ナチスとの共通点

 ナチスについて一番学んだのは、ドイツに住んでいた一年間でした。


 で、今回、プーチン大統領が「ウクライナの反ナチ化を進める」と声明の中で発表していたのを聞いて、は? と思ったものです。

 というのも、プーチン大統領こそ、ヒトラーをはじめとした独裁者たちの特徴をすべからく受け継いでいるし、現在の体制も独裁と言えるからです。


 まず、侵攻のきっかけにナチスドイツとの共通点があります。


 第二次世界大戦当時、ヒトラーは「ドイツ人の生存圏(Lebensraum)を確保する」と称して近隣諸国への侵攻を始めました。

 チェコやポーランドの特定の地域には、ドイツ系住民が多数住んでおり、これらの国がナチス侵攻の標的になったのはよく知られています。

 ロシア系住民の保護を掲げ、ウクライナに侵攻したプーチンのスタンスと酷似している。


 そして、国内問題の行き詰まりに際して戦争を始めるのは、独裁者のみならず多くの国のお約束。


 就任当時、ガタガタだったロシア経済を再建した立役者と言われているプーチンですが、いま深刻化しつつある国内問題には有効な手立てがない。

 採掘量の減っている石油資源も、じりじりと悪化する年金問題も、一発で解決できる特効薬はないからです。

 ヒトラーも当時、第一次世界大戦の賠償金返済から立ち直りかけた後、ふたたび経済が悪化したドイツの希望の星と思われていました。

 ただ、国内に経済をV字回復させるようなネタはなく、戦争によって国益を引っ張ってこようとした。

 今ある問題に手は打てないけど、有権者の心が離れない何かを提供しなければ、という心理が働くのでしょう。

 国内問題から目を逸らすための戦争は、第二次大戦後の西側世界でも複数見受けられます。


 それに加えて、独裁が長引くにつれ疑心暗鬼や偏執的な考えが強くなり、周りをイエスマンで固めてしまうのも同じ。


 ナチスではないけれども、旧ユーゴやセルビアの大統領だったミロシェビッチも同様の経過を辿ったようです。

 国連職員だった明石康さんが、ユーゴ紛争に際ミロシェビッチに会った時のことを、「周囲をイエスマンで固めた結果、(皆が顔色を窺い遠慮するため)自分を取り巻く本当の状況がわからなくなってしまうという問題を抱えていた」とTVのインタビューで語っていました。


 プーチン大統領の場合、侵攻を始めるにあたって部下を呼びつけ、戦争の正当性を唱和させた、その際に恐怖のあまりとんでもない言い間違いをした人物が叱責された、との情報があります。

 また、米国情報機関が「大統領の機嫌を損ねないため、彼が聞きたくない情報は伏せられてしまっている」との発表もしていました。

 もちろんロシア側は否定していますが、いくらかの真実を含んでいても不思議ではありません。


 そんなプーチン政権が、ウクライナをナチ呼ばわりするのはなぜなのか。

 一応依拠しているポイントがあります。


 第二次世界大戦時、ウクライナはソビエト連邦からの独立を目指し、「敵の敵は味方」理論で西部の勢力がナチスに協力していたことがあります。

 結果としてはナチスに利用されて終わってしまい、独立は叶いませんでしたが、一応これがロシアによる「ウクライナはナチ」という主張の根拠になっているようです。


 数千万人の犠牲者を出しながら、ドイツとの戦争に勝利したソビエト連邦ですから、今でも終戦記念日=対独戦勝記念日は重要な位置づけです。

 だから、ナチとの戦いであれば正当化されて当然、という空気もある模様です。


 もちろん、どんな戦争も正当化できるものではありません。

 しかし、メディアも完全に独裁者の手に握られている以上、ロシア国内で疑問の声が上がるのは期待しづらいでしょう。

 国際社会がウクライナをバックアップすることで、事態の収拾を期することが今後も重要と思われます。

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