第10話 幻聴視術

大丈夫、これはすながくれた愛の証。連中がつけたものとは全然違うのだから大丈夫。大丈夫。布団の中で口付けの痕に触れながら震えている私。何度も何度も大丈夫と声をじぶんにかける。だけど横切るのは犯された残像。震えて中々眠れないでいると


寝れないんだろう。怖くって。


すなの声、すなの幻影が私の上に座っている。


何これ、私、幻でも見てるの。


一方通行で悪いけど幻聴視術と言ってね。声と姿を届ける。昼間あんなことしたから今頃寝れないでいると思ってさ見に来た。正解だったね。


私は呆然と見やる。家系が古いとこんな術まで結界師は使えるのか。


そのまま横にねそべり抱きしめられる。感触は無い、寝るまで側にいるからおやすみ。


大丈夫、愛しているよと耳元でささやかれる。


私は目をつぶった。


気配は眠ってしまうまであった。



朝、すなが迎えに来る。これは珍しい。

「ごめんね、昨日変なことしちゃったから大変だったね。でも俺としては免疫がそろそろ欲しかったんだ」

「すなが側にいてくれたから安心して寝れたよ。あんなこともできるんだね」

「まあね、他にも隠し玉は沢山あるよ」


「どんなのがあるの?」

「内緒、必要になったらね。危険と紙一重だからね。昨日のも愛じゃなくてのろいのささやきだったら?」

「そっか、まぁ、いいや。私には使えそうにないし」

「ちょっと陰陽は特殊だからね」

「うん。学校行こう。遅刻しちゃう」

「遅刻してもこれだけは忘れないで」

触れるような口付けが待っていた。



学校が終わると私は急いでとある喫茶店兼バーの店に直行するギルドメンバーじゃないすなには悪いが私の部屋に直行していてもらう。今日の異変や仕事状況を聞いて何事も無ければ家にとって帰る。すなと知り合って半年。私は生まれて始めて勉強というものに真剣に取り組んでいる。それは楽しいものではなかったが充実したものだった。


すなから口付けがふってこない。こんな時はたいてい見上げると真剣に自分の勉強に取り組んでいるときだ。一声発すれば、こっちを向き、口づけをして

「どこでつまづいてるの?」

と聞いてくれることはこの半年で知っている。だが私の家庭教師ですなは首席の座を譲った。どうしても自分の勉強がおろそかになるのだ。それでも10本指に入るのだからさすがだが、真剣なときはできれば邪魔したくない。

わたしはわからない場所にチェックを入れ次の問題に進む。


高校の問題は相変わらず落ちこぼれのはずなんだが中学課程を修了したことで何故か成績は上がった。すなの基礎がができてなきゃいずれつまづくの意味を思い知らされる。知ってるだけで成績は上がるのだから。


兄がお茶を持って入ってくる。それすら気付かない集中力だ。伊達に首席入学したわけじゃないということだろう。私は唇に人差し指を立て、兄は片手でOの字を描くとそっと出て行った。今日はこのまま静かに終わるかと思ったのだが…さすがに黙ってでていくわけにもいくまい。


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