状や贈り物があったみたいだけど。


 まぁ、そのお礼状の内容は読んでないからわからないけど、トルナードさんとミモザさんが顔をひそめていたのを、ロイと二人でこっそり見てしまった。ロイはまた、わたしの両親に対して怒ってくれた。


 やっぱり、ロイがわたしの両親へ怒る意味はよくわからないんだけど……


 ロイが両親に怒ってくれたことで、なんかちょっとだけ嬉しくなったけど……

 その後、なぜかわたしもロイに怒られた。「笑ってんじゃねぇこのボケが」と。なんでわたしが怒られたのか意味がわからないし。前から思っていたけど、ロイは少し口が悪いと思う。


 まぁ、いいけどね。


 ああ、なんだか……


 あまりわたしに関心の無い父と母より、トルナードさんとミモザさんの方があったかくて――――


 お父様・・・お母様・・・みたいだ。


 実際、兄上はかく、一緒にいた時間も、交わす言葉も少なかった父と母よりも――――


 クロシェン一家の方が、余程家族・・らしい・・・し。

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