第6話 昨日の敵は今日の友

プイプイ


手のひらをモルモットに広げるとモルモットは 手の上に乗っかって来て、そのまま丸くなって眠ってしまった。

手のひらに寝ておいて「当たり前だよ」って顔で眠っている姿が憎めない。

そう言えば 洗礼の儀式は終わっているみたいだけどこの部屋には窓もない。

ローソクは灯っているけど 昼なのか?夜なのか?もわからないし狭い部屋だから少し息が詰まる。

それからこれだ。

俺の腕には青いヒモのブレスレットが巻かれていた。

プレゼントなのかな?だれの? 言うまでもないよな。

涙が出てくるよ。


数滴落ちた涙にプイプイと鳴いて「雨が降ってきましたよ」と飼い主に教えてくれるモルモットだけど

そのフカフカなタオルで涙を拭かせてほしいよ。

そしたら涙が止まるかもしれない。


プイプイ?

「冗談だよ ほ~ら ベッドの布団にくるまって雨宿りしていてくれ」

ローソクのせいで部屋も暑いし俺の気持ちも高ぶっているみたいだったけど モルモットはお構いなしに布団にくるまって遊び始めていた。


ドアが空いて 部屋の熱気が外へ出ていくと神父様が入ってきた。

神父「ようやく目覚めたかトシユキよ。先ほどの事じゃが・・なので・・ジェニーの事は忘れるのじゃ。15になったお前だけに話すが ジェニーの父親の機嫌が良くなったのは 噂では金貨1枚を受け取ったかららしいのじゃ」


プイプイ プイプイ


トコトコと短い脚で可愛く走るモルモットを横目に 俺は「体当たり」を使わなかったことを後悔した。


プイプイ プイプイ


今度はどうしたんだい?

モルモットが俺に登ろうと挑戦している。何度も挑戦するけど垂直に登るのは無理だよ

落っこちては お腹のぷにぷにを俺にさらすことになる。 可笑しいよ。笑ってしまう。はははは


そう言えば 俺が倒れていたときもずっと そばにいてくれたんだろ?

もしかして お前は俺を守ってくれていたのか?


プイプイ プイプイ


モルモットのおかげて 幸せな気持ちを貰うことができた。


「名前はモコ助だ。よろしく」

プイプイ


召喚についても話をしたけどモルモットを召喚した者の事は知らないらしくて「魔獣」の効果や特性が書かれている書物ではわからないと言うことだった。


ドラゴンだったらブレス

デスウルフなら雄たけび

モルモットは・・ 笑顔かな?

だけど 能力はそのうちわかると思うし、15歳になったらモコ助たちの力を借りて何とかしようとしていたなんて今考えたら笑ってしまうよ。

プイプイ


神父様にお礼を言って教会を後にした。

次に向かうのはジェニーの家!と言いたいところだけど

まずはギルドへ行こう。

「召喚士」になれたら 冒険者登録だけはしておこうと決めていたんだ。


ギルドの重たい扉は大人になったので一人で開いた。

以前と変わらない光景で、幸せだったあの頃に時間が巻き戻った思いがした。

そう言えば あのときの受付嬢のお姉さんはどうしているだろう?と何気に思い出していくつか用意されている受付カウンター見ると、その隅の方にあのお姉さんが座っていた。

カウンターに座ると「あなた。召喚士になったのね。おめでとう。」とこちらの事は知っているようで 子供の頃に見たお姉さんよりも見た目は落ち着いていたし、声も経験を積んでその声色は澄んでいた。


カウンターの机に両手を組んで 何かのリズムを取り始めたお姉さんは照れ臭そうに上目遣いに俺を見る

「ねえ 受付の仕事をする前に一つだけ 教えて。。もしかして 私に会いに来てくれたのかしら?」と言われたけれど 「冒険者登録にきました」と素直に答えた。

少しばつが悪いかと思ったけど お姉さんはそんなことはお見通しといった感じですでに答えがわかっているようだった。

安心して過去を振り返るかのようにゆっくりした口調で話し始めた。

「あのときは、ごめんなさいね。あの頃の私は若かったのよ。運命やチャンスが巡ってこないだけで自分には何でも揃っていると思っていたわ。話を聞いてくれてありがとう。」そう言うと 別の魂が体に入り込んだかのように気持ちを切り替えて「それじゃぁ 気を取り直してギルドへようこそ・・冒険者登録ですね かしこまりました。」と受付をしてくれた。


お姉さんのおかげで簡単に冒険者になることが出来た。

「ジョブ:召喚士/農民」と刻まれているカードを見ると 大人になった誇らしさで体が震えてきた。

でも お姉さんにも聞かれたけど 召喚士の召喚獣について相談することにした。


「なるほどね。召喚は使えるけどモルモットしか召喚できないといのね」と話を聞いてくれてバカにすることもない。ホホに人差し指を当て頭の回転が速そうなポーズをすると 「それならモルモットを直接調べてみましょうよ。人間用の装置だけど この子達なら使えるはずよ」とアイデアを出してくれた。


プイプイ・・べたぁ・・プイプイ


水晶の上にモルモットを乗せると 足の引っかけるところがないからか

べたっりと 水晶玉にへばり付いた。


「いい感じね。 冒険者よりも上手だわ。ふふふ」


水晶:「種族名:モルモット」「スキル:底なしの胃袋」「浄化・毒耐性・火耐性・・闇耐性」「幸運のギフト」


モルモットは食欲旺盛だし 浄化は持っていそうなイメージもあったけど「幸運のギフト」ってスキルを持っているんだな。

このスキルは 生涯に一度しか使うことが出来ないスキルだ。

持っている人はラッキーというか大抵がおじいちゃんやおばあちゃんがこの世を去るときに子供や孫の幸せを祈って使うような。

最初で最後の幸運を送ることが出来るスキルなんだ。


もしかして 俺の召喚したモルモットたちが自分の命を犠牲にして俺を助けてくれたのか?と思ったけど

お姉さんは召喚獣の場合は勝手が違うと教えてくれた。

「それはないですね。人じゃないので。。ちなみに まだ召喚できますか?」と聞かれたけど

さっき 眠ったから召喚はできそうなので一体のモルモットを召喚してみた。


ボン!


煙の中から出てきたのは 儀式で召喚したモルモットだ。

どうやら 難しい話は分からないけど、次元を超えることで「幸運のギフト」の発生条件は満たされるらしい。

でも そんなことはどうでもいいんだ。

プイプイ

ごめんよぉ~ 心配したよ シクシク・・。

抱きかかえて 顔にスリスリをするとモコ助はエサをくれると思ったのか鼻をヒクヒクさせてすり寄ってきた。

お姉さんはスカートを追ってしゃがむと俺と目を合わせて「底なしの胃袋にすごい耐性の数ね。そうよ。破棄しようと思っていたけど、あなたにピッタリの仕事があるのよ。初仕事やってみない?」と聞いてきた。

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