第12話 あらあら、とうとうキレてしまわれて
「ヴィオレット!先日父上がこちらに来たと聞いたが、余計なことを話してないだろうな?」
フェルナンド様は本日もお元気でいらっしゃる。
どなたかしら?フェルナンド様のことを『癒しの微笑み騎士様』とか『キラキライケメン辺境伯令息様』とかお呼びになっていたのは。
この方、私にはただやかましい鳥のようにしか思えませんけれど。
いえ、とてもお元気な殿方と言うべきかしら。
「あら、フェルナンド様ご機嫌よう。左様でございます。辺境伯様は先日確かにこちらにいらっしゃいまして、『フェルナンドとは上手くやっているか』と尋ねられましたので、正直にお答えしておきましたわ。」
「なに!?お前、私のことを父上に告げ口するなんて……何て見下げ果てた女なんだ……。」
顔を真っ赤にして怒りながらも、そのうち段々と青く変化していくフェルナンド様の様子を横目で拝見しながら、手に持った紅茶をいただく私。
「私が辺境伯様にお伝えしたことは、『フェルナンド様は時間を作って頻繁にこちらの邸に通ってらっしゃること、騎士のお給金でドレスや宝石を購入なさっている』と言うことですけれど。誰に会いに邸に来てらっしゃるのか、誰のためのドレスや宝飾品なのかは話しておりませんわよ。」
それを聞いて安堵なさったフェルナンド様はそのうちまた顔を赤くしてプルプルと震え始めました。
「お、お前のそういうところが、可愛げがないと言うんだ!」
果たして王都勤めの騎士としてすぐに感情的になり大きな声を出すなど、このような体たらくは許されるのか心底心配になります。
こちらとしても、もうずっとフェルナンド様とはこのような関係ですので少々疲れてしまいますわ。
ラングレー商会の新商品について考えるときにはとても楽しい時間ですのに。
ラングレー会長と商品のアイディアについて話し合いを行っている時と比べて、とてもつまらないやり取りですわ。
「はぁ……。」
思わずため息を吐いた時、全身への強い衝撃とともに左頬に鋭い痛みを感じて私の身体は右側へと倒れ込みましたの。
「本当にお前は私の神経を逆撫ですることしかできない女だ!父上がお前のことを息子である私よりも気に入っていることも、私の騎士としての働きが認められないことも、何もかもお前のせいだ!」
ドローイングルームの床の上に座り込んだままで頬を押さえていると、何だか急に頭が冷えてまいりました。
ずっと頭上でキイキイ怒鳴っているフェルナンド様を見ていたら、私の方は冷静になっていくのですから不思議ですわね。
「それは、大変申し訳ございませんでした。」
私の謝罪の言葉を聞いたフェルナンド様は、無言のまま急に扉の方へと足早に歩いて行ったかと思うとそのままドローイングルームの扉を勢いよく音を立てて閉め、廊下へと出て行かれました。
ここはフェルナンド様のお邸ではなく私の実家ですのに、毎度のことながらもう少し物を丁寧に扱って欲しいものです。
「ヴィオレット嬢!」
またしてもドローイングルームの扉が勢いよく開いたかと思うと、そこには何故か焦った様子のラングレー会長がいらっしゃいました。
「大丈夫ですか?お怪我は?」
「……ラングレー会長、どうしてこちらに?」
「先日お話していました茶葉とスイーツの試作品をお持ちしたところ、争うような声が聞こえたので……。それよりも、どこかお怪我を?」
彼はすぐさま跪いて両手は私の肩を掴み、美麗な額には汗の粒がうっすらと浮かんでおります。
銀髪は少々乱れて、シルバーグレーの瞳には心配の色が浮かんでいるのです。
このような無駄に色気ダダ漏れなラングレー会長に、私は不覚にもドキドキしてしまいましたわ!
このままではフェルナンド様の計画の通り、別れさせ屋として大成功ではありませんか!
さすがやり手の商会会長は、裏サービスですら手抜きなしなんですのね。
「怪我は大したことありませんわ。大きな声に少し驚いて転んだだけですもの。」
「……。頬が腫れていますよ。ヴィオレット嬢、あなたは何故そこまで我慢されるのか?」
私の頬にハンカチを当てて、整ったお顔立ちのラングレー会長が冷たい色合いの瞳でジッと真剣に見つめるものですから、先程から私の胸がドキドキして頭の方までその音がドクドクと響いて、答えるどころではありませんことよ。
「我慢ではありませんの。ブルレック辺境伯家との婚姻は私の望みでもありますから。」
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