第3話 遠路

カランコロンっと音を当てて入っていくと着物を上品に着こなしたママ、桜が声をかけてくる。

「いらっしゃいきなちゃん。後ろの子は?」

「走ったのにふりほどけなかった…昨日から私の彼に立候補している、すなだってさ」

黄色いTシャツに大胆な柄のストレートズボンを履き負造作に伸ばしている髪をポニーテールした男ないないが

大声で笑う。一応私の師匠になる。

「そりゃいい体力馬鹿のきなについてくるとは男じゃないか。お前は普通の生活にも力を入れたほうがいいと思っていたんだよ。彼氏はいいぞ異性は自分に磨きをかける」


「勉強も、家庭科かも、歌も楽器もできない私だけど髪の手入れと肌の手入れは怠ったことないし、歯医者にも行ったことはない。皆と一緒にいるから日焼けはしちゃうけどUVローションだって体中にぬってるわ。毎日シャワーは浴びるし着替えもする。自分磨きは充分だと思うけど?」

むっとして言い返してやった。この体結構磨きはかけているのだ。


「兄に聞いて知ってるよ。それで色気があれば完璧だって言ってるさ。もう少し勉強もしたほーがいいかな」

「いいのよ、普通に就職する気ないんだから」

「きな!」

思わず叫んだのは赤い髪に赤い瞳をサングラスで隠し長い髪を一つに束ねている、炎火さん。しまった。ここの特殊な仕事は基本秘密なのだ。チラッとすなを見る

「何、お前、親のすねかじってニートするつもり?それとも卒業早々俺と結婚してくれるわけ?」

とおもいっきし作り笑いしてみせるすな。

「少し勉強もしろ!」

と頭を小突かれた。私より背が低いくせにぃ。生意気~っ。


「データーの蓄積はいいぞーっ。人を豊かにも凶器にもする。思考と言葉だけで人を救うことも殺すこともできるんだ。俺も勉強は薦めるがな」

ネクタイに薄いブルーのカッターシャツにスーツ姿、頭は多少はげてるのがかわいそうなデーターさん。本名は知らないがというかここで本名を名乗る必要はない。その彼は20代の若さで女の子にふられ続けている。多少難しい性格となによりはげが効いている。ここに今居るのは全員発言した。


「わかったわよ。少し勉強する」

そういうと今日の課題を片付けていく私。一教科終わると机に放り出したまま次の教科に移る。外に出しっぱなしがまずかった。すなのやつがノートを拾い上げ見てる。そしてなにげに発言してくる。

「お前、この前のテスト総合ランク何番だった?」

「250人中100番くらいだよ正確には98番」

「正確には256人中98番ってことだろう。256人ってことは普通科取ってるんだな」

「クラス見ればわかるでしょうに」

「お前のクラス尻?だろう。どこから特殊教育科か俺まだわかんないんだ」

「そんなに頭いいのに?」

「あたまはいいけど知能発達の障害があるらしい。なんでもないことがわからないことがある。98番じゃこんなもんか」


彼はルーズリーフを取り出すとカツカツと景気よくシャープペンを走らせる。何してるか聞くまでも無く秀才さんは私のノートの訂正をしているのだろう。私は次の教科に集中してた。全部終わると最後のノートを見せろと言わんばかりにすながてをだす。こいつ書くの早い。とりあえず今更、馬鹿さ加減を隠しても仕方ないので素直に渡す。


「古典好き?」

「好きってほどじゃないけどロマンがあるように感じられるから」

「ふーん。やっぱり女の子なんだよね。考え方がすごくかわいい」

私の顔が急に沸騰する。顔が真っ赤だ。だがいった本人は

「顔を赤くしてる暇は無いよ最初のノートから説明していく」

ときたもんだ。


………なんと解りやすいんだろう。学校の先生の何倍も解りやすい。ルーズリーフだけでも充分だと思ったのに彼の一言一言は頭にしみこんでいくようなわかりやすさだ。さすがは首席と言うべきか私は再び感動を受けていた。

「きなは今のところからじゃだめだ。中学からやり直したほうがいい」

人の感動を他所に手厳しいことを言ってくれるすな。

「中学からって…結局今の勉強遅れるじゃない」

「解んないところをわかんないままにすると結局は途中で躓くんだよ。少しぐらい遅れてもやり直したほうがいい。俺が責任持って教えるから」


「そんなこと言ってわたしはすなを彼氏として認めたわけではないのよ?」

「それもわかってるよ。だけど勉強はしといたほうがいい。何になるにしろ、今は学力の世界だ」

「解ったよ。でもここじゃなんだから自宅で…」

「え?家言っていいの?やったぁ」

すなが素直に可愛い顔でよろこんだ。


そうすると少し幼く感じる。私はクスリと笑った。すぐさま

「何がおかしいんだよー」

と切り返してくる。私は

「あのね、さっき荷物もってくれるって言ったときお兄ちゃんみたいだと思った。今は弟みたい」

「だー頼もしいから彼氏にしたいとか母性本能くすぐるから彼氏にしたいとかそーゆ選択肢はねーの」

とんとん、とないないがすなを突っついて

「上7人兄、下2人弟の10兄弟だきなちゃんは多少基準が兄弟になるのはゆるしてやれよ」

「あ、ああああっ、10に兄弟の紅一点っ!兄弟多い。しかも一人だけ女かよ。男勝るわけだ」


「やっぱりすな、恋人には出来んわ」

「むぅ、なんでだよ」

「さっきの話を聞いてなかったの?勉強も、家庭科かも、歌も楽器もできない私だけど髪の手入れと肌の手入れは怠ったことないし、歯医者にも行ったことはない。皆と一緒にいるから日焼けはしちゃうけどUVローションだって体中にぬってるわ。毎日シャワーは浴びるし着替えもする。自分磨きは充分だと思うけど?」

「あ…ごめん。きなはきななりに女らしさ磨いてるんだ失礼だよな」

「わかってくれればOK。とりあえず家へ案内するわ。桜さん出直すね」


「今日は大丈夫よ。おうちでゆっくりしてて」

「はーい」

「お前さ、血色が違う。外だと生き生きしてるのな」


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