3.幼狐の抱擁

「えっ……」


その提案がそちらからされるものだとは思わなかった。というか意識を持っていないものだと普通は思う。もし茉莉が付喪神でもそう言うだろうか。


「私は皮狐娘、と言えば良いのかな?身体の中に人間を入れてその人の煩悩や欲といったものが栄養なのです。だからたまにその辺りの欲望のある人を夜中に閉じ込めて、朝になったら出してあげて不思議な夢として片付けたりしましたが、最近そういう人見かけなくて主食が食べられなくて……」


大きな尻尾をゆらゆらと揺らしながら幼女でありながら豊満な上半身をこれ見よがしに見せてくる。神と自称してたがその振る舞いは傾国の妖女そのもの。


「しかし信仰があれば少しご飯は食べられたけど、ソレさえ無くなれば夜のああいう状態になっちゃうわけで……神様を洗っていただけるだけで十分信仰です!」

「ま、まさか神だとは思わないですが?!そ、それだけであそこから此処まで元気になるのです……?!」

「今は完全ではないのですが……なので貴方の欲を私の中にぶつけてみませんか?」


言い方が完全にこの媒体で連載できない事になっているが、あくまで背中のファスナーの中である。ごあんしんください。押しかけ狐娘は首輪を取ると、背中を少しだけ開ける。すると茉莉の匂い――少し香水のかかった馨しい匂いがそれに似つかわしくないこの部屋に漏れていく。完全に彼女は人間ではないことが否応でもわかる……


「……つまり、僕がどうなるのです……?」

「私を着たあと、一時間程度私の身体……あ、私の身体に合わせられるので大丈夫です!、それで楽しんで貰えればそれでまず私は完全に力を回復できると思う!」

「……着るだけですね?完全って吸収してむちむちのお姉さんになったりしませんよね?!」

「私はこのままです?!どれだけ快復できたかを確かめますので脱ぐ必要がありますが……」


含みのある言葉で完全なる善意を向ける。その善意が本当に善意かはわからないが、少なくとも何か僕を利用して悪いことをしようという気配は感じにくい。それに背中に入っていいと言われたらそれはお昼ご飯に焼かれたステーキを前に出されて「お礼ですどうぞ」って言われるようなもので遠慮さえもしにくい。さらに彼女は僕のその遠慮したいという理性も殺しに来た。


「もし気に入っていただければ、いつでも着て良いので!」


いつでも。このロリ巨乳狐娘の身体を。色々し放題。本当に恐ろしいものを拾ってしまったよう。ごくりと息を呑む。背中を完全に開いた状態で見えるのは紅い空間、それだけ。つまり彼女の『中身』が自分になる。熱く良い匂いの蒸気がむんむんと立ちこめる。粘液が肉体と中身の肉体の保護のためにほんのり光沢し、全くグロさの無い空間が心地よさそうに映る。


「こちらはいつでも大丈夫です!入って入って♪」

「で、では……」


そっと彼女の足に向けて足を入れると、肉の温度がむんわりと肉に触れずとも臑毛を撫でる。そのまま肉圧のありそうな細い太腿に足首を入れていっても不思議と入らないという感覚が無い。肉がみちみちと音立てながら彼女の中に入っていく。


「おっ♪久しぶりの感触……っ!」


肉は気持ち良い。気持ちいいのだ。足が足まで到達してぴったり合わさると、そこが自分のジャストサイズになるようにきゅうっと少しキツめに心地良く締め上げる。


「……意外と心地良い……?!」

「でしょ!これで足は茉莉の足になったね?」


足の指を曲げると違和感なく、茉莉の足の指が曲がる。膝を動かすと茉莉の足が動く。完全に自分の足が茉莉の可憐な足になっている事に驚愕する中身とその反応を楽しんでいる皮。見ているとやっぱり決定的に異なるのは太腿と太腿の間。そこも気になるも身体は勝手にもう一方の足も入り込み、ますます下半身が幼女、完全に下半身が幼女、上半身が成人男性の悪魔合体になってしまっている。鼠径部をなぞると……当然茉莉の身体はそこはぺったんと何も無い感触が返ってくる。不思議なことにそれが自分の身体の感触として触れるのだ。太腿を触れば全く違うのにそれが自分の太腿だと。お尻をふにっと触ればそれは自分のお尻がふにっと自分のお尻を触った感触。そして腰から伸びているのは――狐の尻尾。


「尻尾も触って大丈夫です?」

「いいよ!私は慣れてるけど、人間には無い所だから慎重に、ね♪」


そーっとその大きな白い尻尾にふれると、人間に無い所、しかし自分の尻尾であるという感触が人間にもあるような未知の感覚がぞくぞくと未だ男の背筋を通り、口から出るのは男の声。


「ふゃん?!」

「可愛い声出しちゃったね♪」


気持ち良い、というよりも完全にわからない感覚に惑う人間の脳。それを煽る狐娘の顔は垂れ下がり、まだ見えていない。拾ったときと同じ姿、垂れた彼女はさらに推し進めてくる――完全に自分を茉莉にする誘惑に。


「さて、完全にこのまま私になっちゃお?」

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