第20話 お母様から愛されていたからこその婚約だったのですね


「フォスティーヌ夫人、それはどういうことですの?」


 フォスティーヌ夫人は私や亡くなったお母様が『加護を引き継ぐ者』だということをご存知の数少ない方のお一人ですわ。


 基本的に『加護を引き継ぐ者』というのは母から娘へと受け継がれるのです。


 国内にはいくつかの『加護を引き継ぐ者』の血脈があるそうですが、もし娘が産まれなかった場合はそこでその役目は途切れてしまうので、『加護を引き継ぐ者』はなるべくたくさんの娘を産むように内々に国王からの仰せがあるほどです。


 しかしお母様の場合は病で早くに儚くなったために、血を繋げた娘は私ひとりでした。


 私やお母様がどのような経緯で嫁ぐのか、嫁がないといけないのかよく理解してくださっていると思っておりましたから、夫人の言っていることの意味が全く理解できませんの。


「貴女の母親であるマリーズも、この広大なブラシュール領を豊かな土地にする為に『加護を引き継ぐ者』として嫁いだのは知っているわよね?」

「はい。母の加護の力は『加護を得られる者』の父へと引き継がれ、父はその『加護』によってこのブラシュール領を作物が豊かに実る肥沃な土地にいたしました。」


 そう、お母様はこのブラシュール領が国内有数の広大な土地であるにも関わらず、天候に恵まれず実りの少ない痩せた領地であることを憂いた国王による極秘の下命に基づいて、完全なる政略結婚により当主であるお父様に嫁いだのです。


「マリーズはこの結婚を憂いていたわ。娘であるヴィオレットが産まれたことはとても嬉しかったようだけど、ブラシュール伯爵には結婚前にすでに市井に恋人がいたの。」

「もしかして、それがお義母様なのですか?」

「そうよ。それでもマリーズとの結婚は痩せた領地を加護によって潤わせる為であり、国王からの下命でもあったから断れなかった伯爵は一度は恋人と別れて家庭を築こうとしたそうよ。」


 私の知らなかった父母の話を聞いて、腫れ物に触るようなお父様、私を嫌うお義母様の気持ちが初めて理解できて、そして納得がいきましたの。


「マリーズは恋人と別れて家庭を築こうとしてくれた伯爵には思うところがあったようだけれど、それでも『加護を引き継ぐ者』の血が続く限り、望まない結婚は当然のように国や国王に都合が良いと思う相手とさせられるという仕組みが嫌だったのね。」


 貴族にとって政略結婚は家同士のメリットで、望まない婚姻であっても従うのが当然ではあります。


 しかしお母様の思うところは、私たちのような血脈の娘が、お互い話し合う余地もないままに下命によって当然の如く人生を決められてしまうというところがなんとも悲しいと思ったのでしょうか。


 我が国は高貴な血筋である方はのぞいて、伯爵家以下の貴族に政略結婚は多くなく、恋愛結婚で結ばれる方々も多くいましたから。


「政略結婚も王命も、仕方がないといえばそうなんでしょうけど、やはり可愛い娘には自分が持ったそんな思いを少しでも和らげてあげられるようにと、よく知る幼馴染の辺境伯家へ嫁げるように手配したの。」

「それでも、国王を差し置いてどうしてそんなことができたのでしょう?私はてっきりこの婚約もはじめに王命ありきだと思っていましたのに。」


 私はずっと国王によって辺境領に嫁ぐことがあらかじめ決められていて、相手だけはお母様と辺境伯様の考えで次男であるフェルナンド様に決められたのだと思っていましたので驚きました。


「まあ、その時は国内で加護を必要するほど不安定だったのは辺境伯領だったからすんなりと国王もお許しになったんだと思うわ。それに、前辺境伯様は国王の乳兄弟でもあったからその辺りは便宜を図ってくださったのかもしれないわね。」



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