第13話 我が国の為、ひいては商会のご商売の為にもなりますのよ


 別れさせ屋であるラングレー会長は、このような醜態を見られてなおも私がフェルナンド様と別れない理由を知りたいのでしょう。


 厳しい表情をされた会長は私の言葉の先を促すように黙って聞いてくださいます。


「恐れ入りますがラングレー会長は『加護』についてご存知ですか?」

「もちろんです。『加護を得た者』は、それぞれが最も対応に苦慮する問題に対しての『加護』が得られ、その効力はその者が亡くなるまで続くということですよね。」

「ええ、左様でございます。では、その『加護』はどのように得られるかはご存知ですか?」

「……いいえ。」


――加護についての知識は我が国でもよく知られていることですが、それがどのようにして得られるかは王族をはじめ、当事者と一部のものしか知らない事実なのですからラングレー会長が知らなくても当然のことなのです。


「『加護』は、『加護を引き継ぐ者』が『加護を者』に分け与えるものなのです。」

「分け与える……。」

「おっしゃる通りですわ。『加護を引き継ぐ者』は自分の為に『加護』を使うことはできないのです。『加護を得られる者』に分け与えることによって、初めて『加護』が役に立つことができるのです。」


 私がラングレー会長に『加護』について詳細に話すことはメリットなどなく、デメリットでしかありませんわ。


 何故なら別れさせ屋の彼にとって、この話を他に内密にするかわりにフェルナンド様との婚約破棄を私都合で行うように脅すことは、下手に恋愛感情を持たせることよりも簡単なことですもの。


「つまり、加護をフェルナンド辺境伯令息……ひいてはもしや辺境伯領に与えるための婚姻だと?」

「左様でございます。辺境伯領は特にここ二十年ほどは隣国との諍いが絶えず、不穏な環境です。それが辺境伯領に加護が与えられることによって我が国は他国からの侵略を防ぐことができるようになるのです。」

「それではヴィオレット嬢は、国の為、民の為にブルレック辺境伯令息との婚姻を結ばれると言うのですね。」


 冷たい印象の整ったお顔が苦悶の表情に変化いたしました。


 それもそのはず。


 ラングレー会長はフェルナンド様に依頼され、別れさせ屋として私を誘惑し、婚約破棄へと持っていこうという作戦でしたのに、フェルナンド様すらご存知ないこの秘密を知ってしまって国の内情に大きく関連することですし、国の安定はラングレー商会の行く末にも関わってくるでしょう。


 どうしたら良いか悩んでしまいますわよね。


 それでも、なぜ私がフェルナンド様と結婚しなければならないのかその理由を知ってもらうことで、私たちの婚約破棄が難しいと分かっていただきたかったのです。


 そもそも、婚約者であるフェルナンド様に『加護』についてお話しするのは結婚式の後と決まっております。

 本来であればそのくらいこの『加護』については多くの方に内密としなければならない事柄なのですわ。


 そうでなければ『加護』を悪用しようとする輩が現れかねませんし、実際過去にそのようなことがあったとも聞いています。


 ラングレー会長も今後の商会のご商売の為に、この国の平和はフェルナンド様のご依頼よりも大切だとご理解いただけると思います。


 今日の話を聞いて、別れさせ屋としてのアプローチは是非諦めていただきたいのです。

 その為に国家機密並みの秘密をお話したのですから。


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