第21話 魔

採用してもらった帰り道のことだった。トラックの前に4歳くらいの子が飛び出す。

ディジャブ。同時に飛び出す父親と母親。このままじゃ引かれちゃう。咄嗟にクンション剤になる結界を張る。飛ばされる両親挟まれる子供。子供の名を呼ぶ親。


だけど両親に挟まれた子供は窒息してしまったようだ。慌てて救急車をかける。そして私は両親に頭を下げた。私は結界師です。貴方達が傷つかないように結界を張ったものの子供は両親に挟まれ結界の影響を受けることなく窒息してしまったことを。


余計なことを。悪魔。化け物。一人娘を返せとさけぶ両親。救急車が来て乗って行った。余計なことをした。出来る限り魔以外に力は使っちゃいけないのに。そのせいで結局一人殺してしまった。あの子は助からない。どこから思考でどこまで言葉にしたのかもわからなくなってしまった。


帰って私は自室に閉じこもった。そのまま一日以上は眠っていたろう。次兄が兄弟を呼んでいる。私だけ抜かされた?昨日寝てしまったせいだろうか。とにかく台所に行く。私の座る場所はない。


「兄貴、私も少し食べたいんだけど」

目だけが間違いなく一瞬私を見た。後は聞かないふりされた。他の兄弟も振り向かない。これは…私は魔の目を開いた。それは居た。魔だ。取り憑かれた。


「消えなさい。私はもう貴方達のいうことは聞かない」

「どうして?君を助けれるのは俺たち魔だけなのに」

「私はもう荒れない。私はもうくじけない」

「どうかな、兄弟に無視されただけで既にに崩れそうなほど傷ついてるのに」


私は『遠路』に走る。バーも兼ねてるからまだ開いてるはず。

「桜さん。助けて!また、取り憑かれちゃった」

「泣きついてもむだだと思うけどね。自分が死んでもいいなら別だけど」


「思ったより早かったわね。すな君の話から捕まるだろうなとは容易に想像はしてたんだけど。何があったの?」

私は交通事故の話をした。

「ディジャブの利用。完全にそれ人魔ね。しかも貴方のことをよく知っている」

「一角君とデーターさんを呼ぶから待ってて。根ずかれる前に退治しちゃいましょう」


データーさんは早々に来た。奥様と一緒に。現代版ミロのビーナスだぁってイメージ。綺麗でもちょっと古いっぽい。服装のせいだな多分。化粧もしている様子がないし。ところが2時間ほど待っても一角君が来ない。寝ちゃってるのかもね。


桜さんが店を閉め、ないないさんが店に鏡境結界を張る。それぞれに防御をかけて

魔への攻撃が始まった。まずデーターさんがプログラム方面を探る。一見、実体をもった魔に見えても現代社会プログラムに支配されている魔は多い。


だがデーターさんは首を横に振った。そこで炎火さんが魔を捕まえようとするが早い。ないないさんも力を発動する。魔を目標に吸引をかけるが私の左肩が悲鳴をあげた。叫び声だけは耐えてハンカチを噛み締める。こいつもう根を張っている。


だけど10年間取り付いていた魔は体中に根を張っていた。肩ぐらいで負けるもんか。

あの時は一角君が根と魔を切り離してくれたけど…炎火さんが来て

「後で治癒が居るよ。はずれの紅病院に連れて行ってやる」

そう言うと吸引されて動けない魔を抱き掴み本体に戻る肩ごと焼き尽くし始めた。


紅病院は炎火さんのお母さん。灼熱さんが経営している裏事情、退魔師の為の病院だ。今熱さを通り越して痛みだけを感じるが治療はとことん熱い。悲鳴をあげずに治療をうけるのはまず不可能だろう。でも腕は一流だ。


ないないさんは力を使い果たし様子を見ているデーターさんと卑弥呼さんは二人でカタカタと忙しく打っている。仕事をしてるのか趣味をしてるのか戦いの道具を作ってるのか二人の性格はちょっと読めない。


そして私の肩ごと根も魔も焼き尽くして炎火さんは人の姿に戻る。その側から黒い黒い煙が噴出す魔はあっという間に元の姿に戻った。肩が熱い脈打つのがわかる。先ほどとはあきらかに違う


「炎の塊さん。栄養分にさせてもらったよ。根は凄い勢いで全身に回る。しかも生きた根としてね。取り除くにはこの子を殺すしかない。さぁ、どうする?」

魔は楽しそうにくるくるくるくるいつまでも体を回転させて笑ってた。


「とりあえず、帰りなさいきな。家から、いいえ、部屋から極力でるんじゃないわよ。あの部屋には結界が張られてるから」

桜さんはそう言うと私を家まで送っていった。


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