第19話 また別れさせ屋ですの?思ったよりも需要があって宜しいこと


「ヴィオレット、ご機嫌よう。急にお邪魔することになってしまってごめんなさいね。」

「フォスティーヌ夫人、お気になさらず。ようこそいらっしゃいました。」


 カーテシーでご挨拶をしてから、少し前にラングレー商会で私がプロデュースさせていただいた、数種類のハーブをブレンドしたオリジナルのお茶をお勧めいたしました。


「これ、とても美味しいわ。どこの商会で取り扱っているお茶なの?」

「……ラングレー商会でございます。」

「あら、そうなの。」


 相変わらず若々しく美しいフォスティーヌ夫人が、どこか探るような目つきで私の方をご覧になっています。


「ヴィオレット、貴女に謝らないといけないことがあるわ。」


 フォスティーヌ夫人が私に謝らないといけないようなことなど思い当たりませんわ。


「フォスティーヌ夫人が私に?どのようなことでしょう?」


 しばらく沈黙が落ちた室内で、フォスティーヌ夫人がもう一度お茶を口に運ばれました。

 夫人がそこまで言いづらいこととは何なのでしょう。


「私……実はね、貴女とフェルナンド辺境伯令息を別れさせる為に『別れさせ屋』をお願いしていたのよ。」

「はい?」


 思わず貴族令嬢らしからぬ素っ頓狂な声が出てしまったことは許していただきたいですわ。


 だって、『別れさせ屋』などという言葉はつい最近も耳にした忌まわしき単語でしたから。


「だからね、貴女が不幸せな婚姻を結ぶことが許せなくて貴女を娘にしたがっていたレオナールには悪いとは思ったけれど婚約破棄になるように『別れさせ屋』を使って仕向けていたのよ。」


 なぜですの?フォスティーヌ夫人はブルレック辺境伯様と旧知の仲で、しかも辺境の領地が隣国に脅かされている状況と、私の『加護を引き継ぐ者』としての役目はご存知のはず。


「大変失礼かと存じますが、フォスティーヌ夫人はこの婚姻がどのくらい重要なことかご存知のはずでしょう?それなのにどうして婚約破棄をさせようとしたのか、私にも納得できるように説明してくださいませ。」


 公爵夫人であり年上の方に対して失礼だとは思いましたが、思わず険しい雰囲気になってしまったのは致し方ありませんわ。


「私はヴィオレットが不幸せになることが、亡くなったマリーズの望みではないと思っているの。」


 綺麗な眉をひそめ、困ったようなお顔をしながら語るフォスティーヌ夫人のお話は私にとって青天の霹靂であると言っても過言ではないでしょう。


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