第16話 すなの回復を待つ

「すいませーん。誰かいませんかー?茲一さん宅ですよね須波君在宅してませんかー?」

しばらく待ったが反応が無い。私は勝手に上がってすなを探し出した。すな、すなとよびかけながら歩く。


「困った奴だな、来ちまったのかよ、こっちだよ。ついて来い」

すな!でもまた幻影?何故?ついていく私。

「ここが俺の部屋、取り乱すなよ。入っていいから」

すなは寝ているように見えた。静かに目を開く。目だけで私を見ていらっしゃいとくちが動く。発声ができてない?そっと浴衣をずらす真っ黒こげ!?私はばっと浴衣をひらいた首から下と膝から上が黒こげだった。死んでないのが不思議だ。


浴衣を着せなおし治癒の術をかける。だが私は強くない。遠路には私以外の治癒者はいないし、とにかくかけ続けた。

「そこらへんにしときな。ちからの無駄使いだ瞬間治癒じゃ治らない。一種の呪だからさ。おかげで幻影をまた使えるようになったけど、それも長くは無い客間に案内したいけどそこまで…」


すなの幻影が消えた。あの幻影も結構力使うんだ。つかわしちゃいけない。私に出来ることなにもない。とりあえず長兄に状況を説明してしばらく帰らないと伝えるとコンビニに走る食事を買ってくる日持ちのするようにおにぎりとウーロン。


一緒の布団で寝る。体が崩れてしまわないかと心配したが表面だけらしく肉はしっかりしている。それでも極力触らないようにして、彼が目をひらくと口移してお茶を流し込む。のどは鳴る。体内の機能はうごいてる。


三日目だった。私は目をまんまるくした。真っ黒だった体は普通に戻ってた。でもまだ発声までは難しそうだ。目を開くウーロンを飲ます口を離そうとすると舌が巻きついてきた。とくんとくんとくん私の心臓の音が大きくなる。今度は口付けしてみる。自分からするのは始めてだったがやはり舌がからまってくる


私は部屋をでてぽろぽろ泣いた。すなが頑張っているのに泣き顔はみせたくない。

五日目手が動いた口づけをする私の頭を押さえてくる。まだだと言いたげにその手は私を放してくれず随分と長い間口付けをしていた。


その夜すなは口を開いた。

「キスマーク付けて首に最低10個、胸に5個。結構難しいぜ」

「いきなり、そんな課題ない」

私は半泣きな顔をしながらそれでも言われたとおりキスマークを作っていく。


次の日起きるとすながいなかった。叫んで探しているとこっちーと聞こえてくる。声は台所からだった。何か作っている。覗き込むと野菜炒めだった。机にはベーコンエッグと味噌汁が乗っている。

「お前ずっとにぎりだけだったろ。まともに食べろ」

「私が作ったものは食べ物とは言えなくなるのよ」

拗ねて見せた。苦笑して皿に野菜炒めをわけるすな。


本当に何でもできる奴だ。なんでこんなに万能なんだろう。嫌になる。一緒に食事をしている時に何気なく聞いた

「一週間、すなはあんな状態だったのに誰も帰ってこなかった」

「うちは皆、退魔師だからね。帰る暇がないくらいに忙しいのさ」

「いつも一人なの?小さい頃から?」

「じー様が俺に術を教えた。小学三年だったかな。死んだのは」


私はこの広い家で一人で住むすなを思った。何年も一人であんな動けない時でも耐えてみせてきたんだ。すなが口付けをしてくる。手か胸に差し込まれてきた。震える私。

「触ってるの俺だよ。きな」

囁かれると震えが止まる。そのまますなの行動は止まらず部屋に導かれて私とすなは契りを交わした。襲われる恐怖より失う恐怖が勝ったのだろう。


明日から学校へ行くからとその日は家に帰された。私は荷物をまとめて兄に頭を下げ次の休みからはすなの家で生活を始めた。


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