5.生あんこ菓子

 オレっちは約束の時間より早く喫茶店に着いた。少しして苺粉いちこちゃんもやってきて、手に持っていた小箱をオレっちに差し出した。

 後で知ったのだけど、寿司天麩羅国では、毎年如月の倍七日ばいなのかに、女の子が好きな子に「生あんこ菓子」を渡すのが習わしとのこと。それで彼女はオレっちにくれたのだ。

 その場で箱を開けると、湯気が上がっていた。作り立てだったのだ。後で絵に描いてみた。これがそうだ。


  ∬∬∬

  ○●○

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 まあ色・形はともかく、美味しそうだと思った。オレっちは、昼を抜いていてお腹がペコリンポコリンだったから、一気に食べた。ほっぺたが落ちるくらいだった。でも、喫茶店のお姉さんから、持ち込みは禁止です、と注意されてしまった。


 これで、オレっちが地底から出てきて、四日目と五日目に経験した出来事についての話はオワリだ。

 あ、そう云えば、名前をまだ名乗っていなかった。オレっちは壱媛いちひめ。地底の最中もなか国で今、うつけ者と悪名を轟かせている尾鯛おたい昆布長こぶながの妹だと云えばわかってもらえるかな。



『後日譚』

 弥生の倍七日ばいなのかに、オレっちは苺粉いちこちゃんに麩菓子をあげた。そんな習わしはないけれど、生あんこ菓子のお返しがしたかったのだ。苺粉ちゃんは喜んで食べてくれた。

 けれど、オレっちらはその日でお別れすることになった。地上での任務がオワリになったのだから仕方ない。

 そして、最中国に戻って兄様から聞いたのだけど、地底から地上までの長いトンネルを抜けると、そこは未来だと云う。亜飲酢鯛飲博士アインスタイインヒロシ氏と云う名前の猫が発見した物理法則でそうなるらしい。

 さらにもっと驚いたことは、あの苺粉ちゃんは、オレっちの孫娘だったのだ。

 まさか自分の孫娘と恋に落ちるとは思いもしなかった。血の繋がりがそうさせたのだろうか。いやまあ、それとは無関係に可愛かったのだ。あの子は。

 また会いたいなあ。会えるはず、きっと。

 それより気掛かりなのは、気性の激しい兄様が寿司天麩羅国を支配下に置く、などと云い出さないかどうかだ。今は、まだ最中国を統一しようとしている最中だから問題ないだろうけど、将来そんなことになるのかもしれない。そんな悪い予感がする。まだ先のことだ。そうなったらなったで、オレっちが間に立ってなんとかしよう。

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